菅総理のある言い間違いが話題になっている。フリージャーナリスト神保哲生さんが現在の法制度に問題があるのではないかと聞いたところ「皆保険制度には問題がある」とほのめかしたのである。政府は火消しに走ったが政権の本音が変わるわけではない。背景を調べるとかなり深刻なマインドセットがあることがわかる。
朝日新聞の記事だけを読むと朝日新聞がコロナ対策で疲れている菅総理の言い間違いを拾って問題を作ろうとしているだけのように思える。「ああ、また朝日か」というわけだ。おそらく野党が政局化しようとするのだろうなと、確かにちょっとうんざりしてしまう。
ところがハフィントンポストを見るとちょっと違うことがわかる。神保哲生さんは国民皆保険のことは聞いていない。医療法や感染症法について聞いている。市場経済型ではうまくゆかないので国家が介入すべきではないかといっているわけである。これはこれで議論が必要だ。社会主義型の転換は避けたいが「有事なので仕方ない」とも考えられる。一概にこうとは言えない。
ところが総理大臣が突然「国民皆保険」を持ち出した。おそらく疲れていたのだろう。それにしても……である。
官邸では「拡大の一途にある新型コロナ対策の全てを公費で賄うのは無理なのではないか」という話は出ていると思う。
その一端がPCR検査の広がり方の鈍さに現れている。最近テレビコマーシャルで多く見るようになったので私費による検査のキャパは増えている。だが、症状がある人や疑いを持った人が公費による検査を受けようとするとすぐには受けられないのだ。おそらくPCR検査ではなく公費検査に抑制的なのであろう。
さらに医療費負担が財政を圧迫しているという認識もある。近く高齢者の医療費負担が1割から2割に上がることになった。選挙のためにかなり抑制的な言い方になっているが、選挙に不利なことに変わりはない。それでも負担増を決めたのは財務省からかなりプレッシャーがかかっているからだと思う。政務担当秘書官にも財務省で主計担当をしていた人が入った。
おそらく政府関係者は「罰則で脅して新型コロナを収束させたい」と思っているはずだ。例えば入院を拒否した人に懲役刑を課そうという計画もでているようである。このままではオリンピックも危ない。かといって金はだしたくない。であれば罰則をかければ安上がりに抑制したい。政府の説明は一貫しないが打算だけは一貫している。「自分たちの財布」と利権を安上がりに守りたい。
政府とその周辺は庶民が蜘蛛の糸を伝って天界に上がってくると考えているのではないかと思う。
ここまではなんとなく想像できる。感染拡大よりも旅行や飲食業への補助を優先しようとしたような政権だからである。しかも旅行業や飲食ではなく政府・官邸に近い中間業者(予約サイトや大手旅行代理店)を救済しようとしたように思える。感染が拡大し世論が一転すると援助を打ち切ってしまった。彼らは実際には旅行や飲食業には興味がない。というより顔がよく見えていないものと思われる。彼らは自分たちと顔が見える人たちを守ろうとしているだけなのかもしれない。
おそらく、総理は内側で語られる「わがままな国民が補助をもとめてワラワラと群がってくる」という話と外向けに語るべき話を区分けすることができなくなるほど疲れているのだろう。そのためうっかりと皆保険について語ってしまった。
そう考えていると読売新聞が総理をかばう記事を出していることに気がついた。総理はお疲れだからもっといたわってやるべきだとでも言いたいようだ。
一瞬心情に訴えかける内容のようだがしっかり打算も入っているようだ。やけに会食のことが強調してある。これがなくなると読売新聞は「独自」が出せなくなるのだろう。すると即時性に勝るネットに勝てない。つくづく非常時には人の打算が透けて見えるなと思った。
どうやらコロナという天災を目の前にしてみな自分がどうやったら助かるのかということを考え始めたのであろう。おそらく国民はコロナの厄がついた菅政権は使い捨てるだろうが現在の自民党政権は支持し続けるはずだ。民主党政権には東日本大震災の「厄」がついていて使えない。
それまで国民は「自力で逃げろ」ということになるはずである。津波や台風のようなものだからとにかく自分の身は自分で守るしかないわけである。