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竹下亘さんの亡国消費税論

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朝日新聞が「消費税10%打ち止めとはいかない」という記事を伝えている。竹下亘前総務会長が公演で語ったもの。これを読んで「このままでは本当に日本はだめになるなあ」と思った。

第一にこの発言がどのような文脈で出てきたものかがわからない。従って読み手は好きなように読むことができる。憲法議論を優先させるために消費税の増税をまた延期にするのではないかという周囲の懸念を念頭に発言したのかもしれないし、また別の意図があるのかもしれない。朝日新聞は自社に都合の良いところを切り取ることで「自民党は消費税をどこまでも上げるつもりだ」とTwitterなどで騒ぎになるのを期待しているのかもしれない。そうなると「ネットでこのような騒ぎが起きている」という<事実>を伝えられるようになる。だが、新聞は自分たちが矢面に立って政権批判をすることはない。日本のエスタブリッシュメントにはこのような小賢しい側面があり、それが特に朝日新聞が嫌われる原因担っているのではないかという気さえする。

では竹下さんがいいことを言っているのかというとそうでもない。周囲が自分の観測を好き勝手に述べることで社会にどのような影響があるのかということをまるで考えていない。

今回の消費税議論の前提は10%への増税である。増税そのものは決まっているので、これに付随してどのような景気浮揚策を打ち出すかということが焦点になりそうだ。ここで、表向きは10%議論をしながら、裏で「これでは終わりませんよ(終わらせませんよ)」と発言すると、場合によっては「これより寒い冬が来る」として身構える消費者が増えるだろう。

竹下さんは財政再建と消費税増税を結びつけているだけなのだが、消費税議論はすでにごちゃごちゃになっており、福祉財源が削られる可能性があるのだなと捉える人もでてくる。安倍首相は別の場所で老人は70歳までは働けと言っている(見出しだけを読むとそう聞こえる)ので、将来を楽観視できる人がいたらかなりおめでたい人だということになるだろう。これでは景気浮揚どころか景気を半永久的に凍結させてしまう。いわばデフレマインドの復活である。

消費を冷え込ませるのは政策ではなく、政治家の不確実で不透明なメッセージだ。すでに安倍首相は自分がどんな嘘をついているのかすらわからなくなっており、受けての戸惑いは増すばかりである。

消費者が防衛的になれば新しい製品は売れなくなるだろう。これまで日本の製造業は国内の市場で実績を作ってから海外に打って出るという成功体験を持っていたのだが、このままでは日本の製造業は完全に立ち行かなくなる。つまり、法人税を優遇して国内に企業を引き止めても有望な企業は国内市場に見向きもしなくなるということで、残るは海外に出て行けず補助金を当てにしなければやってゆけない「お友達企業」ばかりということになる。しかし、豊洲・築地や代々木の問題を見てもわかるようにお友達企業は競争力を失っている。ゼネコンはもはや市場すらまともに建てられない。

一方、このメッセージが真剣に受け止めらない可能性もある。つまり二度あることは三度あるとしてこの種の発言が無視されてしまうというシナリオである。すでに安倍首相は選挙直前に撤回するために今言い出したのだと警戒する観測がある。今度は逆に財政上の不安定要素になる。竹下さんは「どうせ自分が何を言っても、最後は安倍首相が勝手に決めてしまうのだろう」と思っているのだろうが、この発言で反発が高まれば逆に「消費税を上げない」という圧力が増す。反対されると強がって逆のことをやるのが安倍晋三という人であり、そこに大したロジックはない。

竹下さんの無責任な発言の裏には「どうせあと三年は冷や飯だろう」という諦めがあるのではないか。産経新聞は同じ北九州発の発言として「ノーサイドにして安倍政権を支える」というようなことを言っている。朝日新聞が「都合の良いところだけを摘んだ」ことがわかると当時に、これを額面通りに受け取る人はいないだろうという予測もつく。つまり産経新聞側も「党内が一致団結して安倍政権を支える」という王朝神話を作りたいのだ。実際の竹下派は参議院派閥をまとめきれずになし崩し的に個別の判断で石破支持に回ったという中途半端さがあるので、今回は賊軍であり、そもそも派閥として期待もされないのではないだろうか。

安倍政権を支えるということは石破側とは距離を置くということである。次回の総裁選のために政策を整えて捲土重来をなどとは決して言わない。次の政権が消費税増税を決めるわけで、石破支持であれば次は石破さんということになる。その石破さんに「あなたは消費税にチャレンジして討ち死にしなさい」と言っていることになるが、そこまでの本気度はなく「単に言ってみただけ」という諦めが感じられる。「自分たちが政権を作るわけではない」という無力感があるが、それは正面から受け止められないので「ご意見番」的なすり替えを行っているのではないか。竹下派は吉田の流れをくむ保守本流だが、衆議院議員が多く脱落し、党内での影響力を失った公家集団になっている。つまり「出世はできないがプライドは高い」という人たちなのである。

さらに政治的姿勢も消費税増税に向けた素地を作ろうという気迫を感じさせるものではない。国民に消費増税を説得したいならば、これまでの筋からいえば行政改革や議会改革を行うべきだ。しかし、竹下はそれをやっていない。竹下亘は島根県の選出である。山陰地方の議員たちは自分たちの既得権を守るために「議席を増やしてでも県ごとの議席は守るべきだ」と考えており、改革に逆行した思想を持っている。つまり、自分たちは身を切る改革はしたくないのだが、それでは財政改革ができないので「国民から税金を絞りとれ」と主張しており、さらにそれが政権に影響を与えないであろうこともなんとなくわかっている。これが、結果的に自分たちの利権である議席さえ守れれば国がどうなっても構わないという亡国的な思考につながっている。

この人たちが厄介なのは「自分たちだけは国のことを考えている」という超然さを装っているという点である。だが、実は過疎を背景とした危機感と党内で影響力を行使できないという無力さでいっぱいなのではないだろうか。

よく安倍首相は独裁を志向しており日本を戦争に導くから日本が心配だという人たちがいるが、これは間違っていると思う。実際には「どうせ自分たちが立派なことを言ってみたところで状況は変わらないし、これまでも何もできなかった」という無力感が国を内側から蝕んでゆくのだ。

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