給料をあげると国内の諸問題は解決するのだが
煽り気味のタイトルで申し訳ない。先日メンションが飛んできた。どうやら給料をあげれば景気が回復するという自説を開陳したがっている人が、このブログの過去の文章を引き合いに使ったらしい。その後もメンションはしばらく続き「政治家はバカ」だが「給料をあげればすべての問題は解決するのに」というようなことを言っていた。
このブログでは度々「なぜ給料があがらないのか」について考えているのだが、直接的な答えが見つからないので、産業分析とか政治家が腐敗する理由の観察をしている。つまり、答えが見つかるならとっくに提案しているわけだ。
もちろん、日本には今の所言論の自由という素晴らしいものがあるので、居酒屋トークをするのは構わないのだが、そういうのは面倒なのでよそでやってくれよなどと思ってしまう。しかしながら、給料をあげること自体は簡単である。問題はその簡単な解決策を採用したいと思うかどうかだろう。だが、考えてばかりいても仕方がないので、この秘策を説明してみたい。その上で現状を受認するか、なんらかの説を採用すると良いだろう。参考文献もつけたので、反論がある人は全部読んでから反論をコメント欄に書いて欲しい。
方法1:直接的に企業に介入する
給料をあげるためには主に2つのルートがある。1つ目のルートは国が企業に介入して賃金体系を変えてしまうことである。この下にはさらに2つのルートがある。私企業に介入するか、公企業を通じて給与をあげれば良い。
自由主義経済ではこうしたことは許されないので、自由経済を放棄して共産主義化するのが手っ取り早い。つまり武力でもなんでも使って革命を起こし革命政府が私企業を廃止してしまえばよいわけである。もちろん現行憲法では許されない行為だがそもそも革命というのはそういうものなのだと諦めてもらうしかない。
この問題の難点は、理論的には完成しているが、実際に成功したモデルがないということである。資本論というものがあり未だに信者がいるのだが、難しそうなので読んだことがない。池上彰が解説本を出しているらしいので紹介しておく。
また、不破哲三も資本論の解説をいくつか書いてあり、インドの経典が読めない日本の仏教徒が空海を信奉するように信仰されているようだ。
例えば北朝鮮はこの方式を採用して悲惨なことになっている。いったんお金をつかんで地位を得た人たちは他人に分配するのが嫌になってしまうのである。そのため労働者を輸出してその賃金をピンハネするというようなことが起きていた。マルクスが憎悪したイギリスの資本家よりもタチが悪い。
さらにベネズエラも悲惨なことになっている。こちらは石油が出るのでその富を国民にバラまけばすべてが解決するように思えるのだが、どういうわけかそうはなっていない。最終的には石油を採掘するお金もなくなった。物価が安定しないので政府が価格統制を行った結果、食べ物も薬もなくなり、最終的には国がウサギを食べるようにとって国民に配ったものの、それがペットになるというほっこりしたような悲惨なような状態になっているようだ。
しかしながら、世界で成功しなかったから日本でも成功しないとは言えない。一番の問題は革命の担い手がいないということだ。共産党は長い歴史のなかで「暴力革命はウケないんだな」ということを学んでしまっており、今では憲法を守れなどと言っている。
一方の保守勢力が憲法を変えたがっているという倒錯した状態だ。共産主義というのは「好きに暴れたい人」たちの心の拠り所なのだから、共産党が良い子を演じなければならない世の中というのは、控えめに言ってかなり狂っている。一方、自民党は憲法改正で国民から人権を取り上げようなどといい、生産性革命をなどと言っている。どちらかといえば、自民党の方が革命勢力に近い。
自民党は社会主義政党であり、現在の成長産業である医療介護と教育分野は公的に賃金統制されている。だから、自民党政権が賃金を上げたければこの分野の賃金をあげれば良い。ただしその原資は税金によるか国家の信用の膨張である。
税金をあげると国民が文句をいうので信用を膨張させることになるのだが、これはハイパーインフレーションへの道である。日本が今とっているのはこの経路であり、今回の選挙で自民党政府を信任するということはハイパーインフレを受認しているということになる。野口悠紀雄がこのような本を書いているようだがこれも未読だ。
自民党政権の一番の問題はどっちみちハイパーインフレが起こるのに、政府支出を出し惜しみしておりということだろう。つまり誰も満足しないのに結果的には破綻するということになる。どうせ破綻するのだったら、それまでは人気者でいたくないのだろうかなどと思うわけだが、どうもそこまでの根性はないようだ。
