ペルーで左派の大統領が誕生しそうだそうだ。経済的には混乱が予想され株価が急落し通貨も売られているという。どうしてこんなことになったのか。ことの発端はコロナ禍だった。
ペルーは南米の中進国だ。あの一帯ではチリだけ先進国レベルにある。アルゼンチン・メキシコがその後に続き、ブラジルとペルーはそのさらに下である。今回はこの内ペルーとブラジルの様子を見てゆく。
ペルーの国土は砂漠がちな沿岸部・山岳部・アマゾンと大きく三つに分断されている。山岳部に住む原住民は今ではインディオではなくカンペシーノ(農民)と呼ばれるそうである。人口の過半数は沿岸部に住んでいて、リマ都市圏に30%が暮らしている。産業の中心は鉱業だ。銅、鉛、亜鉛、銀、金などが取れるそうだ。沿岸に豊かな漁場もあり漁業も盛んだという。
IDE-JETROによると、ペルー経済は資源ブームの影響で経済が好調だった。だがその裏では汚職も進んでいたようである。まず、フジモリ候補を破って政権についたクチンスキー大統領に汚職捜査の手が伸びた。ゼネコンからお金をもらっていたそうだ。罷免はされなかったがクチンスキー大統領は辞任した。
その後を継いだのはビスカラ大統領である。なんとか政権を運営していたがコロナ禍で経済が暗転する。死者の割合は世界一になったそうである。コロナ禍は一段落したが結局汚職疑惑は晴れなかった。
大統領の汚職が判明し罷免騒ぎが起きた。一旦は回避されたものの州知事時代の汚職疑惑が浮上する。内部から証言者が出たという。ビスカラ大統領は結局罷免されたのだが議会クーデータだということでメリノ大統領も15日後に辞任に追い込まれた。
ペルーには全国政党がない。有力な政治家(カウディジョ)が個人で候補者集める個人政党が多いそうである。このため大統領を出す政党と議会で多数派になる政党が一致せず常に議会対策に悩まされる。汚職が起きると議会と大統領の間に潜在的にある対立が表面化し罷免騒ぎが起きる。これが汚職が起きても議会闘争に発展しない日本と決定的に異なっている。
ただ汚職の震源地はペルーではなくブラジルだった。ブラジル政府系石油会社ペトロブラスとの契約関係にあった建設会社オデブレヒトが公共工事入札を有利に進めるために政治家に賄賂を贈った。
この中に元大統領のルラ大統領(左派の大統領で憲法の上限である三期を全うした)が含まれていた。ルラ大統領とルセフ大統領にはつながりがあり捜査が波及するものと思われていた。ルセフ大統領は罷免されたのだが、次のテメル政権になっても落ち着かず、2017年の日経新聞の記事によると2016年のインフレは700%になった。この記事では「2017年は2000%を超える」だろうと予測されている。
結局テメル大統領は低支持率のままで任期を全うするのだが嫌気をさした国民は右寄りのポピュリストのボルソナロを大統領に選んだ。アメリカのトランプ大統領やイスラエルのネタニヤフ首相とは仲が良かったようだ。右派ポピュリストにありがちなことだが、ボルソナロ大統領のコロナ対策はずさんだ。二人の保健大臣を解任した。自身もコロナウイルスに感染したが回復した。
国民は目を覚ましてまともな大統領を選ぶだろうと思いたいのだが実はそうはならない。汚職疑惑のあったルラ元大統領が政治的な権利を回復し、2021年の選挙は極右ポピュリストのボルソナロ対左派のルラのどちらかを選ぶという究極の選挙になるそうだ。一連のスキャンダルによって左派への信頼は失われているがコロナ対策に失敗し汚職摘発もやめてポピュリスト的な言動に終始するボルソナロ大統領にもうんざりしているという状況らしい。
この閉塞感も「めぼしいリーダーが生まれない」日本と似ている。日本人は政治に期待しなくなった。議会が漂流しても国民はあまり関心を持たない。一方でペルーやブラジルといった国では極端な対立構造が生まれて定着するという動きになっている。なぜ日本は南米のようにならないのか?と不思議な気持ちになる。
ペルーもブラジルも経済が揺れるなかで、金権政治を許容するか急進的な政策を支持するかという極端な二極化が起こっている。ペルーでは右派が既得権益の金権政治であり台頭する形で左派が出てきた。ところブラジルでは左派が既得権益層になっていて対抗する形でポピュリズムが出てきたという違いがある。
つまり右か左かというイデオロギーにはあまり意味がないのである。