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外国の労働力に頼るというのはどういうことなのか

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日本政府が海外の単純労働力の受け入れの検討を始めたようだ。このニュースをみて、前に予想したことが起こりつつあるのだなと思った。

以前経営について考察している時、経営を刷新しない限り日本は成長が見込めず中国やインドと競合することになるのだと考えた。インドや中国などがキャッチアップしてきており製造業分野で日本と競合しているからだ。インドはまだ日本のライバルという段階にはないのだろうが、中国はすでに競合相手になっている。交易条件を揃えるためには人件費を抑えなければならないから、日本は中国の平均賃金に近づいて行くだろうと考えた。

だが、その時には日本では社会保障の費用が高いのでこれは無理だろうと考えていた。また移民受け入れは競争力の観点から高度技術者を優先させるべきだと考えていた。いったん高い生活水準を覚えた人に「これからはインド並でお願いします」というのも無理な話だからだ。だが、実際には海外からの短期労働者を受け入れることでこれを乗り切ろうとしているらしい。

短期移民の話をすると、たいてい「治安や同化」が問題になる。これについて言及している人は大勢おり付け加えることは特にない。一方で、日本がインドや中国並みになることについての分析はない。いくつか考えるべき問題がある。

政府は国のグランドプランを作れなくなっている

第一に政府は国のグランドプランを作れなくなっているようだ。今まで通りに先進国の一群としてやってゆくのか、競合の多いセカンドグループで競争するのかという議論は聞いたことがない。実際にベトナムからの移民はこのセカンドグループとの間で取り合いになっている。多民族状態になれた国では移民の受け入れに拒絶反応が少なく審査も簡単なのだそうだ。このため日本は移民獲得競争で不利な立場にある。

さらに、日本の高等教育を受けた労働者を使いこなせなくなっておりこちらの問題も手付かずである。自前でお金をかけて高等教育を受けた人たちを使わずにわざわざ競争率の高い分野に参入しつつあるのである。帝国データバンクの調査では「正社員が足りない」という企業が半数の50%近くあるという。これは労働の流動化が進まずに労働市場が形成されていないからだろう。これについても有効な対策はないようだ。そこに外国からの労働者を入れようとしているのである。

政府がグランドプランを作れない理由は幾つか考えられる。官僚を圧迫して嘘間でつかせているうえに、野党との協力関係も結べないので労働諸団体から有益なアイディアが上がってこない。国民は文句は言わないが黙って引きこもってしまうので問題も顕在化しない。そこで日本は人材資源を生かしきれない国になっているように思える。

資本主義は後退を想定していない

人材を生かしきれないことで、国の経済は伸びなくなっている。失敗して縮小しているわけではないのがせめてもの救いである。国の成長率は利子率に換算できる。つまり、成長しなくなった国や地域は外からお金を集めることができなくなってしまうということを意味している。東京の中心部はまだ伸びているようだが、それ以外の地域には新規投資は行われない。また東京の北部(新宿区から北区にかけて)では外国人に単純労働を頼る地域も生まれているようだ。こうした地域ではビルも道路網も生活インフラも更新できない。

これを防ぐためには地域(おそらく道州単位くらい)で中核産業を作るべきなのだが、中央集権制の強く、地方が中央に依存するマインドセットが固着した日本はこれができていない。スペインやイタリアといった先進国脱落組は地方自治の問題を抱えているが、日本ではこれすら起こらないま。東京はやがて地方を支えきれなくなるが、そのあとにどんな問題が起こるのかはよくわからない。

前進しなければやがて競争に負けてしまう

日本が現在モデルにしているのは中国であろう。中国は後背地域から大量の労働移民を受け入れているが都市への移住は認めない。このため都市は比較的安価に労働力を調達できる。地方への賃金による所得移転は起こるのかもしれないが、それでも同じ国の内部の話だ。日本には後背地域がないので、これを東南アジアなどで置き換えようとしているのだろう。

だが日本は明らかに中国よりも不利である。集まってくる人たちは外国の人たちなので、やがてその国の政府が異議を唱える可能性がある。労働者が日本に税金を収めて日本で支出すれば単なる労働力の収奪になる。しかし短期労働者はほとんどの所得を仕送りに回すかもしれない。すると賃金が海外に流出しているということになる。日本の企業はすでに国内投資はしない(これを内部留保金と言い換える政治家がいる)で海外投資に回すので、日本は実質的に資本流出を起こしていることになり、将来これが加速するということを意味する。

冒頭で述べたように、日本政府にはこうした中期的なビジョンを一切提示しておらず、場合たり的な大転換を起こそうとしている。つまりこれは出口のない戦略ということになる。

