イギリスのコーンウォール地方でG7が始まった。会議には妙な閉塞感が漂っていたが最終的に紹鴎陛下の「Are you supposed to be enjoying yourselves?」という言葉に救われたようだ。
最初に入ってきた話題はイギリスがアメリカに接近したというものだった。大西洋憲章を更新したという。大西洋憲章をよく知らなかったのだが「第二次世界大戦中にまとめた新世界構想」だそうだ。当時イギリスの植民地体制が行き詰っていることは両国とも承知していてそれに代わる秩序が必要だった。それが民族自決と民主主義・自由主義経済である。ジョンソン首相はずいぶん昔のエピソードを引っ張り出してきたんだなと思った。
日経新聞はきれいにまとめているのだが何か違和感が残る。かつてのG7といえば名実ともに世界をリードしている首脳同士の集まりだった。中国やインドが台頭しつつあることでこのG7のプレゼンスは低下しつつある。さらにG7が始まる前に事前に英米で話し合って世界秩序を語るというのもどこか釈然としない。
アメリカ合衆国にはおそらく台頭する中国を抑えきれないという焦りがあるのだろう。あるいは国内世論をまとめられないために仮想敵を作りたいという思惑がありそうだ。
またヨーロッパを抜けたばかりのジョンソン首相は「EUを抜けたのはよかった」と主張したい。ジョンソン首相はアメリカの市民権を持っていて(今は離脱済み)ブリュッセル発信のEU懐疑論で有名になった人なのだそうだ。ブリュッセルには指図されたくない、できれば自分たちが指図する側に回りたいという人なのである。
アメリカもイギリスも誰かに指図されるのが嫌いで誰かを指図するのが好きという国だ。今回のG7はこのアングロサクソン性が極めて強い。イギリスがアメリカと最初に協議して流れを作り、同盟国が100%賛同するという演出になっている。
イギリスは1960年代からヨーロッパの経済圏に組み込まれることを目指してきた。ヨーロッパで鉄鋼や石炭を共同管理するスキームが作られると熱心に加盟を目指した。資源輸出で優位性がなくなるとヨーロッパは単一市場化を目指すようになった。これに反発しつつ仲間はずれにもなりたくないというのがイギリスだったのだがついに離脱派が勝利した。だから次の体制はイギリスがあれこれ指図する側に回りたい。
ただいまのイギリスにはそんな力はない。さらにそんな構想があった時代を探してゆくと第二次世界大戦前に戻ってしまう。実は今回のジョンソン・バイデン会談にはそういう悲しさがある。
菅総理も日本が一番キラキラしていて未来しか見ていなかったオリンピックの時代に戻りたいのだろう。必死でオリンピックへの支持を取り付けようとしているようである。オリンピックは成功しそうにないとか誰か他人を儲けさせる祭りだという見方が定着している最中のアピールは見るものをうらぶれた気分にさせる。
イギリスの西の端で大西洋に沈み行く太陽を見ながら過去にすがるG7になりそうだった。
当事者たちがこうした切迫感を募らせるなかこれを俯瞰で見ている女王陛下は「あらなんとなく楽しそうじゃないわね」と思ったのだろう。上品な言い方で命令するわけでもなく「もっと楽しそうにしてもいいのでは?」と提案したのかもしれない。