米財務省、日中など9カ国の為替監視 対象を拡大という記事を読んだ。日本や中国などの9カ国が為替操作国の監視リストに入ったというのである。マスコミも慌てているようだし、なんとなく「ヤバい」感じはする。だが、よく考えてみるとわからないことが多い。
まずわかっていることから片付ける。このニュースに日本のマスコミがビビっているのは、アベノミクスが為替操作であるということを薄々みんな知っているからだ。アベノミクスのいわゆる第一の矢は金融緩和策であり、これは通貨安誘導だ。アメリカに目をつけられると困ると思っている人は多い。
ところが良くわからないのは「なぜアメリカが一方的に為替操作国認定」をして、それで我が国が慌てなければならないのかということである。アベノミクスが良策だとは思わないが、通貨主権は持っているわけだから「我が国の勝手ではないか」と思うのだ。
これを問題意識にしていろいろ調べてみると、トランプ大統領が当選した当時の記事が見つかった。China, Manipulation, Day One, the 1988 Trade Act, and the Bennet Amendmentという中国を念頭においた記事である。1988年の貿易法(trade act.)がきっかけだったと言っている。
話は、管理通貨制度のもとで基軸通貨国であるアメリカのドルが強くなりすぎたというところまでゆきつく。アメリカの製造業が弱くなり、通商条件を(アメリカにとって)フェアにする必要があった。
まず、1985年にプラザ合意が作られ円の価値が急騰した。これが正当化できたのは、アメリカ中心の通貨制度を守ることが西側陣営の安定と繁栄のために必要だったからだろう。国際的に通貨を安定させるスキームが作られ、日本は渋々ながらその提案に従うことになった。ちなみにプラザ合意はバブル経済を引き起こした一因とされる。日本にとっては本業の交易条件が悪くなり、余剰金で買えるものが増えたからだ。資産運用で利益を得る会社が増え、土地の値段がどんどんと上がって行き、やがて破綻する。
この法律は日本語では88年包括通商法と呼ばれるそうだが、コトバンクにある記事には「WTOができたので貿易についての交渉はそちらで行うようになった」というようなことが書いてある。
にもかかわらず「通貨政策を財務省が監視しなければならない」というような法律体系だけは残り拡大されたことになる。
再送-〔アングル〕米為替報告書、中国に強い警戒感 日本も安心できずによると為替操作国認定の根拠は二つあるそうだ。最初の法律が改定され、また別の通路もできたということになるだろう。
米国の為替報告書には、2つの根拠法がある。1つは2015年成立の「貿易円滑化・貿易執行法」、もう1つは1998年の「包括貿易競争力法」だ。
再送-〔アングル〕米為替報告書、中国に強い警戒感 日本も安心できず
アメリカは国際協調を嫌い、なんでも一人でやりたがる。為替操作国を決めるところまではできるのだが、報復関税をかけるようなことをやると自由貿易を阻害しWTOの規制に引っかかってしまうのだ。
もともと西側の国際協調体制の元で正当化されていたものが、中国の参加などで世界的なスキームになり、国際的な協調体制もできている。しかしバイ(二国間協議)好きのトランプ大統領はこれを交渉のカードに使おうとする。そのために、結果的に「アメリカが単にわがままを言っている」ように見えてしまううえに、WTOから敵視されれば「中国こそが自由貿易の守護者だ」というようなことにもなりかねない。アメリカやその同盟国にとってはリスクのある動きである。トランプ大統領はWTOからの脱退を仄めかしている。
さて、この話には続きがある。そもそも管理通貨制度にしたために信用供給国の通貨は「信用」という計測できないものの価値に伴って不当に高くなる危険性がある。アメリカは西側にだけ信用だけを供給していればよかったが中国が入って経済規模が拡大しすればドルの価値は高止まりするはずである。すると、ますます製造業が立ち行かなくなるはずだ。実際にアメリカにはNew Plaza Accordという議論がある。つまり、中国が入った体制でもう一度プラザ合意のようなものを結ぶべきだというのである。
日本も同じことが起きているはずである。つまり、日本も過去に蓄積した信用があるわけだから通貨は高止まりするはずだ。すると製造業は立ち行かなくなる。
ここで製造業を助けるために通貨を切り下げるべきだという意見が出るわけだが、逆に製造業を諦めて高くなった通貨で投資する国になるべきだというような考え方もできる。実際に現在世界第二位の経常収支黒字国になっている。こうなると問題は「経常収支で黒字になったのにそれを国に還元していない」政策あるいは企業の問題ということになるだろう。消費税など議論している場合ではないのだ。
にもかかわらずこうした一連のことはあまり報道されることはない。代わりに報道されるのは解散の風がどうとか、消費税をあげるのを延期するかというような議論ばかりである。報道する側は「視聴者が興味を持たないからだ」というのだろうが、多分報道機関もこの辺りをまとめて考察するような力を失っているのだろうと思われる。