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イスラエルの政権交代 – どんなに汚職がはびこっていても政権交代以外では状況は変わらなかった

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イスラエルで政権交代があった。BBCがネタニヤフ首相についての論評をまとめているが、一度政権を手放してから復活するという経緯が安倍総理に似ているなと思った。始まりは似ているのだが終わり方は全く違っている。安倍総理は体調不良を理由にコロナ対策から逃げ出したが、ネタニヤフ首相は汚職まみれになり「首相の座を降りたら裁判で有罪になる可能性が高い」から逃げられないという状況に陥っていた。

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最初に政権を取ったのはイツハク・ラビン首相が殺害されたすぐ後だった。ラビン首相はパレスチナとの和平交渉をまとめようとしたために殺害されたのだが、その後で反パレスチナ勢力をまとめたのがネタニヤフ首相だった。1996年のことである。

BBCの記事はアメリカの圧力に屈したことが結果的に最初のネタニヤフ政権の崩壊につながったと書いている。

イスラエルは全国区比例代表制である。つまり全国政党ができにくく少数政党が乱立しやすい傾向にある。首相はクネセトという議会の議員でなければならない。ユダヤ人国家と言われるイスラエルだが実際には20%程度がアラブ人という多民族国家でもある。状況は日本とはかなり違っている。

つまり政権を降りたと言ってもライバルに大きな政党があるわけではない。ネタニヤフは反パレスチナ論戦を張りながらもリクードの中で存在感を示し続けた。

2009年に政権に復帰するとアメリカの意向に沿った形でに国家並存を主張するようになった。完全非武装が条件なのでパレスチナ勢力がこれに応じないことはわかっている。その一方でハマスへの攻撃は続行した。オバマ政権がイランと核合意を結ぼうとしたところ反対してオバマ大統領の怒りを買ったそうだがトランプ政権になってからはエルサレムはイスラエルの首都であるということがアメリカとの間で合意された。

これまでイスラエルは国際的非難に向き合う形でバランスが取れた政策を取ろうとしていたのだがネタニヤフ首相は共和党とだけ親しくするという戦略に切り替えたようである。だが表面的には二国家方針は維持し続けた。

安全保障では攻撃的な姿勢をとる一方で「パレスチナ問題を抱えるイスラエル」という姿は徐々に「ハイテク国家イスラエル」に変わってゆく。こうしてパレスチナ問題を徐々に小さく見せることに成功したのである。

2009年といえば日本でも政権交代が起こった時期だった。背景にはリーマンショックの動揺がある。ネタニヤフが二回目に政権を取る以前のイスラエルは国際的な非難にさらされていた。オルメルト政権の頃だ。オルメルト首相はシャロン首相が脳卒中で倒れて代行から首相になったという人だが在任中に汚職の噂が絶えなかった。

ただ、汚職の噂があっても外敵がいれば首相への風当たりは小さくなる。レバノン侵攻などの攻撃的な政策が続いた。オバマ政権がパレスチナに融和的な政策を取るのを恐れて状況をエスカレートさせたのではという話もあったようだ。アメリカ合衆国は「理想」ほ方向に大きく傾いていたわけだからユダヤ系の中にもイスラエルの政策を疑問視する人がでることはわかる。2009年の1月にはガザ地区への攻撃が起きていて、アメリカのユダヤ社会は「イスラエルを非純正のまま支援してもいいのだろうか」と逡巡していたようである。

ネタニヤフ首相は英語に堪能でありアメリカの民意をつかんだのだろう。ビビという愛称はアメリカでも知られているようである。ただ、当初は経済的な成功を収めたかに見えたネタニヤフ首相も結局は汚職の疑惑で政界を追われることになった。

イスラエルは長い間「弱腰の政権ができてしまうとユダヤ人の権利が縮小させられてしまうのではないか」と恐れていて政権交代ができなかった。結果的に汚職が蔓延してしまう。今回の政権は輪番制で首相を回しあうそうだ。法的な決まりではない単なる紳士協定である上に政権には共通基盤がない。アラブ系政党から右派政党までが含まれていてまとまる要因がない。

それでも一度変えてみようというのがイスラエル有権者の判断だったのだろう。

民主主義では政治家に直接罰を与えることはできない。結局政権交代によってしか物事は変えられないのだろう。

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