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安倍離れというより政治離れを起こした鹿児島県知事選挙

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東京都知事選挙が話題になったが全く話題にならなかった選挙もある。それが鹿児島県知事選挙だ。恥ずかしながら選挙があったことすら知らなかった。自公が応援する三反園訓さんが敗れたところから共同通信は「安倍離れ」と書いている。だが、よく読んでゆくと安倍離れではないことがわかる。このタイトルはミスリーディングだ。ここから見えるのは地方の政治離れである。

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三反園訓さんはもともと脱原発を目指して野党の支持も受けて知事になったはずである。では立憲民主党が三反園訓さんを推したのかと思って見てみたのだが立憲民主党は前の県知事の伊藤祐一郎さんを推したのだという。だが実際に勝ったのは元経産相の官僚(元九州経済産業局長)である塩田康一さんという第三の候補だった。中央からの利益誘導をしてくれそうな官僚を地元が直接探し出して選んだことになる。塩田さんという地元ではトップキャリアの人を説得して官僚をやめさせたところで地元は県知事誘致に成功したことになるだろう。

野党が反三反園に転じた理由はすぐにわかった。西日本新聞によるともともと川内原発を即時停止させるとして当選したのだが再選のためには自公の支援が欠かせないと計算したのだろう。徐々に約束を後退させ二期目に出馬する時に完全に「裏切って」しまったのである。ニュースステーションの政治担当キャスターだったそうだが、おそらく反原発は支援を取り付けるための撒き餌のようなものだったのであろう。人格的にもあまり好ましくなかったようで、いろいろな悪口を書いた記事がたくさん見つかった。

一方、立憲民主党が推した前知事の伊藤祐一郎さんは元総務官僚だったそうである。地方にはよくあるあいのり型の知事だったのだろう。前回の選挙では脱原発を掲げ民進党・社民党なども応援する三反園さんに負けている。今回は立憲側に立ったのだがやはり負けてしまった。

では鹿児島にとって「反原発」にはどんな意味があったのか。

「2004年の保守分裂選挙」という記述が気になったので調べてみた。期日指定検索をしたところ朝日新聞の記事が見つかった。

  • 現職知事(須賀龍郎さん)が引退した。
  • 自民党は溝口さんを推したが伊藤さんは自民党を離党した上で「県民党」を作り立候補した。国会議員2名が伊藤さんについた。
  • 各組織が揺れ始め「風まかせだ」と諦め気味だった。

須賀龍郎さんが後継者をまとめなかったのだろうということがわかる。時期も微妙だった。2004年といえば小泉純一郎政権下で自由民主党は115議席を獲得し民主党は82議席を獲得している。まだ自民党が優位だったのだが実は比例得票数で見ると自民党は16797686票・民主党は21137457票と逆転している。つまり自民党からの離反が起きはじめていたが非改選の議席があるためにまだ劣勢が表面化していなかったという時期なのである。

つまり鹿児島では地元保守の間に分裂が起こり「民主党の風」を入れてでも党派対立に勝ちたいという人たちが現れていたことになる。伊藤さんはこうした風を感じ取り自民党以外の人たちを取り込もうとしたのだろう。実際にその戦略は効果的だった。ただこの時点で伊藤さんには反原発の気持ちはなかったようだ。

三反園さんはこの伊藤さんへの不満を利用する形で知事になった。つまり、地元保守がもともと対立しているのでキャスティングボートを握っている市民運動系の人たちを取り込むのが重要になる。だがそれが重要なのは最初だけでありいったん鹿児島の保守に浸透してしまえば市民運動は用済みになってしまうのだ。

こうした地元保守の対立はまだ残っているのだろう。今回、鹿児島県は自公が推す候補でも民主党系野党が推す候補でもない独自候補を選んだ。ただその独自候補というのが「昔ながらの官僚」だったというところに日本の政党政治の後退を感じる。鹿児島にはおそらく成長産業がなく国からの経済振興支援だけが頼みの綱なのだろう。

経済産業局は地元の経済対策のためにお願いをするときの直接の窓口である。地元経済が中央の経済政策頼みになっていて政治家もあてにならない。となると、直接誰に何を頼んでいいかを知っている経済産業局長こそが県知事にふさわしいということになる。これは明治時代に中央から県知事が派遣されてきた頃の地方政治観である。日本の政治はここまで後退してしまったのだ。

国に全てを頼りきっている地方にとって陳情は県知事の一番大きな仕事だ。民主党が政権を取ったばかりの時小沢一郎が地方陳情を「俺経由」にした理由がわかったような気がした。これが2009年の話である。

自治体からの陳情は、党都道府県連を窓口にして党幹事長室で集約。高嶋良充・筆頭副幹事長ら14人の副幹事長が仕分けて、最終的に小沢一郎幹事長が鳩山首相や政務三役に伝える。知事ら首長による大臣ら政務三役への陳情は、禁止とは明文化されていない。高嶋氏は「意見交換は規制していない」と説明し、今のところ党幹事長室の了解を得て面会するよう運用している。首長が官僚に「陳情」することはふさわしくないとされており、「情報交換」などの名目で官僚と会うことについては基準はない。

小沢一郎

塩田さんはラサール高校を卒業して東大に進み2019年12月まで経済産業省に勤めていたという昔ながらのエリートだ。「2019年12月に退路を絶って経産省をやめたのだ」とWikipediaには書かれている。つまり鹿児島県は現役に一番近い官僚の誘致に成功したことになる。

Quoraで教えてもらったところ鹿児島市で圧倒的な支持を受けたが地方部では昔ながらの組織票に支えられた三反園さんが強かったようである。だが、鹿児島県160万人のうち60万人は鹿児島市に住む。昔、日本は中央と地方が対立する時代になるだろうなと予測したことがある。その時のモデルはアメリカの両海岸と内陸部だった。アメリカ両海岸は多様な文化を背景に経済成長しているのでリベラルになり立ち遅れた地域は保守化した。

確かに日本にも都市対地方という対立は生まれたようだが、経済支援を期待して独自候補を擁立する都市に対して中央の組織を頼ってお情けで生きてゆこうとする地方という対立構造になってしまったようである。これはおそらく鹿児島だけの問題ではない。「地域振興・地方創生」などと言っているが古い生き方と構造にしがみついているのだから成長など起こるはずもない。

おそらく地方は自民党のいうことは聞かなくなるだろう。結局は官僚に頼って経済振興策を出しているだけなのだから地方も官僚を直接誘致したほうが早いのだ。だからこれは安倍離れではない。地方の中央政界離れだ。

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