あまりにもヘビーな死生観のニュースをいくつか扱い疲れてしまった。そこで気分を変えようとGYAO!を久しぶりに覗いたら「花より青春ラオス編」をやっていた。2014年の番組である。30代と20代の若手俳優3人がラオスの首都ビエンチャンからバンビエンを経て古都ルアンパバーンに向かう。ラオスは人口700万人弱の社会主義国だそうだ。
韓国のバラエティ番組「花より青春」はドッキリを含むちょっといじわるなバラエティ旅番組だ。だが仲良し旅行を扱っており全体的には優しい気分で見ることができる。日本のバラエティのような競い合いやいじめの要素がないぶん安心してみていられるのだ。結局、この番組ともう一つのシリーズである「ペルー編」を2日で見てしまった。
目的地ルアンパバーンは人口10万人程度の古都であり托鉢で有名だそうだ。番組の中では最後のハイライトと位置付けられている。だがこの「観光托鉢」というのはなかなかイメージが難しい。観光客は食べ物を買ってお坊さんに托鉢する。するとその托鉢された食べ物が貧しい人に施されるという仕組みになっている。番組の中では扱われていないがお坊さんの食べ物は地元の人が別に提供しているらしい。つまりお坊さんは純粋に富の再分配機能を担っていることになる。
これを見るとちょっと複雑な気分になる。施される食べ物はきれいにまとまっているのだが、これをお坊さんの持っているカゴに手づかみで入れる。お坊さんはこれを投げるようにして子供達のカゴなどに入れて行く。番組ではなんとなく「残飯」のようにしかみえないのだ。ラオスの主食はもち米だそうなので日本のようにパラパラにはならないのだが、それでもあまりきれいな光景ではない。特に今は「コロナ時代」だから余計に「衛生面は大丈夫なのだろうか」と心配になってしまう。
そもそもなぜお金のある人たちは直接貧しい人に施さないのだろうか?という疑問はあるのだが、仏教国での再分配というのはこういう形なんだろうなとも思える。
だがこの托鉢のやり方は観光客増加によってかなり歪められているらしい。朝日新聞のウェブサイトに2つの記事を見つけた。
ルアンパバーン(記事ではルアンプラバン)は世界遺産に登録された。観光客は増えたがオーバーツーリズムの問題が起こり住民は郊外に移ってしまう。そこで托鉢が観光客に依存するようになってしまったのだそうである。2018年の記事だ。
この記事はいわゆる「朝日新聞病」を発症している。観光の繁栄と貧困が隣り合わせにリゾートがあるという世界観だ。確かに番組の中にも「浮かれる外国人」が出てくるのだが、実は国民が総じて貧しい。さらに彼らは自分が食べる分の米にはあまり困らないようである。多くの国民が農業に従事していて自分の米は自分で調達できるからである。
これを見てラオスも今は新型コロナで大変なんだろうなと思った。そこで別の記事を調べてみた。
まずラオスに新型コロナウイルスにあまり広がっていないそうである。社会主義なので隠しているのでは?とも疑われているそうだが、実際には人口密度があまり高くなく三密が起こりにくいそうである。また、国民も従順でお上のいうことはすなおに聞く人が多いそうと記事は解説している。さらに国境も封鎖されたそうだ。一党独裁なので「閉める」と決めてしまえば閉めてしまえるのだろう。
ラオスでは今中国との間の鉄道建設が進んでいる。今回の旅行ルートと重なるのでこれがこの国のメインルートなのだろう。ビエンチャンを超えてタイまで鉄路を伸ばす予定になっているそうである。鉄道は2021年の完成を目指しているそうだ。
この中に面白い話が出ている。鉄道の線路の幅が中国と同じ1435mmなのだそうだ。ラオスにはタイ規格1000mmの鉄道もあり共存する予定だという。このことからまずラオスがタイと中国の両面を見ながらバランスを取っている国だということがわかる。さらに穏やかな仏教国であるところから中国流のあくせくしたビジネスはこの地にまでは広がりにくいだろうなという気がする。
