また安倍政権の嘘が明らかになったようだ。ここでは主語を政権としているので官邸が嘘をついたように聞こえるかもしれないのだが、実際には官僚が嘘をついているのか、それとも官邸が嘘をついているのかはわからない。いろいろな人がいろいろな嘘をついていて結果的に誰が何を言っているのかがわからなくなっていること自体が問題なのだが、それでも我々の毎日の生活はなんとなく成り立っている。
ご存知のように政府は入管法を改正し移民政策への大転換を進めている、池上彰は「移住者というステータスを与えずに使いつぶすための方策」と切り捨てている。マスコミが政府見解しか伝えなくなったのと同時進行で、中にいるジャーナリストたちが個人の立場としては政権の嘘へのお付き合いをやめているというのは実は大きな変化なのかもしれない。もう政権が気に入らない人たちが躍起になって嘘を認めさせようというフェイズは完全に終わってしまったのだ。
政府は「万全な対策をとる」と言っているのだが、現在の政府には新しい入管法を管理する能力はないだろう。それどころか、現在の技能実習制度も人権侵害が横行しており、政府がうまく管理できていないようだ。
日本では逃げ出した技能実習生は犯罪者として扱われる。もし技能実習生が適切に扱われているという前提があるなら「身勝手な技能実習生が贅沢を目指して逃げ出した」という批判にもまだ合理性はあるかもしれない。しかし実際にはどうやら労働基本法違反が横行していたようであり、官僚組織もそれに加担していたようだ。
実態を把握しつつ対策を取らなかったことを野党に知られると管理責任を問われるかもしれないと考えた法務省は野党議員に嫌がらせをすることにした。資料を持ち出したりコピーしてはいけないというのである。しかし、書き移すなり写真を撮影すればすぐにバレてしまうのだから、官僚がもう何も考えられなくなっていることは明らかである。
一度断られた野党議員たちはわざわざ書き写しのデモンストレーションを敢行した。数千の数なのだからやってやれないことはない。(日経新聞)その結果は衝撃的だった。67%が最低賃金以下で働かされていたという。法務省はもともと最低賃金以下で働いていた人は全体の0.8%だと主張していたので、これは明らかな嘘だったわけである。つまり、官僚組織はこの技能実習制度が低賃金労働の温床になっていたことを知っていて報告していなかったのである。
政府・自民党はは財界の要請を受けて外国人労働者の数を増やしたい。しかしこれが移民政策であることは明らかなので、あまり議論をしないままで進めたいのだろう。時間がないといって審議時間を最低にして逃げ切る「作戦」だったようで、安倍首相はG20を言い訳に海外視察にでかけてしまった。ところが、既存の制度を適切に運用していなかったためにパンドラの箱が空いてしまった。つまり現行の制度さえうまく運営できていないということがわかってしまったことになる。直ちに政権に影響はないだろう。だが、普通の感覚を持った人はもはや政府のいうことは信任しない。
これはマインドセットだけの問題である。人間には正常性バイアスというものがありシステムはうまく行っていると信じたい。日本人には特にその傾向が強い。ところが、一度それが「ああ嘘だったんだな」と腑に落ちてしまうと、そのシステムを信用しないことを前提に行動を組み始める。日本の場合、組織立ったままで無政府状態が進行することになるのだろう。
この意味ではフランス(黄色いベスト運動は結局課税の先送りを実現した)や韓国などの民主主義とは違っている。彼らは表立ったところで行動して政府にわからせようとする。日本も民主主義国なのだが表立ってわざわざサインなどを送ったりはしない。自分自身の行動に照らし合わせてみると良いのだが、システムが信頼できなくなると「自分でなんとかする余力を残そう」という努力が始まる。それが部分最適化につながるのである。
そう考えると現在の官僚の嘘も特別会計のような制度も最初から政治家への不信感からできたものだという気がしてくる。国会が風向きで変えてしまうような単年度予算は信頼できないから特別会計を作って事業単位で蓄財するのだろうし、自分たちの再雇用先を自分たちで準備しようとしてきたのだろう。ある意味、昔から全く同じことを繰り返しているのだ。
加計学園問題や森友学園問題のときもそうだったが「現場が勝手にやったことだから俺たちは知らない」と逃げようとした。同じように技能実習生の問題も「自分たちは適切な制度を作ったが現場がうまく運営してくれなかった」となる。だから、官僚はすぐバレるような嘘をつく。背景には「きっと守ってくれないだろう」官邸への不信感があるのではないだろうか。
前回書いたように、この件の本当の問題は「官邸にも本当の情報が上がってこなくなる」ことではないかと思う。つまり、同じような現場の自己保身は確実に官邸についても行われているはずで、官邸にも「正しい情報」が上がってきているとは思えない。その結果として起こるのが部分最適化である。
安倍政権はその意味では昔からあった、有権者の政治への不信感や官僚組織の政治への信頼のなさを再確認させただけなのかもしれない。