ざっくり解説 時々深掘り

民主主義社会の多極化 – マリのクーデターを通して考える

カテゴリー:

今日の話はかなり話題が飛ぶ。最初に考えるのはマリのクーデターなのだが最後にはアメリカと中国の話をする。日本人はマリには興味がないと思うのだが、その意味するところは日本の政治環境に大きな影響を与えるだろう。

マリは西アフリカにある旧フランスの植民地だ。セネガルやコートジボアールなどの地域とつながりが深く民族的にもマンデ語派というつながりがあるそうだ。だが、北部にベルベル系のトゥアレグ人が住んでいて分離独立の動きもあった。さらに旧国名はフランス領スーダンというそうである。つまりイスラム世界とサブサハラの結節点にある。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ここでクーデターが起こる。国際社会から「クーデターは違法な政府転覆である」と非難されたのだが、実は国民運動の成果だった。このため国民はクーデターを支持しているそうだ。民主主義社会に地元住民からノーが突きつけられたことになる。

我々は今香港の事例を通じて「中国が民主主義社会を破壊しようとしている」と憤っている。だがアフリカに関心はない。だがおそらくこのマリの件は今地球上で起きている新しい地殻変動のホットスポットだ。その意味では天安門事件を通じて香港を理解しようとする日本のマスコミは少なくとも数周は遅れている。

西洋諸国は香港やベラルーシで「民主主義は守られるべきである」と言っている。だが、マリでは全く反対に民衆よりも国家が守られるべきだと言っている。いわゆる二枚舌であり本音が既存秩序の維持にあることは明らかである。

六辻彰二さんという人が「クーデタは単純な悪なのか――「マリのホメイニ」が暴く世界の二枚舌」という記事でこの点を指摘する。記事は「国際社会」はこの地イスラム系の過激な政権ができるのを恐れているのではないかと言っている。マリはもともとイスラム教国で国民のほとんどがイスラム教徒である。確かにこの地にイランのようなイスラム教の国ができては困る。北部に広がればヨーロッパの既得権益を脅かしかねない。マリはヨーロッパの周縁なのだ。

マリの「民主主義」はフランスによって維持されてきた。フランスはマリにイスラム過激派が広がらないように軍事介入をしてきたがあまり効果は上がっていなかったようだ。そして、効果が上がらないのはマリ軍が情けないからだと説明していた。さらに遡って2013年の記事でもマリへのフランス軍が介入を西洋諸国が支持したという記事を見つけた。イスラム過激派との戦いという名目になっている。六辻さんは2013年にもマリに関する記事を書いている。この時は内戦に反転するかもしれないと書いているがその予想は外れた。西洋が支援してきた大統領と首相が軍隊に拘束されてクーデターが起こったからだ。

もちろんマリの今後は見通せない。少ない文献から判断する限りでは軍隊に統治能力はなさそうである。さらに北部と南部では民族構成が違っている。さらに内陸国なので近隣国とうまくやって行かなければ綿花の輸出もできないだろう。港へのアクセスが必要である。つまり軍隊が国を掌握できず本当に内乱に発展する可能性はある。

今後マリがどうなるにせよ、西洋社会がかろうじて維持してきた秩序が崩壊しつつあるということはわかる。我々が考えている形の民主主義はマリには当てはまらないからである。同じような崩壊はシリアでも起きている。リビアも内戦が終了して統一政府を作りましょうという動きになったようだがこれが西側諸国に再び組み込まれるかどうかはわからない。イランも独自の世界を作っている。これらはすべて「イスラム」という一つの図式で括ることができる。

このイスラム対民主主義社会という図式は長い間語られてきた。ところがここに最近全く別の異質さが生まれた。それが共産党中国である。どうやら中国には独自の秩序意識があるようだ。北京にある共産党を中心ににして同心円が広がっている。中国の人に聞くとそれを一つにまとめているのは共産党と中国憲法だというのだがおそらくは漢民族意識であろう。漢民族には独特の民主主義像があり、我々には受け入れられない。

漢民族意識というとあたかも血統が同じ一つの民族であるというような印象があるのだがどうやら文化概念のようである。もっとも近いのが「アメリカ人」という感覚である。ドイツからやってきてもイタリアからやってきても、英語を話し民主主義を信奉すれば「アメリカ人」という意識になる。おそらく「共産党と憲法」というような曖昧なことしか言えないのは、自由主義・資本主義のように練られた体系が出来上がっていないからではないかと思う。つまり中国はアメリカと同じように脱民族化している。言い換えれば帝国化しているのである。

一方でアメリカという帝国は中から崩壊しつつある。彼らが恐れたのは共産主義がアメリカの資本主義社会を外から破壊することだったのだろうが実際の崩壊は内部で始まった。それはBLM運動を見ても明らかだし「黒人大統領」が出た後のゆり戻しとしてのトランプ大統領を見ても明らかである。アメリカを崩壊させつつあるのはおそらく格差と肌の色だろう。

帝国化した中国も「うかうかすると内部から崩壊しかねない」という不安を抱えている。そのため外側の脅威にとても過敏になっている。彼らが日本を単独の主体と見ているのかアメリカの従属物と見ているのかはわからないのだが、少なくともアメリカは香港や台湾を通じて中国をバラバラにしようと画策しようとしていると思われているようだ。

おそらく世界は急速に分解し始めているのではないかと思う。マリの事例は直接日本に関係がなさそうだが、おそらく日本は多極化する世界に対応しなければならなくなる。アメリカ対中国というより大きな問題である。少なくとも日本はやがて厄介な宿題を処理しなければならなくなる。おそらくその一つは憲法第9条や自衛隊の問題だがそれでは終わらないかもしれない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です