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韓国ではどうしてサマータイムが実施できたのか

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森元首相が「オリンピックでサマータイムを導入したい」と主張してからしばらく経った。総裁選を挟んで一旦休戦ということになっているが総裁選が終わればまた政治的なアジェンダに復帰するはずである。この件について韓国の事情を調べた。そこから見えてくるのは森元首相が自分を独裁者だと思い込んでいるという可能性だ。

韓国ではソウルオリンピックに合わせて時間が変えられた。もちろん韓国特有の事情もある。そもそも標準時の子午線が韓国国内を通っていないので標準時を決めると30分ずらすことになる。だがそれでは不便なので日本か中国のどちらかに合わせる必要がある。結局日本と同じ時間を使っているので普段から30分早い生活をしていたのである。さらに、この当時の韓国は全斗煥大統領時代だった。この第五共和政は極めて独裁色の強い政治体制だった。全斗煥大統領は前任が暗殺されたあとの粛軍クーデターで実験を掌握したのである。

軍を粛清して国を引き継いだ全斗煥大統領は、国民に妥協的な政策をとりつつ、国家プロジェクトとしてオリンピックを招致した。だがそれでも豊かになりつつあった国民の反発が強く形式的に体制改革を進めて第五共和政を実施するのだがこれが受け入れられずに暴動が発生した。そこでそこで当時の大統領候補が民主化宣言を出した。これが1987年の事である。ソウルオリンピックはパルパル(88)五輪とも呼ばれた。

治安が悪化した場合オリンピックがロスアンジェルスで代理開催されることになっており、これを避けたかった政権側は「政権を禅定する代わりにデモを収束させて欲しい」と国民に依頼したという経緯がある。つまり、オリンピックを成功させることを条件にして民主化を成功させようというのだ。後継に指名された候補は「民選にする」と約束して事態が収束した。朴全大統領が退陣した時のデモが話題になったが、韓国の大統領選挙はそもそも国民が獲得した権利だった。

オリンピックでサマータイムが導入されたのは1987年なので、これを決めたのは独裁の色彩が濃かった全斗煥大統領であろう。独裁的な政権だったからこそ導入ができたことになる。韓国は「漢江の奇跡」に代表されるように強い独裁的なリーダーシップのもとで国家事業を推進してきた歴史がある。オリンピックもこうした国家事業の一つであり国の時間を変えることも厭わなかったことになる。

ではなぜ韓国は時間を変えてまでオリンピックを実施しようとしたのか。それはアメリカのテレビ放送の都合である。京郷新聞は次のような記事を出している。()内の日本語はこちらで補足したが語順が日本語と同じなので何を言っているのかはわかると思う。

서머타임(サマータイム)은 해가 일찍 뜨는 여름철에 하루 일과를 빨리 시작하고 마감할 수 있도록 표준시간을 1시간 앞당기는 제도다. 우리나라는 1949~1961년까지 서머타임을 실시했다. 표준시를 135도로 옮기면서 폐지됐다가 26년 만인 1987년 5월10일 (1987年5月10日)다시 부활했다. 서울올림픽(ソウルオリンピック) 때문이었는데 이는 골든타임(ゴールデンタイム)을(を) 확보해(確保し) 미국(美国・アメリカ) 방송국(放送局)들로부터 중계권료(中継権料)를(を) 높게(高く) 받으려(受ける)는(ーという) 목적(目的)이(が) 있었다(あった).

원문보기:
http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?art_id=201105092121025#csidxff77fb38228428eb4aa44cb57c1a383 

しかし、市民生活は混乱する。

당시(当時) 신문(新聞) 기사(記事)는(は) 서머타임(ソモタイム・サマータイム) 실시(実施) 첫(最初) 날을(日を) 이렇게(このように) 그리고(描いて) 있다(いる). ‘다방과(喫茶店) 음식점(レストラン)에는(は) 시간이(時間が) 엇갈려 (すれ違い)서로(お互い)를(を) 찾아(見つけ) 헤매는(迷うの) 풍경이 (風景が)이어졌고(続いて) 공중전화(公衆電話)의(の) 줄(列)은(は) 줄어들(減少) 줄(を与える) 몰랐다(知らなかった). 예식장과(結婚式場と) 터미널에(トミノル・ターミナル)서도(でも) 시간(時間)을(を) 착각한(勘違いした) 하객과(ゲストと) 승객들(乗客)의(の) 불만(不満)이(が) 끊이지(絶え) 않았다(なかった).’

원문보기:
http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?art_id=201105092121025#csidx9eb1d267fb58e61a953e8a08c79481c 

Googleを頼りに和訳すると次のようになる。

当時の新聞記事は夏時間実施初日をこのように描いている。「喫茶店や飲食店には時間が行き違ってお互いを探し回る風景が続き、公衆電話の列が途切れることはなかった。結婚式場とターミナルでも時間を勘違いしたゲストと乗客の不満が絶えなかった。

中央日報は2007年に次のような記事を出している。

 次に88五輪当時、臨時に取り入れた経験が挙げられる。西欧先進国の都合に合わせるための制度という認識が根深く刻印された。その後、2年で廃止された。そのためサマータイム制導入と廃止でますます混乱は大きくなった。サマータイム制による混乱が大きくなると思う理由である。

国民生活を混乱させたばかりか、その後「サマータイムはこりごりだ」という認識が生まれたのである。

平昌オリンピックでも時差がないはずの日本人が「ゴールデンタイムにオリンピックの代表競技が見られない」という事態になったが、これもアメリカのゴールデンタイムに合わせたものをと思われる。ここでも韓国は放送権料のために「自発的サマータイム」を実施したのである。

日本でも同じようにアメリカのゴールデンタイムに合わせて放送権料を高く売りたいのだろう。しかし、それに合わせて電車の時間を早めてもらったりするとお金がかかる。ただでさえオリンピック予算は膨らみ続けており、これ以上予算を膨らませることはできない。「安くできるから東京でやりたい」と宣言してまでオリンピックを誘致してしまったために、後に引けなくなっているのだろう。

そこで土下座して頭を下げた上で「どうか協力して下さい」と泣きついてくるならまだ話はわかるのだが、上から目線で「ボランティアを供出するために夏休みは授業をするな」とか「銀が足りないから学校でも供出しろ」とか言い出すので世間の反発を買ってしまっている。今度は「省エネになりますよ」という嘘をついて自民党の数の力でサマータイムを導入しようとしている。

森元首相は今でも自分が国を動かしているつもりでいるのだろう。韓国で開発独裁的な政権しか成し遂げることができなかった上に国民生活を混乱させたサマータイムを持ち出し「よし俺が首相に直接掛け合ってやる」と考えたのではないかと思う。確かに個人的な力関係で話をするのは構わないが、安倍首相は「お友達の言うことならなんでも聞いてやろう」と考える一方、民主主義については全く理解をしていない。安倍首相が国会にサマータイムを持ち出せば国会は混乱するだろうし、もし仮に通ってしまえば国民生活はさらに混乱することになるだろう。

強引な政治手法が目立つ安倍自民党だが、その芽は少なくとも森元首相の時代にはあったということになる。しかし、現在の自民党はもはや政策論争ができるような政党ではなくなりつつあり、このように強引な手法を駆使する人たちが制圧する状態になっているのだろう。

問題は国民の側でこれを放置することの危険性だ。サマータイムが通るということは一部の人たちの失敗を糊塗するために国民生活を犠牲にすることを(少なくとも手続き的には)民主主義的なプロセスで容認してしまうことになる。これは実質的には「時間」という国家財産の私物化を容認することであり、民主主義の放棄である。

韓国は長い犠牲と国民の粘り強いデモによって民主主義を獲得したのだが、日本はその逆に民主主義を自ら手放そうとしているということになる。

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