木曜日にレインボーブリッジが赤から虹色に変わった。テレビでは概ね好意的に取り上げられたようだ。小池百合子東京都政がうまくいっていて新型コロナ対応が成功しているという証だからである。東京の人は「ああよかった、コロナは夜の街の特殊な病気なのだ」と思うことができる。注目ポイントは都知事選挙が始まることだ。12日に再出馬宣言が出された。つまり、これも小池都知事のお得意の広報戦略なのだろうなと思う。
二元代表制のもとで東京都知事は大統領のようなものである。東京都の大統領には再選を制限する規定もないので民意さえ掴んでしまえばいつまでもその地位に留まっていられる。途中いろいろあってもだいたい2週間くらいの民意がつかめればその後の人気は安泰ということになるだろう。小池百合子都知事はメディアを熟知している。メディアは健忘症だ。
祝賀ムードに包まれる東京都制だがもちろんダウンサイドはある。これが報道されていないわけではない。ただみんな気がつかないだけである。気がつかないというより面倒なことは知りたくないのだ。
都によると、新型コロナ対策の予算の大部分は都の貯金に当たる財政調整基金を財源としてきた。昨年3月時点で8428億円だった同基金は、今回の補正予算案で493億円になる。
東京都、新型コロナ対策に5800億円 補正予算案の総額1兆円超に
東京都は余剰資金を貯金していたのだがそれをあらかた使い切ってしまった。未曾有の事態でありそれ自体が責められるものではないのだろう。だが、やはり選挙の事前キャンペーンとして使われた側面は否めない。小池さんは選挙前に有権者に恨まれるわけにはいかなかった。そのためには生き金だったのだろう。
現在、小池都知事は「自粛から自衛へ」と言っているようだ。つまり「選挙が終わった後は勝手にやってくださいね」と言っている。だが、有権者は今まで通り手厚く保護してもらえると思うのではないだろうか。
それにしても恐れ入るなと思うのは小池さんの肝の座り方である。普通の知事ならば「自分は命を預かっている、うまくやれるだろうか」と身構えたのではないかと思う。だが、小池さんは「これでテレビカメラがたくさん自分のところに来るな」と考えたのだろう。ここで成果を上げたように見せることができれば都知事選のいい宣伝になる。小池さんの戦略は見事に当たり、選挙戦は告示前にあらかた終わってしまった。自民党からは対立候補が出なかったのである。蓮舫議員も立たなかった。
こうした手法は小池さんの得意技である。例えば市場会計も支出を削って赤字を縮小しようとしている。市場は苦戦しているし豊洲市場も不振が続いているのだが、会計をやりくりしてそれをどうにか凌いできた。悪く言えばその場しのぎだが、小池さんには「はったり力」がある。
市場会計の綱渡りぶりを新聞は伝えているのだが複数を読まないと綱渡りぶりがわからない。朝日新聞はこう伝えている。
豊洲市場の整備費は約5700億円。市場会計は市場業者の使用料を主な収入としているが、2020年度から豊洲の整備に伴う企業債の返済が市場会計で始まるほか、豊洲市場の運営も赤字となる見通しだ。そのため税収を財源とする一般会計から市場会計に跡地の購入費を入れ、借金返済や市場の運営に備える。
東京)築地市場跡地、都が5500億円で買い取り
2020年度から豊洲の赤字が表面化するので築地の土地を一般会計から市場会計に購入費を入れることによってそれを賄おうとしている。
だが、この計画は築地の土地に収益性が高い事業を入れ流ことが前提になっている。当初「食のテーマパークを作る」などと言っていたが、実はどう使われるのかという面倒な議論はまだ始まっていない。日経新聞はカジノ誘致も含めて議論はオリンピック後だと書いている。実はだ何も決まっていないのだ。
訪日外国人客が楽しめる統合型リゾート(IR)の誘致について、都議会には「築地市場の跡地は有力地」との声もあるが、現段階で都は「築地まちづくりにおいて、カジノは想定していない」と明らかにしている。
築地再開発は五輪後に加速 閉場1年、交通整備も
もっともこうしたジャグリングは小池都政で始まったわけではない。築地の売却が決まったのは石原都政が新銀行東京の設立と経営に失敗したからだと囁かれた。「盛り土問題」が石原都政下で問題になり、当時小池百合子知事はそれを「無責任体制」と攻撃していた。だが、実際にそれが抜本的に解決されることも総括されることもなかった。石原さんの前は都市博を中止した青島幸男都知事がいた。
臨海副都心の開発以来続いているバブル破綻処理の後始末で東京都はジャグリングに慣れっこになってしまった。こうした問題も1年くらいわいわい騒いでいればなんとなくなかったことになってしまう。これまでもそうだったしこれからもそうなのだろう。東京都民にとって都財政は他人事である。
東京都政は「ジャグリング状態」だが、誰かがボールを落としてしまうまでそれが露見することはないだろう。ついには築地豊洲という食の安全に関わる問題とまでリンクしてしまったが小売流通網の発達した東京都民がそれを実感することはない。
だから、東京都民は今のままで知事を選んでいても構わないと思う。被害を受けるのはおそらくまだまだしばらく先のことになるだろうからである。
国会が閉じた次の18日に告示され7月5日に投開票だそうである。今の所これといったライバル候補は出てきていないようだ。
Comments
“小池百合子東京都政で都民が得るものと失うもの” への4件のフィードバック
青島幸男じゃないけれど、
オリンピックと羽田新ルートの可否を住民投票にかける公約で誰か当選してほしいと思います。
どちらもアンケートされることのないテーマなので、言えば当選確実の公約と思います。投票すればどちらも中止確実でしょうしね。
とは言え、怖くて誰も言わないでしょう。共産党も漠然と反対を公約するだけで、住民投票という、それ自体には反対しようのない球は投げないので本気度が低いと思います。
私は逆に「飛行機が飛ばなくなった」千葉側なんですが、やっぱりうるさかったですよ。成田だと問題は解決ですが今度は「遠い」という話になる。いろいろ難しいです。
お返事ありがとうございます。
別に私は何も難しいとは思いませんよ。
便数を減らせば地価の高い都心を低空で飛ぶ必要はなくなります。上皇の御所と首相私邸の上を飛ぶことが異常なのです。
無駄に便数が増えている悪循環を断ち切れば良いと思っています。羽田の発着数を制限して入札にすれば万事解決です。
無駄に飛行機を飛ばすのでエコノミークラスが余って安売り競争になり、さらにLCCが足を引っ張っているのが悪循環と思います。しかも来るのがインバウンド()ですしね。
いずれにせよ、便数の制限が東京にとっても千葉にとっても根本的な解決です。
何にしても、日本では「供給量の制限」「プライシングを用いたアクセスの総量規制」が嫌われていますね。でも実は、大衆に阿る振りをして金儲けをする貧困ビジネスのライト版に皆さん踊らされているだけと思います。
(都心の容積率、マンションの建設、流入車両、これらの規制を頭に置いています。)
なるほど。安いお客さんをたくさん集めようとすると当然便数が増えますもんね。
千葉側は成田に来てもらえればいいんですけどね。