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ZOZOスーツの憂鬱

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今回はZOZOスーツについて書こうと思う。「やる気がない思いつきなら最初からやらなければいいだろう」と思った話である。

ユニクロの柳井会長がZOZOスーツはおもちゃだといったという話が伝わってきた。日経新聞が面白おかしくこう伝えている。

人が服に合わせるのではなく、服が人に合わせる――。全身タイツのような「採寸スーツ」を無料で100万枚以上配る前代未聞のアイデアを実行したスタートトゥデイ社長の前沢友作(42)。ユーザーやマスコミを敵に回すことも辞さなかった異色の経営者が表舞台に出始めた。だがそのアイデアを「おもちゃだ」と一笑に付す人物がいる。アパレルの巨人、ユニクロの柳井正(69)だ。

これについては批判もでている。ユニクロは古い世代の会社であり、ZOZOこそが新しいというポジションなのだろう。ただ、柳井さんは実際に試したわけではない。実際に試さないのに批判するのはいかがなものかと思った。

そこで、実際に試してみた。だが、やってみて「あれ、この会社大丈夫なのかな」と思った。いろいろ考えて「あれは社長の思いつきだったので気にしない方がいい」という結論に達した。お金はかかっているが道楽なのだろう。

もともとZOZOスーツはお客様のためを思って作られたものではない。例えば、バナナリパブリックには客が入れた情報をもとに適切なサイズをレコメンデーションする機能がある。本気でオンラインサイトをよくしたいならあらかじめデータを採取した上でシステム化したはずである。ただ、このようなきめ細かな仕組みは現場からではないと出てこないだろう。

ZOZOスーツが最初に発表されたのは2017年だった。しかし、センサー型は大量生産がうまく行かず、途中でマーカー型に変更された。この時40億円の損出が出たとされる。これはこの会社が「社長の思いつき」を形にするやり方で運用されていることをうかがわせる。オーナーだから40億円の損出を出しても道楽で済むのである。

しかし、これでも受注した分の生産が間に合わず発送は大幅にずれ込んだ。だが、この時の対応は極めてずさんだった。社内調整が全くできていなかったのだろう。なんども「次こそは発送できます」という様なアナウンスが送られていたがモノは一向に届かなかった。このことからこれも社長と周囲の思いつきで走っていたことがうかがえる。

最初は送料だけはとるということだったのだがいつの間にか送料無料ということになったようだ。しかし、カスタマーサポートによると申し込みの時点でクレジットカードの与信枠を取っており、これを商品の発送が終わるまで引っ張り続けていたそうだ。結局これがキャンセルされたのは発送が終わった後だった。これを知ったのはスーツが送られてきても送料請求に対するお知らせがなかったからだ。最初は「クレジットカードの与信枠が途中で切れてしまうので、あらためて手続きをしていただきます」と言っていた。お金の管理も極めてずさんなのである。

さて、今年の8月になってようやくスーツが届いたので手元にあるiPod Touchで撮影をしようとしたのだが途中でアプリが落ちてしまう。何回も落ちるのでこれは同じことを経験している人がたくさんいるのではないかと考えたのだが、検索をしてみてまとめサイトまでできているのに驚いた。本当にたくさんそういう人がいるようだ。どうやら機種によってできたりできなかったりする様である。

そこで再びカスタマーサポートに問い合わせたところ「一つひとつの機種ごとに手作業でカメラの調整をしなければならず、お客様のお持ちの端末では処理ができません」と言われた。

ZOZOTOWNカスタマーサポートセンターXXでございます。いつもご利用いただきありがとうございます。このたびはZOZOSUITの計測につきましてご不便をおかけしておりますこと、深くお詫び申し上げます。お問い合わせの件について確認いたしましたところ大変恐縮ながら、お客様の機種は対応端末ではございませんでした。こちらは画像認識をおこなうためのカメラの調整が機種ごとに必要なため調整が完了した機種を対応機種として設定しております。今後調整のうえ、対応機種につきまして順次拡大を予定しておりますので大変申し訳ございませんが、お待ちいただけないでしょうか。せっかくご注文いただいたなかこのようなご案内しかできず大変心苦しいのですがご理解いただきますようお願い申し上げます。

ただ、これがその場しのぎの嘘なのか、それとも本当のことなのかはよくわからない。発想の時にも経験したのだがすぐに「お待ちいただけないでしょうか」と言ってしまう会社なのだ。社内でも「一生懸命頑張っているから」辛抱強く待っていて欲しいというようなことがまかり通っているのではないかと思える。「設定している」ということなのだが、音声ガイドまで流しておいて計測の段階でアプリを落とすことが「設定」なのだとしたらずいぶんずさんな設計である。いずれにせよすべての端末で手作業でカメラ調整などできるはずはないのだから、サポートはそもそも最初から諦めているんだろうなと思った。