もちろんアクションを起こすことが悪いことだというつもりはないのだが、グランドプランのない変更は失敗した時に誰も責任を取らない可能性が高い。だが野党は批判するばかりでグランドプランを提示しろとは要求しない。

日本には同じようにして経済が行き詰った経験がある。それが第二次世界大戦だ。日本は苦し紛れに大陸に出て、最初はたまたま成功した。しかしそこで列強とぶつかったのである。だが、いったんコミットしてしまったアクションには責任者もグランドプランもなかったので、これを止められなくなってしまった。

短期労働者政策が成功すると結果的に労働力戦争が起こることになる。だが、そもそももっと魅力的な移民先はいくらでもあり、ローカルの市場が活性化して労働力が得られなくなる可能性も高い。つまり、戦争にすらならず敗戦してしまう可能性もある。

資本滞留と人材滞留

日本人が場当たり的でグランドプランが作れないのはどうしてだろうか。それは中央集権のように見えながら、その正体は小さな村落の共同体だからである。これがうまくいっている時には小さな村が集めてきた情報が中央に集約される。ところが村が孤立すると情報が中央に集まらなくなる。現在は省庁や地方自治体が情報を持っていてもそれが中央に上がって行かない。中央が嘘をつくように矯正してくる上に情報を都合よく解釈してしまうからである。

それでも中央は「アイディアを集めるように」と命令してくるので、地方や省庁は適当なプランをでっち上げるようになる。今でも地方創生というと様々なアイディアが上がってくるのだろうがどれも場当たり的な補助金目当てのありきたりのプランか、首相のお友達を優遇するための言い訳に過ぎなくなっている。

こうした状態で企業は政府も金融機関も信用しない。儲けは海外で投資されて国内に還流しなくなる。中央経済は外国での投資を原資にしており日本のインフラを使っていないので日本政府に納税するインセンティブも機会もない。ゆえに納税はない。すると日本政府は納税のある経済(つまりそれは低成長の地方経済だ)に依存することになる。経済活動がなくなれば地方にも政府にもお金は回らなくなる。こうして地方はますます病みおとろえて行くのである。

すると海外労働力に頼らざるをえなくなる。しかし、彼らは定住するわけではないので国内に投資しない。その一番大きなものが住宅だろう。こうして賃金が国内に流れることになり、衰退が加速するのである。

すでに影響が出ている

日本はすでに成長を諦めているので未来に対する投資にはお金が回らなくなっている。具体的には教育や子育てに対する投資はほぼ絶望的である。リベラル系の人たちは軍需産業をライバルと考えているようだが実際のライバルは低成長なのかもしれない。日経新聞はOECD加盟国のうちで日本の公的教育への支出は最下位(2014年当時)であると伝えている。すでに私的セクター(家庭)が重い投資負担を強いられている国なのだが、教育に支出したところでそれを生かす場がなければ投資が活用できない。このままでは地方はこの先高等教育から脱落することになるだろう。

前回の東京オリンピックは経済成長を世界に印象付けるとともに高度経済成長のためのインフラ整備に外国からの資金を呼び込むという効果があった。このため運用にお金をかけることに対してそれほどの問題は出なかった。しかし今回は低成長を前提としているので投資に対するリターンが見込めない。オリンピックそのものが投資の目的になっている。建設や広告といった「お友達」にはお金を回す必要があり、残った経費は人件費しかない。そこでボランティアを労働搾取して乗り切る方針のようだ。もはや国家的イベントすら開けなくなっているのである。ハフィントンポストによると宿泊費も交通費も出ないボランティアが数万人単位で必要とのことであり、実際には計画はすでに破綻している。彼らは10日以上フルタイムで働く必要があり、その期間には会社に勤務することも他の仕事をすることもできないのだ。NHKによるとそもそも東京では有料の労働力すら集まらなくなっており、外国人依存が出てきているそうである。

こうした状態を改善するためには、まずボロボロになっている末端から情報を集めてきて新しいグランドプランを作る必要があるのだろうが、安倍政権にはその実力はない。とはいえ、次の政権がそうした実力を兼ね備えているかどうかはわからず、野党はさらに当てにならない。

「国を愛して何が悪い」と叫んだ若い音楽家がいるそうだ。確かにその通りなのだが、サッカーに熱狂して御霊に祈りを捧げる軍国ごっこが愛国なのかと言われるとそうではないと思う。実際には地方からボロボロになってゆく予想ができるのだが、意外なことにこれに気をとめる人はあまり多くないように思える。

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