三沢基地所属のF35Aが墜落した。今日はこのニュースについて考える。
これについて最初は「政府は人を殺せる」というタイトルをつけたのだが、しばらく考えてみて、彼をあの飛行機に乗せたのは我々一人一人なんだなと思った。我々は特攻隊の話を愚かな昔話として語るが、今の日本人に当時の彼らを責める資格はないと思う。実はあの飛行機の欠陥はわかっていて、国会でも指摘されていた。その時の政府答弁は「不具合があることは知っているが私たちは聞いていない」というものだった。
この答弁に聞き覚えがあるという人は多いはずだ。特区が特定の人を儲けさせることは知っているが私たちは知らないとか、地元で首相を忖度する動きがあるが首相は知らないとか、安倍政権になってこんなことが繰り返されている。そして、とうとう国民は加害者としてこの件に加担させられてしまったのである。そしてこの状況を放置しておく限り次々と犠牲者が出ることになるだろう。次は外国で人を殺してしまうかもしれないし、追い詰められた官僚が亡くなるかもしれない。もっともこの中に社会の助けがあれば生きられた人たちは含まれない。そういう人たちはもうずいぶん前から「自己責任」に殺されている。
感情的に高ぶっていてばかりいても仕方がないので、状況を整理しよう。
もともとこの飛行機は無理のある開発が進んでいたようだ。これはよくあるプロジェクトの失敗だ。いろいろな人の要望を聞きすぎて収拾がつかなくなってしまったのだ。半田滋という東京新聞出身のライターがゲンダイに記事を書いている。これだけだと偏っていそうなのでQuoraでも聞いてみた。総合するとこんな感じになる。
- F22をベースにして、陸海空軍の要求仕様を詰め込んだために使い物にならない(中途半端な)仕様になった。装備が多く大きすぎるということのようだ。
- 開発費が高騰していたがトランプ大統領が値下げさせたため無理が生じた。
- 一機あたりの値段が政治的に下がったので、大量に売って開発費を稼ぐ必要が出てきた。
このため幾つかの欠陥が積み残しになった。後でリストが出てくるが全て数えると966件になるという。重大な欠陥も含まれている。
- ソフトウェアの開発が遅れており「飛ぶだけで何もできない」可能性があった。
- 乗組員が窒息する可能性がある。
- 逃げ出そうとしても逃げ出せず、中に閉じ込められる可能性がある。
- エンジンが1つしかないので、1つが壊れたら確実に墜落する。
ところが、この欠陥ゆえに次第に安倍首相がトランプ大統領のご機嫌をとるための道具になってゆく。もともとトランプ大統領がF35は高すぎる!と言ったためロッキード・マーティン社の株価が急落した。これがトランプ大統領にとっての成功体験になっているというのである。つまり安倍首相としては個人的な貸しを作りやすい飛行機だったのである。
日本流の情の政治では困っている時に助けてくれるのが真の友達である。だから、安倍政権は無理難題を引き受けたり、ポンコツな人材を引き受けたり、ポンコツな飛行機を引き受けてしまう。そしてこれを貸しにして自分のやりたいことを相手にやってもらうということになっている。
さらに体裁上は「アメリカから最先端のものを買わせていただいている」という取引になったそうだ。もともと軍事秘密の塊なので日本は重要な部分に触れることはできない。少し長いが半田さんの文章から引用したい。これは2017年の記事である。あらかじめわかっていたのである。
FMSとは、米国の武器輸出管理法に基づき、(1)契約価格、納期は見積もりであり、米政府はこれらに拘束されない、(2)代金は前払い、(3)米政府は自国の国益により一方的に契約解除できる、という不公平な条件を提示し、受け入れる国にのみ武器を提供するというものだ。
[中略]
当然ながら、問題も噴出している。日本の会計検査院は10月26日、防衛省がFMS取り引きを精査できず、米国の言いなりになってカネを支払っているのではないかと指摘した。
防衛省が2012年度から16年度までにFMSで購入した武器類の不具合は734件(91億9118万余円)ある。このうち12件(3194万円)は、防衛省の担当者と武器を受け取った部隊との間の確認作業などに時間がかかり、米政府が期限とした1年以内を越えて是正要求したところ、米政府から門前払いされた。日本側の大損である。
「ポンコツ戦闘機」F35、こんなに買っちゃって本当に大丈夫?
