ざっくり解説 時々深掘り

「普遍的価値共有する国々と連携」という言葉の曖昧さとポスト安倍の静かなる加速

Xで投稿をシェア

どうやら時代は一歩前に進み始めたようである。これに気がつくきっかけになったのは安倍総理が「普遍的価値共有する国々と連携」を訴えたというニュースだった。これを聞いて安倍総理は目の前にあるコロナ対応から逃げ引きこもり・夢想モードに入っているのだなと思った。ところがこれを詳しく見てゆくとちょっと違った様子も見えてくるのである。どうやら日本はアメリカなき世界に向けて動き始めているらしい。そしてそこにはおそらく安倍総理の姿はないだろう。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






まず、背景から説明したい。新型コロナウイルス対策のための二次補正予算審議が始まった。そんななか、自民党の山際なんとかさんという議員から突然このような質問が出された。全く脈絡のない質問だった。

この質問はロイターで取り上げられた。「アメリカが頼りにならなくなる中で価値観外交を展開しなければならないという総理の思いがある」というのがロイターの分析である。

私は安倍総理が嫌いなのでこの発言を聞いてまずは反発した。目の前のことに興味を示さず新国際秩序を夢想するとは何事だと思ったのだ。またこれまでの従米路線を転換せずに自国主導の国際秩序作りをしようというのもあまりにも脈絡がない。内政では安倍政権は徹底して議会を嫌ってきた。都合の悪い情報は遮断し時には官僚に嘘をつかせたりもした。その安倍政権が「民主主義は普遍的価値観である」などというのは何やら悪夢に感じられる。

安倍総理の言う普遍的価値には民主主義というものが普遍的価値であり中国などは「偏っている」という決めつけがある。安倍総理自身は自国の民主主義を尊重していないのだからこれは二重思考である。Quoraで質問を出したところ韓国も普遍的価値を共有していないと指摘する人がいた。ますます苛立ちを感じた。

民主主義を踏みにじり、近隣諸国を敵対視しし、アメリカの地域からの撤退という現実を見ない人が「新世代の国際秩序維持」などという言い方をするなどとは不快だと思ってしまう。ところが、しばらくニュースをさらっているうちにふと「この分析には何の意味もないんだなあ」ということに気がついた。

岸田文雄のウェブサイトに「新国際秩序創造戦略本部設立」という一文がある。6月4日に作られている。米中対立という文脈の中で日本がどう立ち振る舞うかということを議論するそうだ。この先どういう提言が出てくるのかはわからないが実際には従米路線からの脱却を目指す可能性が高いものと思われる。つまり表面上は安倍路線を継承していると見せつつも実際には転換させてしまう可能性がある。

質問した人もポイントである。山際大志郎という人なのだが甘利明について「さいこう日本」に参加しているそうだ。甘利派はそのあとで麻生派に組み込まれた。岸田+麻生というのは大宏池会構想なので保守本流の復活である。つまり、この質問は実は「我々はポスト安倍に向けて動き始めましたが、所感をお願いします」という意味なのである。山際さんは岸田・甘利ラインを代表して安倍総理に仁義を切っていることになる。時事通信は清和会と宏池会系で別の勉強会ができたと言っている。安倍総理が出身派閥である清和会を支持するのか宏池会を支持するのかはわからない。

安倍総理大臣はその意味がよくわからず(あるいはわかっているがそれには応えず)なんだかわからない答弁をしてそれがよくわからない取り上げられ方をしたことになる。新体制を構築したいとまるで主語を自分のように言ってしまっているのだが、実はもうお呼びではないということだ。

「これまで国際社会をリードしてきた国が国内の対応で手いっぱいになっている。日本は自由と法の支配など普遍的な価値を共有する国と手を携え、これらの価値観を堅持して、新たな体制を構築したい」と強調した。

普遍的価値共有する国々と連携、新たな国際秩序構築必要=安倍首相

実際には米中を中心にして新しい国際秩序への模索が始まっている。トランプ大統領は中国を敵国にしてロシアを組み込んだ上で新しい国際秩序を作りたいらしい。中国はフランスと話をして既存の国際秩序による協力体制を維持しようとしている。つまりアメリカが国際秩序を破壊する側に回っており、中国が受益者になってしまっている。

日本もまたアメリカが頼りにならない今、別の準同盟国を探し始めているようだ。7月に日豪で地位協定を結ぶそうだ。オーストラリア軍に自国の基地を使わせるつもりなのだろう。アメリカが他国の駐留を許可するのかというのが気になるところである。

ということで、この動きを見ただけでも国際秩序・国内秩序がガラガラと音を立てて再編成されようとしているということがわかる。総理大臣の交代にはいいタイミングなのかもしれない。

また日本にとっての国際秩序というのはあくまでも中国の脅威に対する対策と自国周辺の安全保障環境の構築なのかもしれないと思える。日本政府にとっては日本の周辺だけが世界なのだろう。新国際秩序の構築というと積極的な攻めの姿勢に聞こえるが実は撤退戦なのかもしれない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで