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塚田一郎国土交通副大臣の辞任劇と保守分裂選挙

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大方の予想を裏切って塚田一郎国土交通副大臣が辞任した。問題の発端になったのはエイプリールフールの「私が忖度しました」発言である。マスコミではいろいろな分析がされたのだが、これは自民党内の派閥争いだろうと思った。古い自民党体質が再び表に出てきているのだ。

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今回の辞任劇は、支持者たちに向けた「下関北九州道路の予算付けに私が忖度しました」という発言がきっかけになっている。ちょっとした冗談のつもりだったのだろうが「エイプリルフールでした」と開き直る雰囲気でもなかったようである。野党はお決まり通りに攻撃したが世論の支持は得られなかったし、当初のマスコミもこれを炎上させるようなことはなかった。にもかかわらず次第にマスコミの扱いが増えて行きわずか4日で辞任となった。

もともとは西日本新聞が伝えた小さな記事に過ぎなかった。塚田さんは麻生副総理の秘書出身であり自他共に認める「筋金入りの麻生派」である。国交大臣は公明党出身なので、自民党ではこの人が窓口になる。財務大臣と国交相副大臣が先生と秘書でつながっているというのはなかなか笑えない話だ。安倍内閣の中に仕掛けられた利権の構造がよく見えるわかりやすい人事である。つまり、利権が欲しい人は麻生派に仁義を切らなければならないという利権人事なのである。塚田さんの発言が具体的なところから実際にこのようなやりとりが行われたのは間違いがないだろうし、それが悪いことだという認識もなかったのだろう。

当初から事実誤認はあった。塚田さんは事業の中止を民主党政権と結びつけていたようだが、実際に中止したのは自公政権なのだそうだ。忖度という危険な言葉をあえて使って煽ったのは「野党の反政権キャンペーンが成功していない」という油断があったからだろう。いずれにせよ、よそ者である塚田さんは地元の積み重ねを搔き回す結果となった。地元は事業中止を覆すべく周辺自治体が協力して独自調査をしていたそうだ。塚田さんの時代になって国が4000万円の調査費用を認め「国の直轄事業」に戻ったという経緯がある。地元としては「寝た子を起こして欲しくはなかった」だろう。塚田さんが辞めてもこの事業は事業採算性の問題を差し置いて政治課題化し「忖度道路」として野党の攻撃対象になる。地元としては迷惑な話なのだ。

テレビでは「野党が攻撃してこないので、じわじわと長引かせる作戦なのではないか?」などと言われていたがTwitterを見ていても問題がそれほど盛り上がっているようには思えなかった。蓮舫氏も発言を非難しているがスポーツ紙が伝える程度で新聞では話題になっていない。森友・加計学園問題に国民は飽きはじめており、国民が求めている「サーカスとしての政治感情」が満たせそうにない。なので政権のダメージコントロールでしたと言われてもなんだかピンとこないところがある。

この問題については語られないことが二つある。まず、福岡県の自民党は二手に分裂している。産経新聞によるともともと現職小川洋知事は麻生副総理と良好な関係を保っていたようだが次第に独自色を強めて行った。そこで自民党は麻生副総理の意向を汲んだ新人を擁立して小川知事への推薦を外してしまう。このままでは野党候補に見られかねないと危惧した小川知事が「全政党の支持を外す」というところまで来ている。不思議なことに中央政界と福岡県が対立するという構図になっているのである。

この辺りの感情的な経緯は日刊スポーツに詳しいが、ざっと読んでみても事情がよくわからない。強引な麻生副総理のやり方に反発した地元は「非公式ながら」現職を支援しており、面子を守りたい麻生陣営側が「政府の応援」をほのめかしていたという背景がある。実は塚田発言にはそういう文脈で発言されたのだ。麻生さんの後ろ盾がない小川さんでは地元に利権を流せませんよと言っているのである。

この「カネで票を買う」やり方は沖縄でも見られた手法だ。福岡のようにある程度経済的に成功している地域がこれをどのように受け入れるのかに注目が集まる。全国的にはほとんど報道がないが、福岡県知事選挙は実は注目の選挙区なのである。地元の支援者の中にはかなり反発している人たちがいるのではないかと思われる。こうした中央政治への敵意が今回の塚田辞任につながった可能性があるのだが、中央からの取材だけではこの辺りの機微がよく見えてこない。田崎史郎さんが「読みを外した」のは彼が永田町の中だけしか知らないからなのかもしれない。

もう一つ語られないのが同席していた参議院幹事長の存在である。吉田博美参院幹事長は「独立王国」と呼ばれる参議院自民党のトップであり、今回の件に関与していたものと思われる。彼が忖度を求めて政治介入したとなればこれも大きな問題になるだろう。吉田さんは竹下派とのことである。地方選出の参議院議員は議席がなくなりかねないという状況に直面している。つまり利権を持ってこないと「使い物にならないからいらない」ということになってしまうかもしれないのだ。だが、この辺りの動機も一切語られることはないだろう。

一方、強いリーダーシップを持っているはずの安倍首相はこの件について特に動くことはなかったし、誰もそれを不思議に思わなかった。野党から追求されれば「罷免はない」と言い切ってしまったが、内部の対立から来た「党内政治」で辞任が避けられなくなると特に「私の内閣の一員」として守ることもなかった。ひたすら傍観者だったわけで、党内政治のグリップを完全に失っているものと考えられる。だが、これも不思議なことだがそれを非難する人も誰もいなかった。

もともと自民党は利権誘導型の政治を行ってきており、支持者もそれを望んで来た。しかし、今回の発言が行われたのは麻生派の会合だ。つまり、必ずしも福岡県自民党ではない。周りが見えなくなるほどの内部闘争というかつての自民党の末期症状が再現されつつあるように思える。つまり、福岡県に利益を引き込むという話ではなく、誰に付いていったら一番おいしい思いができるかということを選挙演説の場でおおっぴらに始めてしまったのである。それが結果的に地方の自民とを分裂させ、地元が積み重ねてきたプロジェクトを引っ掻き回すことになった。中央から送られてきた人は地方の空気が読めないのだ。

麻生首相はかつて自民党をまとめられず自民党が政権から陥落する主犯になった人だ。気位が高く間違いを認めないので、自分の思い通りに動こうとすると周りが混乱する。かつて永田町を混乱させた人が今度は福岡県を混乱させようとしており、それが内閣に飛び火した形になっている。そしてそれを内閣総理大臣が傍観者として眺めている。こうした末期症状が表に出てきていたのはもう10年も前の話なのだが実は全く何も変わっていませんでしたということであろう。

これを報道することは自民党のトラウマに触れることになり「政権を腫れもののように扱ってきた」在京マスコミがこれを取り上げることはないだろう。見え方としては単に「なぜかわからないけど選挙への影響を避けて塚田さんが勝手にやめてしまった」というような伝え方になってしまった。が、最初は全く触れなかったのに「政権が守ってやらないんだ」ということがわかった瞬間に報道が増えていった。部外者として攻撃されないところで「面白おかしい」コンテンツを求めている。

最後にもう一つ絶対に語られないことがある。それが野党の役割である。野党が自滅してしまったことで自民党が一つになる理由がなくなり今回のような「みっともない」騒ぎが起きた。安倍政権を終わらせるためには、野党は最初から多分自民党政権を攻撃すべきではなかったことになる。野党はだらだらと政権を攻撃することで安倍政権を延命させてきたのである。

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