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スペインの政権交代

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今回はスペインについて勉強したのでご報告したい。ヨーロッパの比例代表制の失敗は日本の政治について考えるときの参考になるだろう。ついでに、Twitterで出会った「リフレさん」についても考える。


イタリアでようやく内閣が成立したと思ったら今度はスペインで政権交代が起きた。ラホイ首相が不信任されて社会労働党のサンチェス党首が首相になった。Twitter上では「あるべきことが行われている」という賞賛論が目立つ。フォローしている人に反安倍派が多いからだと思う。だが汚職の可能性がささやかれてから実際に政権交代が起こるまで6年以上もかかっている。とても「民主主義が機能している」と手放しで賞賛できる状態でもなさそうである。

このニュースをみて「なぜ、与党から造反者が出たのだろうか」と思った。実際には与党から造反者が出たわけではないようだ。スペインは二大政党制ということになっているがどちらも議会では過半数を持っていない。このため、一部の政党がラホイからサンチェスに乗り換えることで政権交代が実現したのである。このような状態になるということは、スペインは比例代表なのだろうなと思った。調べてみるとやはり県単位の比例代表制度のようだ。このため少数政党が乱立しやすいのだろう。

ラホイ首相には2013年から汚職の疑惑があった。時事通信によると、ラホイ首相は罪を免れたようだが与党国民党の幹部29名に汚職で有罪判決が出た。これが決定打となり議会の信頼を失ったということだ。日本で例えると汚職容疑がある安倍首相は立件できず、お友達が摘発されたような状態である。とはいえ、サンチェス新首相(ハンサムなリベラルの党首ということで日本には該当する人がいない)が国民から支持されているわけではない。政権交代前の野党は「すぐに選挙をやる」と言っていたのが、最近では国を落ち着けてから選挙をやると言っている。選挙があっても不安定な状態が改善されるわけではないので、

政権交代が起こる裏には「今の政治にうんざりだ」という市民の声がある。これは安倍政権のデタラメに怒っている人たちが政権交代を熱望するのと同じ構造だ。その意味では立憲民主党や自由党の潜在的支持層に似ている。ただ、こうした人たちは具体的な組織を持たないので野党側が頼るのが「バラマキ」である。

ここでEUが邪魔になる。EUはユーロの混乱を恐れて加盟国の政府に厳しい緊縮を要求する傾向にある。イタリアではこれが反発されてポピュリズムの台頭を招いたのだが、スペインでも同じことが起きている。ただし、スペインの方がまだ「マシ」な状態にあるという。ポピュリズムの度合いはイタリアほど高くないようである。だが、イタリアと同じように反ユーロ・反EUが加速する可能性はあり、この場合も世界経済全体の混乱につながるだろう。

日本の自民党は、与党有利に作られた小選挙区制のためにそれほどあからさまなポピュリズムに走る必要はない。加えてEUのような監視組織もないので放漫財政(反発する人は多いだろうが実際には税収の不足を国債で補っており財政健全化も先延ばしにし続けている)によってかろうじて国を支えている。それでも、やはり特区や労働法制度を悪用した企業へのあからさまな利益供与によって支持者たちを繋ぎとめておく必要がある。小選挙区による「下駄」がなくなってしまえば、かなりなりふり構わないことをして政権を維持しなければならなくなるだろう。

よく、日本のTwitter政治評をみていて「このバラバラな人たちでも、政権を取ったら政策を立案するためにまとまるようになるんだろうか」と思うのだが、実際には頑張って国をよくしようという機運は生まれずさらにポピュリズムが蔓延するようになるのかもしれないなどと思う。


さて、これについて書いている時にTwitterで「国債を発行して不良債権を全て吸い取ってしまえばよいという典型的なリフレの人に遭遇した。タイムラインを見ていると本格的なリフレ派信者のようなので、真っ向から反論する気にはなれなかった。

