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戦前戦後のリベラルの継続性とGHQの内部対立

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Quoraで「リベラルはGHQが持ち込んだ民主主義をよりどころにしている」と書いたところ「戦前にも民主主義思想はあったのでは?」というコメントがついた。ブログと違ってQuoraはこういう建設的なツッコミが入るのが面白い。「よく知らないので教えてくれ」と返信をしておいた。

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丸投げするのも無責任なので色々とウェブ検索をした。出自が怪しい記事も含めて色々見つかった。それを何と呼ぶかは別にして、素地はあったが運動としては挫折したというのが本当のところらしい。ところが戦後にはまた別の混乱ファクターが見つかった。それがGHQである。

流れを整理すると次のようになる。もともと、フランスから持ち込まれた人権思想は知られていた。吉野作造が民本主義思想としてそれを整備した。ところが、この思想が議会政治に受け入れられることはなく、党派対立を繰り返したのち軍人に恫喝されて翼賛体制が作られた。普通選挙が実施されたのが1925年で大政翼賛会が作られたのが1940年だった。日本の戦前の民主主義は15年しか続かなかった。

敗戦で翼賛体制が打倒されると、党人たちは追放され官僚中心の内閣ができる。しかし吉田内閣がGHQに面従腹背だったこともあったのだろう、社会運動家の流れをくむ片山哲内閣ができた。ところが左派は内部対立に陥り、そのあとを芦田内閣(芦田は左派ではない)が引き継いだが瓦解した。最終的に吉田茂が首相に返り咲き、そのあとは自民党政権が続いた。

片山・芦田の挫折の背景にはGHQの党派対立があったのだという説がある。GSと呼ばれる政治管理部隊とG2と呼ばれる情報工作参謀部門が対立したという話が自民党の文書にも書かれているそう(本文未読)だ。GHQ内部の党派対立の結果GSの「日本弱体化計画」が否定され再び吉田茂のもとで同盟化政策が取られるようになったという流れである。この後日本は資本主義社会の一員として優遇される。

このネット史観を採用すると日本の立憲主義運動・戦前の社会主義運動・戦後の左派政党にはそれほどの継続性がないことになる。一方、現在まで続く日本の政治的な対立と矛盾を作っているのはGHQの内部対立にある。それではこの内部対立はどの程度組織的なものだったのか。

なぜGHQが内部対立を引き起こしたのかという質問も立ててみたのだがこれは回答がつかないかもしれないと思った。実際にはG2/GSという二つの組織がきれいに対立しているわけではなく細かな党派対立があったようだ。本国から「支配者」として送り込まれてきた人たちが好き勝手に自分の理想を追求し議論を始めたのではないかと思われる。実際アメリカの軍政は世界各地で失敗しており、ベトナムや朝鮮半島では戦争まで起きている。つまり日本人はこれを「受け流す」という意味では優秀だったことになる。

面白いと思ったのは「日本弱体化計画」という表現だ。「日本洗脳」などという言葉も聞くし、あるいは本当に「ウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム」という言葉を使った人もいるのかもしれない。ところが、実際には組織的・継続的に弱体化が進んだというエビデンスはない。マッカーサーも日本の統治にそれほど関心がなかったようだし、これといった指導者がいたわけでもないからである。つまり彼らは日本をうまく統治したからといってその実績をアメリカに持って帰ることなど出来なかったのだ。

GHQは派遣元である本国の意向を忖度しながら出世のために成果をあげようとしていたはずだ。本国を見ているだけなので組織内部に一体感はでないだろう。この点は今のトランプ政権を見ていてもよくわかる。植民地経営が失敗するのはそれが統治ではなく成果を上げるための道具に過ぎないからなのだろう。

にもかかわらず「あれは日本弱体化・自虐史観・洗脳だった」という人が出てくる。GHQが組織的に洗脳していたと置くとそれを打破するために右派思想を強化しなければならないといえるからだ。一方右派の台頭を恐れる人たちはGHQが何をしようとしていたかは当然知らないし、憲法の制定過程もよくわからない。ただ単に現状を維持しなければならないと主張し続ける。

現在の右派思想の原点はおそらく経済的に台頭してくる中国や韓国に対する嫉妬と怯えの入り混じった気持ちだ。特に生産年齢の途中で危機感を持ち生産年齢を通過した高齢者たちは直接これには対抗できない。だから「軍隊を作って気持ちを一つにすればまた強くて尊敬される国になれる」と信じてしまうのだ。

一方で彼らはアメリカには対抗できないという怯えも持っている。だからアメリカは叩けない。そんな彼らにとってGHQに異常思想を持った人が潜り込んでおり組織的に日本を貶めようとしていたという物語はとても魅力的に映るはずだ。

今回の短い調べものでは「なぜ民主主義擁護派がなぜ右派思想に対抗できないか」もわかった。現在リベラルと呼ばれている、人権や民主主義志向は戦前からの歴史をみる限りは社会の大勢に抵抗する運動として時々顔を出すだけである。最近の民主党政権でもわかるようにこれが決して日本の政治史の主役になることはない。多分日本人は他人の人権や民主主義には興味がないのだろうという結論を置くと全てがすっきりとまとまる。

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