するとさらに追い打ちをかける様なメッセージをもらった。

ただ、これを読むと「対応端末を確認しろ」と言っているのでテスト済みのものがこのページにでているのかなと考えて再び読んでみたのだが、その様な記述は見つけられなかった。記述があったとしても「対応していないから」という理由で突然落とすのは如何なものかと思われるが、多分部署ごとにバラバラに対応してて横同士の連絡がない会社なのだろう。ただ担当部署ごとのサイロ化も日本の企業では珍しくなく取り立てて批判する気にはなれない。

もし、仮に最初からわかっているのなら対応機種をどこかでアナウンスするべきだった。もともとは送料は取るということだったのだから「できないならできない」というべきだ。次にアプリを落とすのではなく「機種が対応されていません」というアナウンスを出して客に落としてもらうべきだろう。突然落ちたのでは何がなんだかわからない。そもそも、こんな不安定なことを客にやらせるべきではないのだが、それにしてもひどすぎる対応なのだろうなと思った。

この辺りでトップの道楽で個人情報を提供してやっているんだから、こっちがモニター料を請求したいくらいだと思う様になった。

この時点でもうZOZOTOWNでは買い物はしないだろうなと思った。個人的な見解だが、エンジニアが疲弊しているとわかっている会社のものは買いたくないと思うからだ。最初から社長の思いつきでセンサー付きの高価なスーツを無料配布しようというつもりになったのだろうが、それができなかった。そこで光学的に読み取ろうとしたのだろう。でも、もしそれをやるとしたら背景を白バックにするなどして距離を正しく区切ってもらわなければならない。エンジニアなら「そんなことは無理」とわかっていたはずだし、カスタマーサポートに力があれば「お客さんにそんなことはさせられないからオンサイト(実際の店舗)」でもやりましょうという提案くらいは出たはずである。

さらに不信感に追い打ちをかけたのがTwitter対応である。「できない人が大勢いるんですね」とつぶやいたらアプリをアプリをアップデートしろというレスポンスが来た。そもそもコンタクトセンターが「お客様の機種は対応していない」と言っているのだから、場当たり対応にもほどがある。

なぜこの様な状況になっているのかはわからないのだが、前澤友作社長の派手好きな性格にも問題がありそうだ。高価な絵を買ったり、野球チームが欲しいと言ってみたり、芸能人と付き合って「宣伝だ」とばかりにインスタグラムに載せて問題になったりしている。

ZOZOスーツは100万件も注文をもらったというアナウンスだけが大切なのであり、実際に利用できる人が少なくてもさほど問題にならないに違いない。こうしたリーダーシップだと現場が疲弊しそうだが、とにかく話題にさえなれば良いのだから、現場もあまり気にしていないのではないかと思われる。ただ、ネットは炎上の危機がありそれだけは怖いのだろう。

柳井会長は日経の記事の中で「ものづくりの背景がない」ことを限界だとしている。製品のできが悪ければ成長もみこめない。つまり実際のスーツやジーンズなどのデザインがいまいちだというのだ。実際にはIT産業としてもあまり実業に関心がなさそうである。話題先行型の企業なので、マスコミの評判で話題先行型のマネジメントをせざるをえないものと思われる。

ただ、後になってよく考えてみたのだが、そもそも中高年はZOZOTOWNのターゲットではないので「企業はお客さんのことを考えてきちんと対応しなければならない」という価値観をどの程度重要なのかはわからない。「お客さんの顔を見ていない」という批判はできるのだが、バブルの時代にはそんなアパレル企業はいくらでもあった。それでも認知されてさえいれば国内では通用してしま。つけを払うのは後になってからだが、その間の時間を十分に楽しめば良いとも言えるのだ。

ZOZOTOWNの場合大学生の認知度は高い。ファッション雑誌に「WEARISTA」のコーナーもあり憧れの対象になっている。WEARなどを使ってユーザーが作ったコンテンツをきっかけにネット経由で客を集めているので宣伝広告にはあまり問題がないのである。今ではPinterestにも情報が流れておりネットでファッション検索をすると必ず最後はZOZOTOWNに行き着く。ターゲットになっている人たちはスタイルに問題がない上にきちんとしたスーツをあつらえる機会はそう多くない。だからオーバーサイズのアイテムを着てもそれほど問題にはならなず、したがってスーツによる計測など最初からいらない。さらに前澤社長がしょうしょう「おいた」をしてもそれほどブランド価値が毀損しないのである。

問題は多分「成長のために次のステージに進まなければならない」とか「いずれは世界にでなければならない」せっつく大人にあるのではないかと思った。

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