古着屋でComme Ca Ismのコットンジャケットを見つけた。108円だった。よく見るとボタンが4つ付いている。4釦ジャケットだ。「これはどう着ればいいのか」と思った。
他にもスタンドカラーのコットンスーツが売られていた。普通に4釦として着ることもできるが、襟を立てると5釦としても着られるというものである。こちらはSHIPSのもので500円で売られていたものである。
今ではすっかりなくなった多釦スーツだが、以前はちらほら見られたのかもしれない。メーカーにとっては迷惑なのかもしれないが、型番を伝えると発売シーズンと当時の値段を教えてくれる。いつ頃流行したものなのかを調べると、どちらも2003年から2004年のシーズンに作られたものらしい。
メーカーよるち、当時のルックブックなどは残っていないということだ。ある程度時間がくると処分してしまうのだそうだ。さらにネットは今ほど発達していないのでウェブ上にもルックブックは残っていない。手持ちのカタログを調べてみると、DNYKの1997年のカタログとGian Franco Ferreの2000年のカタログに4釦ジャケットが見つかった。さらに調べると1997年のVersaceのカタログにも4つ釦のものがある。この頃にリバイバルとしてウール素材の多釦スーツが扱われていたことがわかる。ちょうどクラッシックな3釦が標準だった頃なので、このような多釦スーツが扱われる余地があったのだろう。DNYKは上二つ掛けにしており、Ferreは三つ掛けにしていた。今でいうチェスターコートのような着方をして縦長のラインを作っているものが多いような印象を受ける。
そもそもいつ頃からこのようなトレンドが始まったのかと思い、図書館で’50s&’60s メンズファッションスタイルという本を取り寄せてみた。
無難なグレーのスーツの中にも4釦が見られるし、オランダが提案しているというTwen Lookというスタイルの一部として4釦スーツが提案されている。この頃には洋服を部品にするような「コーディネート」という考え方は一般的ではなかったようだ。代わりに変わった形のスーツを着るという文化があったことになる。
もともと多釦スーツがあり、それが1990年代にリバイバルした。最終的にコットン素材のカジュアルなジャケットに降りて行き、最終的に消えてしまったことになる。
こうした釦の変遷はある程度西洋の流行を参考にしている。しかし、日本独自で発展した流行もある。日本は大きめの体型の人が多い西洋からスーツを輸入したためにオーバーサイズのものを着るのがかっこいいという時代があった。バブル期には誰もが大きめのスーツを着ていた。ここから揺り戻しがあり、今度はタイト目のスーツが流行する。現在ではこれも収束しオーバーサイズの衣服が流行面では主流になっている。
面白いことにアメリカのファッション指南のウェブサイトを見ると「サイズを合わせる」のが絶対条件になっていてオーバーサイズという概念そのものが存在しない。Fitting Clothesというサイトは次のように言っている。
If you see a man wearing tight fitting clothes on the street, chances are you peg him immediately as ‘gay’ or a self-involved metrosexual. If you see someone wearing baggy or loose clothes, you think of them as sloppy and not someone you would trust to get things done (if they’re at the office).
一時期流行したメトロセクシャルだが、今では日本語でいう「ナルシスト」のような扱いを受けているようだ。1994年の造語であり、2000年代に流行したということだ。タイト目のスーツはナルシストかゲイであり、一般男性は体にあったサイズの服を着るべきだと主張されているのである。
特に若い日本人は体つきが平坦なのでオーバーサイズにした上でレイヤードするという選択の余地があるのだろう。「ストリート系」や「モード系」のファッションサイトなどを見ても、BEAMSのカジュアルカタログもオーバーサイズ全盛だ。日本人は保守的とされているのだが、こと洋服に関しては東京は革新的な都市なのかもしれない。アメリカ西海岸をモデルにしているSAFARIも日本のオーバーサイズの流行を無視できなくなったのか「ジーンズは太いほど余裕があるように見える」などという記事を出している。
4釦ジャケットなど今では全く見なくなったと書きたいところなのだがオーダーメイドなどでは4釦スーツを作っているところもあるようだ。どちらかというと若い人が着るということなのだが、実際にオーダーする若者がいるのかどうかはよくわからない。
またMen’s Clubの2017年4月号の中にも4ポケットタイプジャケットの特集があり、この中に4釦のジャケットが見られた。こちらはテーラードジャケットのように着ることもできるというような提案の仕方になっており、仕事着という位置付けではないようである。タイドアップしてチノパンツと合わせるなどの提案が見られた。ただしそれほど広がっているとは言えないようでWEARには着用事例がなかった。このように多釦スーツやジャケットをリバイバルさせようという機運はあるものの、なかなか着る側が乗ってこないということなのかもしれない。
ただ、最近ではチェスターコートのような長めのスーツ型のコートも流行している。こちらは釦の数が多いものもある。釦が多いほどクラッシックな雰囲気になるので、また釦の数が多いスーツが流行することがあるかもしれない。