ざっくり解説 時々深掘り

安倍首相の運転するバスは高速で走っている。運転手は何かを操作している。だが、実は気を失っているようだ。

安倍政権は順調に暴走しているが、どうやらこの暴走の様子が少しこれまでとは違っているようである。

外国人労働力の受け入れを短時間で決めてしまった。外交で忙しいから国内の法律はさっさと片付けたいのだという。法案の中身がスカスカだと批判するのは普通は野党だけだ。しかし今回は大島理森衆議院議長も懸念を表明しており、実施段階前にもう一度準備状況を国会に報告するように求めている。(毎日新聞)さらに、政府は「アメリカから一兆円分の戦闘機を購入する」などと言い出しているようだが、こちらも自民党の中に根強い牽制論がある。自民党の一部が「2020年までに国産機開発を始めろ」と圧力をかけている。(日経新聞)さらに、憲法審査会も安倍首相の指示を通さず今国会中に自民党独自案を出すのを諦めたようである。(毎日新聞)公明党も選挙前には波風を立てて欲しくないようで、あまりにも性急だというわけである。

ここからわかるのは、安倍政権では海外人材の安価な調達や水道の民間企業解放などといった財界からの要望がある問題については野党を無視してでも法案を通そうとしているが、それ以外のことでは自民党と官邸の足並みが揃わなくなってきているということである。つまり、官邸は自民党政権を守るために動いているわけではなくなっているということになる。野党支持者は政権維持と選挙で勝つために安倍政権が自民党ぐるみで暴走していると思いたいのかもしれないが、必ずしもそうではなさそうなのだ。だが、何が起こっているのかを明確な証拠から分析することは難しい。

ここで安倍晋三という人が「自分を支持してくれている人や気に入ってもらいたい人」には何がなんでもいい顔をしたい人だという仮説を立ててみたい。安倍首相が気に入ってもらいたいのは、アメリカ(トランプ大統領)、財界、それに自身の母親である。ただ、この「気に入ってもらいたい」のやり方が普通の人とは違っている。

憲法改正については祖父の悲願ということになっているのだが、母方の祖父から政治的に薫陶を受けたわけでもないし、岸信介の婿であった父親の悲願でもなかった。そうすると母親から不完全な形で受け継いだものに、いわゆるネトウヨと言われる人たちからの入れ知恵が入っているのではないかと思われる。このため、安倍首相の考える保守思想には背骨がない。本来の保守主義者は急激な移民の流入による社会の変化を嫌うはずだが、安倍首相にはそのような気持ちはないようだ。さらに、独自憲法を作りたいといいつつ「みっともない憲法を押し付けた」アメリカの機嫌ばかりを取ろうとしている。これも保守とは違っている。

ここから合理的な構造を取り出すのは難しいのだが、この憲法を変えたいというのは誰か別の人の指示であり、なおかつ具体的な道筋については聞いていないという可能性が浮かんでくる。つまり、この人はこう言っているから多分こうなのだろうという類推を安倍本人がしているということだ。

では、なぜ安倍首相は他人の機嫌ばかりを取ろうとするのかという問題が出てくる。おそらくは「自分自身がない」ために「他人に何かしてやること」を自身の存在価値だと勘違いしているのだろう。というより自分がないからこそ、相手に何かをしてやっている時以外に有能さを感じることができないのかもしれない。

自分がある人は当然他人にも自己があると類推するのだから、その人の主張が「本当はどういう意味なのか」ということを聞いて確かめるはずだ。本当には国のためにならないと思えば説得もするだろう。だが自分がないゆえに安倍がそのような説得をすることはない。このため例えば界にとって安倍はいい人だろう。

機嫌を取ろうとしたらへりくだった態度を取るはずなのだが、安倍首相にはそのような姿勢は見られない。むしろ「してやっている」というように考えているとすれば彼のこの不思議な態度に説明がつく。

この自分がない人が危機を感じるのはどんなときなのだろう。有能感の基礎になっているのは他人のご機嫌なのだが、これを自分の資質や価値だと勘違いしている。例えばトランプ大統領の機嫌が悪かったり、国会で野党が怒りした時がそれにあたる。外交とは彼がヒーローになれる好ましい空間であり、国会は彼にとっては非常に苦痛な場である。G20を口実に予定の埋まっていない外交に逃避したのは彼が自己の喪失を感じているからだろう。彼は有能な人間であり続けるためにバラマキによって得られる賞賛が必要なのだ。

このことから安倍はなぜ野党が怒っているのかということがわからないはずである。一方で彼を遠巻きにして距離を置いている人との間にはそれほどの危機感を感じていないのではないだろうか。例えば外に酒場を作ったり、トランプ大統領との会食の席でお酒の失敗をする安倍昭恵夫人がなんらかの不満を持っていることは確実だが、彼女が安倍首相に怒り出さない限り「ああ、人間関係とはこんなものか」と思っているはずである。