さて、そこまでやけになりたくないという人には企業が自発的に給与をあげるという手段を取りたいと考えるはずだ。では高度経済成長期にどうして給料が上がったのか。昔の経営者はみな親切でいい人ばかりだったのだろうか。
実はそうではない。給料が上がった理由は通称条件がよかった上に人手が足りなかったからである。戦後直後隣の国で戦争が起こり好景気が生まれた。このため短期的な経済成長が起こる。さらに国がアメリカに輸出をして儲けるというプランを推進した。外貨が意図的に安く設定されていたために、日本人は外国から来たものを買えないが日本人は安く輸出ができるという状態があった。つまり、日本人の賃金を人為的に安く抑えることで、製造業に有利な状態があった。さらに中国は計画経済的な共産主義運動に夢中になっており、韓国も軍事政権時代が長かったので極東にライバルがいなかった。
お金を借りて戦争で傷んだインフラを整備し直して工場が建てられた。優秀な工員を雇うためにはそれなりの賃金が必要である。賃金が上がればいろいろなものが買えるようになる。そこで生まれたのが高度経済成長だと考えられる。
このことを見ると直感的には「生産設備が破壊された上に再生段階にあり」「経済構造上有利な条件にある」という2つの条件が必要だということになる。前者は内部要因であり、後者は外部要因である。
方法2:企業の資産から徴税するか破壊する
このうちコントロール可能なのは内部要因だけなので、外部要因も内部化してやる必要がある。ここからわかるのは企業がある程度富を蓄積してしまうと労働力に頼らなくてもなんとかなってしまうということがわかる。つまり、企業が資本家になってしまえば労働力に頼らなくてもよくなってしまうのである。日本の企業はそれほど労働力に頼らなくても、外国にある会社を買ってそこで儲けてもらえれば利益がもらえるということになる。だから労働者の立場から見ると企業はある程度で潰れてもらう必要があるのだ。
では、ゲバ棒を持って企業を破壊すれば良いのか。そうではないだろう。そこで考えられているのが「内部留保に課税」であり、十分に革命的な考え方である。共産党がこれくらいいうのは微笑ましいと言えるが、保守政党を自認している希望の党がこれを言い出したところに問題がある。
いずれにせよ内部留保という費目はなくしたがって課税もできない。内部留保課税が言われる前には、石原慎太郎が外形標準課税などと言っていた。銀行に課税してしまえというような主張だった。石原の主張はこのブログで読むことができる。石原は金融機関には公的資金が入っているのに、儲けを出さないことで地方自治にフリーライドしていると主張している。資産は持っているのだからそれに課税してしまえというのである。一度は導入に成功したものの裁判を起こされ一審では敗訴したそうだ。その後は最高裁で和解が成立したということになっている。
だが、現行税制で内部留保に課税したり、資産額に課税するのは難しそうである。さらに潰れそうな企業を税金で補填して助けてやったとしても企業は「ありがとう」などとは言わないことがわかる。あの手この手を使って税金を逃れようとするのである。なぜかといえば、そもそも潰れかけており、その原因そのものが取り除かれたわけではないからだろう。
ということは会社を潰して仕舞えば良いということになる。幸いなことに企業というのは経年劣化を起こす。だからそうした企業を助けずに潰してしまえばよいということになるだろう。
日本の問題は経済がそれほど重層的ではないという点だ。ほとんどの大企業は金融か製造業なので、同じような環境を共有している。ということは一つの企業が潰れると雇用の受け手がないということになる。行為した破壊行為について書いている経済学者は多い。シュンペーターの主張はwikipediaに短く端的にまとめられている。
イノベーションがなければ、市場経済は均衡状態に陥っていき、企業者利潤は消滅し、利子はゼロになる。したがって、企業者は、創造的破壊を起こし続けなければ、生き残ることができない。
クリステンセンは大きな企業が小さな企業によって駆逐されてゆく様子を観察するうちに創造的破壊について考えるようになったようである。短い著作集が出ているようだ。