この人の言っていることの何がおかしいのだろうかと考えた。そこで思いついたのは、不良債権を国債で救済しても、システム的な欠陥や構造が修正されない限り何度でも同じことがおこるだろうという点だった。不自然にシステムをゆがめているのだからある時点でなんらかの揺り戻しがきて「大変なことになる」のではないかと思うのである。ただ、この見込みの元になっているのは「経済全体は誰にも把握できないが、とりあえず現行の制度が正しく運営されていればおのずとうまくゆくのだ」という根拠のない思い込みである。

最初は不良債権を水のように考えていた。つまりポンプで不良債権という水を吸い取っても次から次へと水が溢れてくればタンクはいっぱいになるだろうと思ったのである。

ところが考えているうちに流れが逆なのだなと気がついた。つまり雨が降っても地面に吸い込まれてしまい地表が砂漠化してしまう。国家の信用という水を無限に生み出せるとしたら「国債の無限発行(構造が変わらないので周期的な変化は起きないから理論的には無限に信用を供給しなければならない)」はそれなりに説得力がある。

実際にスペインとイタリアでは信用の砂漠化が起きている。特にスペインは住宅ローンの問題が解消しておらず、多分イタリアも似たような状態にあるのだろう。2009年のリーマンショックの影響から抜け切れていないのだ。日本の場合も停滞の直接の原因は土地の資産価値の崩壊なので、状況としてはスペインやイタリアに似ている。

しかし、ここで幾つかの疑問が浮かぶ。まず、国家が無限に水が供給できるのかという問題がある。ただし、これは砂漠化が起きており水が吸い取られていると考えるならばそれほど大きな問題にならない。供給側は無限でも実際に回る水の量は一定なので、理論的には壊滅的なインフレが起こらないからだ。

この場合は国債を「国の借金」と呼ぶのはやめた方が良いだろう。信用の無限供給であり返済の見込みはないからだ。

もう一つの問題は本当に砂漠化しているのかという点である。水を無限に供給して行けばやがては吸い取っていた何かが水を吸収できなくなる。するとそれが実体経済に逆流してくる可能性があることになる。それがどれだけの畜水能力を持っているのかは誰も知らないし、システムとして完結しているのかもわからない。

資本主義はシステムが稼働すればするほど中央に信用が積み上がってゆくシステムになっている。周辺は物資(エネルギー・地下資源・農産物)を供給してそれを支えてゆくという仕組みだ。ピケティの論に従えば、スペインにしろイタリアにしろ庶民の労働の対価は労働は中央に集まり蓄積して戻ってこない。資本が資本を増やす方が効率が高いからである。農産物は無限に供給できるが、供給する物資を持たない庶民はやがて飢えて死ぬことになる。

しかし中央に何があるのかを可視化できないので、人々はそれを見えるものに置き換えて議論するようである。スペインやイタリアの場合はそれがEUになっている。つまりドイツが吸い上げているのだろうという疑惑である。一方アメリカでも同じように格差が拡大しているのだが、こちらは1%を中国や日本に置き換えている。最近ではヨーロッパとカナダも標的にされているようで世界各国からアメリカに対する非難が集まりつつある。

古くからこれを解消してきたのは戦争である。戦争が起こると生産設備が<平等>に破壊されて格差が是正される。だが、庶民も同じく被害を受けるので「今すぐ戦争を起こすべきだ」とは思わない。つまり、戦争をやめるということは同時に戦争の経済的なリセット機能の代替装置を政治的に構築する必要があるということになるだろう。

ここで日本についても論じたくなってしまうのだが、長くなる上にそれほどの裏打ちが提供できない。一つだけ言えるのは安倍政権は砂漠化の要因になっているということだ。法人税を減税すると国内市場で蓄積された信用は企業内部にとどまるか海外の市場(債権や企業買収)に逃避することになる。だが、日本の場合はこの影響が20年程度遅れることが予想される。高度経済成長期の恩恵を蓄積した60歳が数十年かけてゆっくりと信用を放出するからだ。この猶予があるうちになんらかの有効な対策を打てはスペインやイタリアのような状態には陥らずに済むだろう。

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