6月25日に参議院で集中審議が行われた。見ても意味はないなと思いつつ見たのだがやっぱり意味はなかった。参加者から目の輝きが失われていて「ああ、本当にアディショナルタイムなんだな」と思った。
以前から書いているように日本の国会審議は民主主義をリチュアル(儀式)だとしかみなしていない。このため票を引き換えに集めてきた要望に勝手な意味をつけて「よかったね」といって送り出すのが自民党の大切な仕事になっている。自民党の議員は「成長」というキーワードを使って意味不明な意味づけをしており、それに安倍首相が意味不明な返しをしていた。中でも意味不明だったのがNHKスペシャルから取ってきたと思われるネアンデルタール人とホモサピエンスの違いだった。社会協力があるからホモサピエンスは生き残ったという内容なのだが、もともと「寿ぎ」のために無意味なことを言っているだけなのでなんでもよかったのだろう。
一方で野党も勉強を諦めている。Twitterで仕入れてきた情報を頼りに安倍政権を攻撃し、期待通りの答えが得られないといって子供のように怒っていた。もっとも典型的なのが福山哲郎議員と福島瑞穂議員である。最近はこの二人が出てきたら自動的に耳がオフになる。こちらも自民党と同じことをしている。ただし立場が違うのですべて「悪かったね」というキーワードになっている。つまり自民党は意味不明な寿ぎの歌を歌っているのだが野党は呪っている。
共産党に至ってはもうどうしようもなかった。アメリカの企業が日本のカジノ事業を独占するとみなした上で空想のお話を組み立てていた。ラスベガスやマカオを見たことがある人から見るととても異様な質疑に見えたのではないかと思う。それでも支持者たちは満足したようで、次の日のTwitterにはこの決めつけをコピペして叫ぶ人々の姿があった。
ただ、この辺りはまだ決まり切った議論であり安心して聞いていることができたのだが、時々「あれ?」と思うことがあった。最初に違和感を感じたのは確か立憲民主党だったと思うのだが女性議員の質問だった。ワイドショー的に出回っている事件についてのコメントを首相に求めていた。違和感を感じたのは安倍首相が「事前通告がない」ということで答えなかったからである。普段から世情に興味を持っていれば答えられた程度の内容だったと思うのだが、安倍首相はもはや世情には興味も関心もないということが感じられる。もしかしたら新聞すら読んでいないのかもしれない。この類の質問を積み重ねていれば、もっと早く安倍首相の異様さややる気のなさが浮かび上がっていたかもしれない。ちょっと惜しいことをしたのではないだろうか。
安倍首相はもう首相という仕事に興味は持っていないのではないかと思った。単に目の前に出された料理を食べるだけの人になっているのだ。支持母体からは決まったルートで「票を引き換えに」法案を通すように求められる。自民党はそれが自分たちの儲けになるということを確認した上で調整する。さらに官僚がフォーマットを整えて安倍首相がそれを公式見解として読むのである。上がってくる要望を原材料だとすると、自民党が下処理をして官僚が料理にしたものを並べて「さあ召し上がれ」となる。
「牛を見ても美味しいと思えない」ことが弊害になっているのが維新の党の藤巻議員との議論だった。主な話題はブロックチェーンと低金利政策である。ブロックチェーンと仮想通貨は新しい技術なのだが、安倍首相と麻生財務大臣は明らかに理解するつもりがなかったようで瞳からは輝きが消えていた。藤巻議員は一生懸命に新しい分野に取り組むことの重要性を訴えていたのだが、それは「新しい食材があるから料理して食べなくては」というような議論である。藤巻さんはこれを熱心にプレゼンしていた。だが、いくら熱心にプレゼンしても社長にやる気がなければどうしようもない。彼らの瞳の中にはもはや国を動かすという情熱は見られない。単に惰性的に地位にしがみついているだけだ。
ビジネスマンであれば藤巻議員の言っていることはよくわかったはずである。たとえば「中国が熱い」となったら、これはもう飛び込むしかないわけで、プレゼン上での結論や取るべきポジションは決まっている。だからブロックチェーンが熱いということになればもう行かなければならないわけである。そこでそれがどのように利益に結びつくかというビジネスモデルだけを学習し、リスクを折り込みながら戦略を考えてゆくということになる。だが、社長に「儲けよう」という気持ちがなければもう話は噛み合わない。首相と財務大臣には「もっと美味しく利権が得られる」見込みがあるのだろう。が、それは国全体の成長には繋がらない。
一方で藤巻議員の方にも問題はあった。日銀の政策が成長率と利子率を押し下げているということを言っているのだが「具体的に何が起こる」ということまでは予測できていないようで「今に大変なことが起こるかもしれない」というような議論になっていた。ビジネスマンであり学者ではないので、全体のフレームワークは管理できないのだろう。この質問について、官僚はもう考えること自体を放棄しており「これは財政ファイナンスではない」といういつも通りの答弁をしていた。この質問にはこの答えというスタンプ出てきていて右から左に処理をしている。
この国会を見ているとなぜ日本が成長できなくなったのかがよくわかる。疲れているのか飽きているのかはわからないのだが、もう自分で何かを取ってきて料理しようという意欲がないのだ。政治家には二世や三世が多いので仕方がないのかもしれないが、こうした人たちが選ばれているということは、有権者の側も意欲を失っているのかもしれないと思った。
今回の国会はお子様定食のようだと思った。与党は寄せ集めの料理に旗を立てて「うわーすごい」と言っている。野党の側はそれが面白くないのでケチャップライスの上にある日章旗を外して「こんなものくだらない」と言って騒ぐ。中を見てみると濃い味付けがされてあまり噛む必要がない料理ばかりが並べられているので、かみごたえのある料理などは見向きもされないのではないかと思うのだ。