だからいっぺんに全部潰してしまい大混乱の末に再編するか、企業環境を多様化して一つの産業がダメになっても別の産業が受け手になれるようにすればよいということになるだろう。アメリカの場合には製造業がダメになり、情報産業が成長した。しかし、実はそれほど長続きはせず、現在では娯楽などの別産業が成長しているという観察があるそうだ。これはアメリカが多核の連邦国家であり、都市ごとに違った産業が成長しやすいという事情がある。これを模倣しようとしたのが本来の意味での地方分権だったのだが、現在の日本では地方への利益誘導が地方分権なのだと誤解されている。いずれにせよアメリカでは一般的な議論で、例えばリチャード・フロリダが一連の著作でメガリージョンについて書いている。
韓国などはさらに悲惨で経済規模がさらに小さいので、ソウルにあつまったいくつかの財閥がすべての経済を支えるという状態になっている。バックアップがないので、これらが潰れてしまうと韓国経済は大きな痛手を受けるだろう。日本は韓国ほどは悲惨ではないがアメリカほど楽観的ではないということになる。韓国はこうした痛みを和らげるために諸外国との間に通貨を融通しあう協定を結んでおく必要がある。
いずれにせよ、前提になっているのは「企業が潰れる」ということである。これは「革命を起こして社会構造を変革する」ほどは破壊的ではないのだが、安定を好む日本人からみると十分に破壊的である。平たく言えば「無能な経営者も無能な社員も去れ」というようなことだからである。
方法3:外国を破壊したり脅かしたりしてなんとかしてもらう
しかしながら、アメリカにも「破壊されずになんとかしたい」という人たちがいる。この場合有効なのは通商条件を変えることである。幸いアメリカには軍事力があり、その軍事力で外国を恫喝するか依存している国を恫喝すればよい。そこで注目されているのが日本である。
日本はアメリカに軍事的に依存しており、現在の首相はコントロール可能な程度には愚かである。とはいえ多国間交渉だと弱い国がつるんであれこれ言ってくる可能性が高い。そこで二国間協定に持ち込んであとはじわじわと追い詰めれば良いということになる。
アメリカが狙っているのは製造業の復活と農業の復活である。どちらも最終的には安い労働力と広い土地などが必要な産業で、従って先進国は通称条件が悪くなる。しかしアメリカやオーストラリアには広い土地が広がっているので、畜産と果樹農業が日本を駆逐してしまうかもしれない。
日本が同じようなことをするためには、強い軍事力を持って他国を恫喝できるほどの力をつける必要があるが、憲法を変えたくらいでは無理だろう。自衛隊は米軍とオペレーションが一体化されている上に、アメリカが日本の覇権国化を許さない可能性が高い。さらに日本人には国際的な交渉能力もなさそうだ。北方領土問題では、一方的にロシアに譲歩しロシアの主権を認めさせて、経済開発に「協力させてもらう」ことにした。
日本ができるのは外国を焚き付けて争わせることだろう。例えばアフリカであれば、戦争で疲弊している地域に武器を売りつけたり、破壊されたインフラの復興事業で現地政府に恩を売り利権を分けてもらうなどという方法が考えられる。このためには自衛隊を利用したり、武器輸出三原則を放棄して武器輸出できるようにする必要がある。今安倍政権が夢中になっているのは「日本が戦争できる国」になることではない。他国の戦争で日本が儲けられる国になることである。
しかしながら同じようなことを考えている国は多い。アフリカでは中国と利益がぶつかっている。またアメリカも同じようなことを考えており、朝鮮半島情勢を緊迫化させ(かといってアメリカには攻撃できない程度に押さえておく)その緊張を利用して韓国と日本にミサイル防衛システムを売りつけるようなことをしている。つまり、国際情勢的にはこれは禁じ手に近く、この類のことが横行すれば、世界情勢は早晩めちゃくちゃになってしまうだろう。
さらに、イラクやシリアの状況を見ると子供達が殺されたり、若者が戦争に最適化した挙句に戦争が終わり何をしていいかわからなくなり、現地で反乱勢力化したりしている。人道的にはあまり好ましいアプローチとは言えない。
まとめ
つまり、給料をあげるという点に着目すると何かが潰れる必要があるということがわかる。その潰れるものは下記のうちの1つである。
- 外国の市場が潰れる。ただし軍事力か卓越した外交力が必要であるり、他国の犠牲が必要。犠牲になるのは子供や青年などである。多くの人の人生が破壊される。
- 国内の企業が潰れる。産業が多核化していないと難しいのだが、物理的に一極集中していると多核にならない傾向が強いので、地方分権が必要である。
- 国内の政体が劇的に変わる。具体的には共産革命などが起こるのが好ましいのだが、不幸なことに未だに成功した共産革命はない。
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