これを放置した結果も、半田さんの文章から読み取ることができる。なんらかの異常があったのだろう。犠牲になったのは働き盛りのパイロットだった。
操縦していた細見彰里3等空佐(41)は、三沢基地のレーダーから機影が消える直前、無線通信で「ノック・イット・オフ(訓練中止)」と伝え、間もなく消息を絶った。
F35墜落、原因究明を阻む「日米間のブラックボックス」の実態
さらに日経新聞も「脱出装置は使われなかったようだ」としている。ただ、直前まで意識があったが脱出できなかったのか、それとも急激に意識を失ったのかということはわからない。
細見さんに何があったのかということは最後までわからないかもしれない。人々はすでにこの事件にいろいろな思惑を重ねて見ているからだ。まずアメリカの当事者たちは「外国に秘密がバレるとまずい」と思ったようだ。中国やロシアのことを心配したのである。CNNはアメリカも捜索に加わっていると書いているのだがこれは親切心からではないだろう。日本より早く見つけて軍事秘密を回収しようとしているのだろうし、そもそも日本は捜索もさせてもらえないかもしれない。つまりこれは日本側が調査できないということを意味する。そして日本政府は今後もアメリカが「問題ない」といえばそれを鵜呑みにしていつ墜落するかわからない飛行機を買い続けるかもしれない。
この姿勢が安倍政権の性格に起因することは間違いがないのではないか。責任を取りたくないことは部下に任せて聞かなかったことにすればいいというのは首相がさんざんやってきたことだからだ。共産党がすでにこの問題を2月に取り上げている。が我々はこれを無視した。「どうせ共産党がいつものように騒いでいるだけだ」と思った人も多いはずだ。
米国からの兵器の大量購入を決めた安倍政権が、105機の追加取得を行うF35ステルス戦闘機について、岩屋毅防衛相は15日の衆院予算委員会で、米政府監査院(GAO)が報告で示したF35の未解決の欠陥966件(2018年1月時点)の「リストは保有していない」と述べ、同機の欠陥を把握していないことを認めました。日本共産党の宮本徹議員への答弁。宮本氏は、F35のコスト急増問題に加え、「どういう欠陥があるかもわからないまま105機も爆買いするのか」と批判しました。
安倍政権の“浪費的爆買い”
さらに問題なのはこれが与野党運動会に利用されてしまうという懸念である。共産党が声高に反対すれば与党支持者が「強硬な対応」にでて思考停止に陥ることは目に見えている。多分「自衛隊員の命を政治利用するな」というような話になるのだろう。だが、今の野党はこの件を取り上げていない。パイロットが見つかっていないので「亡くなった前提」で政治利用すると逆に反発される可能性がある。いつ持ち出せば一番効果的に安倍政権を叩けるかという野党の思いが透けて見える。彼らももうパイロットの件を実は忘れているのかもしれない。
もちろん地元は地元で心配している。東京新聞は地元の不安を伝えるが、いつ落ちるかわからない飛行機の基地にされたのではたまったものではない。
岩屋毅防衛相はすでに同型機の飛行見合わせを表明し、三沢市の種市一正市長との面会では「地元の皆さまに大変ご不安を与えてしまい申し訳ない」と陳謝した。基地周辺住民の不安を考えれば、原因が究明され、対応策が完了するまで飛行を再開すべきではない。
空自F35墜落 国民が分かる究明に
ここからわかるのは安倍首相の「気配り」を起点にして全てがバラバラな方向に歩み始めているということである。安倍首相は周りにいい顔をしたいのだが、そのために大勢の関係者たちが犠牲になり、傍観者を加害者として巻き込む。今回の最大の犠牲者は今回まだ行方が分かっていないパイロットとその家族であり、次に基地近隣に住んでいる人たちだろう。そして加害者は非常に残念なことなのだが、我々一人ひとりなのだ。