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国際社会から毟られる日本とうまく泳げそうな北朝鮮

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今回はエントリーを二つに分けてお送りする。「お題」は防衛省の日報隠蔽がなぜ起こったかという話だ。ただし防衛省は話に出てこない。着目しているのは文民の暴走と迷走である。この物語には二極の当事者がいるので、エントリーを二つにわけた。最初の当事者は安倍首相に代表される政治家である。

安倍首相が外交での得点稼ぎに動き出した。もしできるなら手足を押さえつけた上で動けないようにしたほうがよさそうなのだが「何が起こっているのか」を説明しようとするとなかなか難しい。一言で言うと国際情勢をきちんと把握できておらず、れを自分たちの常識で補っているから安倍首相は危ないということになる。時代遅れの感覚なのだがこれを<理論化>して保守思想と名付けている。

第二次世界大戦の終戦当時から世界は大きな二つの変換を体験した。最初の変換は帝国主義からの脱却である。そして次の変化は東西冷戦構造の崩壊だ。現在の世界はイアンブレマーが提唱した「Gゼロ」という用語で説明できる。グループ(つまり構造)がない世界をGゼロと言っている。G7やG20が機能していないことから思いついたようだ。

日本人は一箇所にとどまることを前提にして毎日を生きている。ご近所にはいい人も悪い人もいるのだが、関係が険悪になってしまうと取り返しがつかなくなるので「できるだけことを荒立てない」と同時に「普段からのお付き合いを通じて自分のいい人ぶりをアピールしておこうという社会である。最近は「普段から気配りする」のが面倒なのでできるだけお互いに干渉しないというような地域もできている。

東西冷戦時にこの感覚には問題がなかった。日本が戦争に負けた後「西側社会のよい一員でいることで利益が得られる」ということをいち早く学んだ。つまり、資本主義村に定着しようと努力しようとしたのである。このため日本は優遇されただけでなくG7の一員として迎え入れられた。アメリカとヨーロッパだけの枠組みだとアメリカが不利になるので日本を引き入れたのかもしれない。

Gゼロはこの構造が崩れてしまった世界だ。何が起こるのかはよくわからなかったのだが、現在二つのルールが定着しているようだ。一つはいったんことを荒立ててみて相手の様子をみるという「ディール」というやり方だ。日本人から見ると全く容認しがたいが、トランプ大統領がこの戦略に走ったことでメジャーなルールになったと言って良い。ただし、中国はこれに全く戸惑っておらず「貿易戦争をやるのならどこまでもおつきあいしますよ」と言っている。

アメリカ人も中国人も「相手が信頼できなくなった」などとは言わない。もとから相手を信頼などしていないのである。もともと、ことを荒立てることも喧嘩を買うこともそれほど悪いことではないという世界なのだ。

日本のではこうした戦略は採用されにくい。閉鎖空間の上に問題と人格が結びつきやすくちょっとした違いや諍いが全面対決につながってしまうからである。

北朝鮮がこのディールという戦略を取ったのは明らかである。日本ではことを荒立てる異端児だと嫌われそうな戦略ではあるが、これが受け入れられる素地ができているのだ。

もう一つの新しい概念はピボットだ。北朝鮮はアメリカと対話するということになったすぐ後で中国に接近した。どうやらロシアとも会談を行うようである。これは北朝鮮が幾重にも保険をかけており、さらに大国同士を競わせているということを意味する。

他にも核保有を目指したりアメリカに挑戦しようとした国はあったが、すべてアメリカに潰されてしまった。それはこれらの国が地域大国を目指したからだ。シリアもロシアの支援を得ていたが、アメリカとロシアの代理戦争のような様相を見せはじめて内戦が泥沼化した。だから2カ国ではなくそれ以上の大国を常に引き入れていればそれなりに安定が図れるということになる。

信頼を大切にする日本人からすると北朝鮮の態度は不誠実そのものだ。だが、これは大国に挟まれた小国としては合理的な選択であり、大国もそれを咎め立てたりはしないのである。

日本人が北朝鮮をならず者だと思うのは、意識として世界情勢の変化にキャッチアップしていないということを意味している。ではこの姿勢を肯定するのかと反論したくなる人もいるかもしれない。肯定はしないのだがこれが現実である。

安倍首相が危険な理由はいくつかある。第一に政治家も官僚もこの新しいルールにあまり慣れていないので、どう振る舞っていいかわからない。さらに現在文書管理問題などから官僚が萎縮しており政治家に思い切った政策転換を提案できない。さらに、総裁選挙を控えて実績作りを焦っている。もともと正確に情勢を把握できていない上に正常とはいえないマインドセットに囚われた人が国際政治の舞台で実績を作ろうとすれば、それを利用するのは簡単なことだろう。ロシアは北方領土の「話し合いを再開したければ」誠意を見せろというだろうし、アメリカの気持ちをつなぎとめようとすれば「その愛想笑いが怪しい」と言われる。さらに中国や韓国は第二次世界大戦を反省していない日本は必ずや地域の脅威になるだろうと主張するだろう。こうした日本の孤立は海外のメディアではすでに冷静に分析されているようで、知らないのは日本人だけなのだ。

安倍首相が国際情勢を正しく判断できない原因は本人の資質によるところが多いのだろうが、問題はそれだけではない。国内で安倍首相の姿勢に反発している人たちがいる。彼らに妥協して中途半端な解決策を提示しており、そのためには「自衛隊という軍隊だか軍隊ではないのかよくわからない組織が海外に出かけていっても決して怪我をしたり死んだりしてはいけない」という謎めいたルールができている。これに沿って対処することは不可能なのだから、情報は隠蔽するしかない。だから情報が隠されるわけである。

次のエントリーではもう一つの極が何を心配しているのかを見て行きたい。

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Comments

“国際社会から毟られる日本とうまく泳げそうな北朝鮮” への2件のフィードバック

  1. […] 本日最初のエントリーでは与党の政治家が国際情勢の変化について行けていない状況を観察した。彼らは国内的には強硬な反対はに対峙しており解決策は中途半端なものになりがちである。そのため軍隊を海外に送っても危険な目にさえあわなければそれは軍隊ではないという訳のわからない理屈が編み出され、その縛りに合わせる形で日報が隠蔽された。それが勝手にコピペされており外付けのハードディスクに残っていたから「隠蔽したのだ」と騒ぎになっている。 […]

  2. […] いろいろ考えていて、この問題は戦後の保守思想の限界をよく示していると思った。がさらによく考え他結果、保守思想ではなく日本の戦後思想の限界があるのではないかと感じるようになった。事前に安倍首相が国際情勢に乗り遅れてゆく姿を観察したからだと思う。 […]

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