外国からの介入も失敗、軍事クーデターも不発、もちろん選挙で政権交代が起きるはずもない。そんな状況に置かれた人たちの選択肢は一つだ。
ベネズエラで大統領選挙が行われ、国家選挙評議会はマドゥロ氏の勝利を宣言した。与党のマドゥロ大統領は経済運営に完全に失敗しており世論調査の結果は野党優勢だった。しかしマドゥロ大統領が敗北を認めず何らかの形で選挙結果を粉飾し勝利宣言をするのは既定路線と見られていた。
Xなどで「状況が混乱している」とする投稿は散見されるが、目立った国民闘争は起きていない。選挙結果に絶望したベネズエラ国民はまた国を捨てるのではないかなどと予測されているようだ。もうそれしか方法が残されていないのである。
ベネズエラは豊富な石油資源を持っている。アメリカ資本の支配を嫌う左派が「国有化のメリットを国民に分配する」と約束し政権を獲得した。しかしまともな企業運営・経済運営をしたことがない左派政権のもとでベネズエラ経済は徐々に崩壊した。
トランプ政権は左派政権との対決姿勢を強めていた。一旦は野党指導者のグアイド氏を暫定大統領に指名することに成功する。このときの経済は13万パーセントのインフレだったという。いわゆるハイパーインフレである。トランプ政権がベネズエラに激しい経済制裁を加えたためもともと不調だったベネズエラ経済が崩壊した。
ヴェネズエラでは数年来、食糧や医薬品など生活必需品が不足し、停電が相次ぐなど経済危機が続き、2014年以来、約300万人もの住民が国外に逃れている。国会調査によると、2017年11から1年間のインフレ率は年率13万%に達した。
ヴェネズエラ国会議長が「暫定大統領」の就任宣言 トランプ米大統領は承認(BBC)
グアイド氏はバラバラの野党勢力をまとめきれなかった。さらにウクライナの戦争で石油価格が高騰するとバイデン大統領は政策を転換する。これまで批判してきたサウジアラビアの皇太子やベネズエラ政府に再接近した。
バイデン政権は「民主主義は大切だ」と言いつつ経済的な必要性から妥協する傾向が強い政権だった。再接近(制裁緩和)の条件は「選挙をきちんとやりますから」というマドゥロ政権の口約束だった。
結果的にグアイド氏は暫定政府を解散した。すると「きちんと選挙をやる」と言っていたマドゥロ大統領は野党への迫害を強めてゆく。アメリカが本音ではベネズエラの石油を求めていることがよくわかっていたのだろう。アメリカは後に経済制裁を復活する。だが石油価格が高騰している上に(国際的に締め出された)ロシアなど協力した国際流通網もできている。
結果的にアメリカの経済制裁はベネズエラ国民経済を破壊するだけに終わった。
野党への締め出しの結果、有力な野党支候補者は大統領選挙から締め出された。そこで野党はほぼ無名だった高齢のゴンザレス氏を大統領候補に担いだ。彼にはほとんど選挙運動をさせず(選挙運動しなければ捕まって立候補資格を剥奪されることはない)マチャド党首が選挙キャンペーンを指揮していたようだ。
経済が崩壊しているベネズエラでは多くの人が2つ以上の仕事を掛け持ちしてその日暮らしの生活をしている。経済の立て直しこそがベネズエラ国民の悲願だった。国民は政権交代を強く望んでおり事前の世論調査でも野党が圧倒的に有利だった。
と同時にマドゥロ政権があらゆる手段を使って選挙を「盗む」ことも既定路線とされていた。国家選挙評議会は中立ではなくマドゥロ陣営の影響を強く受けている。結果的に評議会は「80%開票した時点で過半数をかろうじて維持した」と発表をした。大勝したわけではなくかろうじて勝ったというわけだが、誰もそれを信じていない。30,000投票所の投票の内訳は公表されていない。また投票は電子投票なので途中で盗まれても誰も検証できない。
なお今回の件でアメリカ合衆国は選挙結果に深刻な懸念を表明している。だが経緯を見れば分かる通り、経済制裁でベネズエラ国民の生活を破壊し、マドゥロ政権を追い詰めることなく経済政策を緩和している。その後の野党候補への迫害も見て見ぬふりをしてきた。ベネズエラ国民にこれ以上「抵抗しろ」と言ってもそれは無理だろう。野党も一枚岩でなく頼りになりそうにない。結果的にベネズエラ国民は深く絶望するか「とりあえずなんとかなるだろう」と北を目指すことになる。つまりまた国を捨てる人たちが大勢出るのかもしれない。
前回ベネズエラからの難民が増えたのは2019年(つまりハイパーインフレの直後)に軍事クーデターが失敗したときだったようだ。軍人に頼ってもダメ、アメリカなどの外国の支援も期待できない、もちろん選挙で政権交代が起きるはずもない。ベネズエラの国民はそんな状況に置かれている。
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