消費税について否定的なことをいう人が多い。そこで逆張りして「政府の言っていることは正しくてメリットもあるのではないか」とする質問を見つけた。議論を確かにするために数字で根拠を示して欲しいのだと言う。道に迷っているんだと思った。こういう人がたくさんいて政治議論に参加していると思い込んでいる国ほど騙しやすい。SNSのおかげでこういう人が増えた。
このブログを読んでいる人はだいたいわかっていると思う。税金というのは一つだけを取り出しても全体を語れない。税収は税金や社会保障費の組み合わせである。これに支出の議論や中央集権・地方分権の議論が乗って初めて議論が成立する。部分だけを取り出してもメリットとデメリットなどわからないから現状認識とビジョンを明確にしてから細かいところに落とし込む議論をしなければならない。
「かしこい我々」が認識すべきなのはおそらく現在の政治議論にはこの程度のことがわからない人も参加しているという事実である。わからない人は何か一つのものを取り出して「できるだけ科学的に」メリットとデメリットを語りたがる。そうして満足してしまうが、そういう議論に巻き込まれるべきではない。
もちろん国民に考える力を与えないというのは国策だし政治的な動機もある。テレビで菅・岸田・石破の討論会をやっているが彼らは部分は語っても全体は絶対に語らない。それは国民に触れて欲しくない議論だからである。政治家は自分たちが議論をコントロールしているという印象を与えるために部分だけを問題にして欲しいのだ。
国民の負担感は増している。それは社会保障費負担が増しているからである。日本の国民負担率の詳細推移をさぐる(2020年時点最新版)という記事はこう書いている。
個人も法人も所得税の負担が減り、その分社会保障費が増え、国民負担が底上げされている、特にリーマンショック以降の国民負担の増加度合いは社会保障費の負担増によるところが大きいのが分かる。
日本の国民負担率の詳細推移をさぐる(2020年時点最新版)
社会保障費は一貫して上がっているのだが給料の支払いの時に天引きされるうえにベースになっている給与が変化するので「上がっているのか上がっていないのか」がよくわからないという特徴がある。ただこれを下げると現在の福祉水準が下がってしまうのではという不安があり誰も何も言い出せない。
例えば菅候補は安倍政権の後継なのでこの辺りを曖昧にしたままズルズルと負担を上げてゆこうという作戦なのだろう。財政再建派の岸田候補は本音では支出は絞りたいがそのことは前面に出さない。今回の選挙で総理大臣になることはないので次の動きを縛られるようなことは言いたくないのだ。その意味では石破候補がもっとも破綻している。地方に税収を渡し、消費税については再び検討し、さらにこの国をグレートリセットすると言っている。全ての課題を切り離すことで全体像に触れることを避けている。そしてそれを曖昧にしたままリセットボタンを押せと囁いている。ただこれも総理大臣にならないとわかっているからこそ言えることだ。小池百合子の病と言っていいかもしれない。私はリセットボタンは押しますが後は知りませんからねということだ。小泉純一郎もそうだった。ぶっ壊しはしたが再建案は示さなかった。
そもそも消費税のメリットは単純な税であるという点である。とにかく売り上げの10%を収めるというそれだけの税だ。納める方も楽だし徴収する方も楽なのである。また所得税や法人税は景気に左右されやすく予測が難しいのだが消費税は予測が楽という特徴がある。
徴税コストが削減できれば政府が効率化できる。それだけを説明すればいいのだが「単に新しい税が増えて増税になる」と当初から警戒さていて消費税には暗いイメージがつきまとっている。さらに各候補が言っていることを聞いても「政府の効率化」について具体的な案を持っている人はいない。おそらく興味がないのだろう。
消費税暫定減税を言っている人はそのほかの点に振れないことが多い。野党側の枝野候補の議論をちらっと聞いた限りでは「暫定でありつなぎを準備すればいい」というようなことを言っていたように思う。正確には「経済に効果を与えるとすれば時限的なものだ」と言っていたそうだ。だが主語が与党側になっている。つまり自分たちは関係ないと宣言している。どうせ政権を取ることはないのだから適当に言っておけという気分なのだろう。ただ彼らは全体像は示している。企業を説得して実行できるかは極めて怪しいが、ビジョンとしては成立している。
低中所得者層向けの対策もそろって打ち出した。両氏は格差是正を訴え、医療や介護、保育分野の雇用の待遇を改善すると唱えた。富裕層や内部留保を抱える法人への増税を財源に掲げる。どちらが代表になっても政策として採用されそうだ。
野党合流新党 10日に新代表 泉・枝野両氏が消費税減税
政治家が不利なことを言いたくないのはわかるのだが、マスコミがこれを伝えないのはおそらく負担が増えてゆく未来を直視したくないからだろう。マスコミはわかっていてこの点をスルーしている。
おそらく野党の「応分の負担発言」を敵視する人はいるだろう。だが、安倍政権が7年頑張っても経済成長はなかった。だから誰かが負担するしかない。おそらく自民党は経済成長を作り出す実力はないということを悟っているはずだ。だれも語らなくなった。だが、時事通信の記事を見てもハフィントンポストの記事を見ても成長戦略は聞かれなくなった。石破候補が地方に財源を持ってきたいと言っているだけである。安倍政権で何をやっても成長しないことが見えてしまったので諦めてしまったのだろう。
このように改めて書いてみると「今回の総裁選挙ではいろいろなことが扱われていないのだなあ」ということがわかっていただけると思うのだが、漫然とメディア報道を見ているとなんとなく全てが順調に進んでいるように思える。
おそらく国民の多くがバカということはないだろうからみんな考えるのを諦めてしまったのだろう。全体像を語る政治家が与野党ともにいないことは誰の目にも明らかで見ようとしなくても自然と見えてしまう。それをいかにスルーするのかという壮大なゲームが行われている。