安倍晋太郎元外務大臣が「安倍晋三には政治家としての情がない」といったという有名な話がある。普通は「政治家としての思いやりがない」と解釈されているのだが、実際には人間としてのコアにある価値体系というものが存在せず、そうした信条を通じて自己と他人と結びつけられないという意味だったのかもしれない。

いずれにせよ、彼の不誠実な態度は周りを怒らせる。すると安倍首相は機嫌が悪くなり、別の誰かに八つ当たりをはじめる。実は「何かをやってもらっている人」も「本当はそういうことをやってほしいと思っていたわけではないのだけど」などと思っているかもしれない。自分がない人は相手を見ているようで実は見ていない。彼が見ているのは自分の中に勝手に作られた他人という虚像である。これが体系化されずに個別の言動としてのみ宙を舞っているのである。

八つ当たりされた方が最初は「自分に落ち度があるのでは?」と考えるだろう。だが、いずれそうではないことに気がつく。つまり「自分がない人」は常に他人との関係で勝手に心が揺れている。つまり自分には関係がないということがわかるのだ。喜ばせようと機嫌を取っても感謝はされない。突然怒り出しても、それは全て理不尽な怒りである。

八つ当たりされていた人たちはやがてこの「自分がない人」を遠巻きに見るようになる。八つ当たりと言っても何か言いがかりを付けられることがなければ何も怒らない。するとできるだけ相手にせず、当たり障りのない報告だけをし、できるだけ問題を表ざたにしないようになるだろう。「扱いにくい」人はこうやって周りから疎外されてゆく。だが、自分がない人は遠巻きにされていることに気がつかない。元から信条の通い合いはなく、人間関係とはそもそもそんなものだからである。

これが政府では蔓延していて、問題が起きた時にいちいち調査チームを作って内情を探らなければならないほどに広がっている。このままではお互いに連絡がとれなくなり、統一された政府ではなく各省庁や部局の集合体になってしまうだろう。そして安倍首相の周りには同じように信条がない人たちだけが集まってくる。ネトウヨの真の恐ろしさはそこにある。彼らは何かの意図を持っていてあんな酷いことを言っているのだろうと思う人が多いだろうが、実は意図など何もないのだ。

「自分がない人」は他人の動機で動いているので、説得したり共感することができない。とはいえ、その他人というのは実は他人そのものではなく勝手に脳の中に組みあがった虚像である。

日本政治のこの状況は極めて深刻である。安倍晋三という人がなぜこのようになったのかということは誰にもわからないしどうでもいいことだ。選挙優先の家で両親にかまってもらえなかったのだという指摘もあるが、安倍家の問題であって我々には関係がない。

ただ、この明らかに人格になんらかの問題を抱えている人を誰も止められなくなっているという点は問題である。もともと強いリーダーシップを嫌い中心に祭りあげるべき存在を作る日本では、無力な中心が暴走すると誰もそれを止められなくなる。

安倍首相が祭り上げられたのは岸信介の孫という血統的ブランドとその無力さゆえだったと思う。頼みごとをすればなんでも聞いてくれるいい人であり、周りの矛盾を吸収してくれる便利な人だったのだろう。ただ、亥年選挙を前にして自民党は安倍晋三を持て余し始めているようだ。

高齢者を中心とした新聞の世論調査では半数以上が安倍政権を支持しているという。私たち有権者の中にもこれまでと同じようオリンピックや万博を誘致して、地方に交通インフラを整備すれば昔のようになれると思っている人が大勢いるのかもしれない。

よく安倍首相は「ヒトラーのような独裁者で日本を戦争に導こうとしている」と言われるが、この分析は実はかなり危険だと思う。官邸が個人の欲望で動いているならまだ説得ができるし、なんらかの方法で「気持ちを折れさせる」ことも可能だ。しかし、自分の中を探してみたが本当にやりたいことが何も見つからないという絶望を抱えて走っている人の中に育った「誰かのために働いていて有能な自分」という虚像を止めるのはとても難しい。

もちろん、今回の分析は全て確証がない。ただ何かがおかしいのは確かだし、その深淵を覗こうとしても何も見えてこない。バスは高速道路を全速力で走っている。確かに、運転手は前をじっと見つめており、ハンドル操作もしているように見える。でも何かが変なのだ。みんなうすうす「あれ、この人はおかしいのでは?」と気がついているのだが、誰かが「この運転手は気を失っている!」と感じた時にパニックが始まる。だから、誰もそれを指摘できないのだろう。これが一番恐ろしい点だと思う。

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