もう一つ2019年の記事がある。この記事によると鉄路は単線でトンネルが多いという。ここからラオスの地理的位置付がわかる。もともとタイ人は雲南省あたりに住んでいてタイに広がったそうである。ラオ族はタイ人と同じ系統の言語を話すのでおそらくラオス地域を経てタイに広がっていったのだろう。
だが、番組(ルアンパバーンまで6時間かけて険しい山道を縫って行く)や記事(トンネルが多い)ことからラオスとメコン川がタイと雲南省を隔てる自然障壁になっているということもわかる。気候区分を見るとこの辺りから熱帯になる。温帯に最適化した人たちは入ってこられない。新型コロナがあまり広がっていないということとおそらく関係があるのではないかと思う。つまりもともとウイルス疾病に強い人たちが生き残っているはずだ。この地域には地理的にも文化的にも遺伝的にも漢民族に対する障壁があるのだ。
実はインドシナ半島は新型コロナウイルスに強い地域である。今回の流行が武漢から始まったとすると「震源地」に近いにもかかわらず広がらなかったのはおそらく偶然ではないと思う。
一帯一路政策は中国の「自国主義・自前主義」によっても広がりが抑えられている。例えば記事の中には旧ロシア文化圏との間でレール幅の問題があり広がれないというような話がでてくる。また南沙諸島でも「すべての海域を自分のために使いたい」という自前主義がありASEANの反発を買っている。
周辺国から見れば迷惑な話だが日本から見れば幸運な話だ。中国が自前主義にこだわらず利権を周辺国に分けるような親切な国だったら、おそらく日本がこの地域から排除されているはずだ。中国は自前主義にこだわる「貪欲で迷惑な大国」なので日本のライバルにならずに済んでいるのである。
ラオスは社会主義の国だが托鉢のような民間の再分配機能が生きている。貧富の差といってもみんなが貧しいわけで穏やかな貧困しかないように思われる。中国はここに市場経済を持ち込もうとしているのだがこれはラオスから見れば「格差を持ち込む」ということになる。
実際に同じ系統の民族が住むタイ北部や東北部では貧困が広がっている。成長前提の資本主義はこの地域に政治的な不安定をもたらした。相対的に見てバンコクとの間に格差があるからだ。
北部チェンマイ出身の華僑であるタクシン首相・インラック首相は亡命し、2014年に軍事政権ができた。軍事政権(プラユット・チャンオチャ政権)も盤石ではないようだ。首相はマスコミの疑問に答えるつもりはなさそうである。新型コロナ対策で不満も募り「不敬罪が国王により一時停止された」そうである。国民の勝利ではなく「国王に反抗的な人たちの政治目標をなくした」という意味合いが強いのだという。
タイは国内政治の行き詰まりを抱えて中国からの投資に期待したようだ、だが、思うように広がっていない。一瞬これもコロナのために滞っているのではないかと思った。調べてみたところ、習近平国家主席の戦略上の問題によって広がっていないのではないかという日経ビジネスの記事を見つけた。戦狼外交というそうだ。
ラッセル氏は「中国が植民地化されていた1840年のアヘン戦争から第2次世界大戦が終結する1945年までの『屈辱の100年』は終わった。もう誰にも踏みにじられず、皆からリスペクトされる強国に生まれ変わったと習氏は国民に訴えており、そのストーリーに沿うかたちで進める政策の1つが戦狼外交だ」と話す。
コロナ禍で一帯一路に黄信号、遠ざかる「中国の夢」
ナショナリズムと共産主義イデオロギーの勝利を唄う極めて内向きのメッセージだが、これが却って中国を閉じ込めているというのである。
多くの日本人は今中国の成長と拡大にかなりの脅威を感じているはずだ。だが実際にはいくつもの障壁があって中国は中華圏から出られない。隣国の事情を見るとよくわかるのだが、なかなか隣国の事情には興味が持てない。どうしても強い国の大きなニュースに着目してしまうからである。