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トラス政権の政策変更が逃げ場のない金融市場にさらに大きな波乱要因を加える

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現在Twitterのタイムラインには三つの話が流れてくる。一つは安倍元総理の国葬と統一教会の話だ。次の話はロシアから人が逃げ出しているという話である。ところがそれよりももっと多く流れてくる話がある。アメリカの株価価格が落ちつつけているそうだ。ちょっと上がったと思ったらそれを超える勢いで下落するという様子をずっと見せられているという感じのようである。個人投資家も増えていて「逃げ場がない」という声が散見された。この一週間日本株は「お手上げ」の状態だった。

世界経済が好転するきっかけは当分訪れそうにない。日銀は籠城を続ける必要があり、投資家にとっても「我慢の時期」が続きそうである。今は持っているもので持ち堪えるしかないと言ったところだ。

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ロイターは色々と理由を書いているがこれといって決め手になるイベントや理由はなく「下がる時は下がる」といった感じだ。続落の原因についてロイターで記事を探したが何が起きているのかはよくわかっていないようだ。高インフレ・高金利・低成長という株式市場にとっても再建市場にとっても好ましくない毒々しい状況に直面していると言われている。9月半ばの記事である。

明らかな原因の一つはロシアのウクライナ侵攻だ。安全保障上「分裂と機能不全」の季節に入っており経済に大きな傷がついている。ついにロシアが一方的な「併合」に踏み切り終息・収束の見込みは遠のいた。国際法上も常識的にも許される行為ではないが、とはいえこれを是正する手立てが見つからない。

さらに中国のゼロコロナ政策も原因の一つになっている。新型コロナ抑え込みのために人流を制限しており経済に勢いがない。ついに中国が為替介入を決めた。国営銀行に元を買ってドルを売る準備をしているそうだ。元は1994年以来の下落率だそうである。自由主義と専制主義の戦いと言っていたが、実は自由主義はかなり「専制主義」に依存していたことがわかる。こちらも「専制主義からの決別」を決めたのだからその路線を突き進むしかなさそうである。

これだけでもかなり厳しい状況にあるのだが、ここにまた一つ混乱要素が加わった。それがイギリスだ。

エコノミストは「破綻のループ」として再考を促している。破綻のループとは「通貨安、金利上昇、成長率低下」だそうだ。サマーズ元財務長官はもっと辛口で「新興国が自ら没落してゆく様子に似ている」といっている。

トラス首相は「これは必要な措置である」として撤回の意思がないことを表明した。財務大臣が「ポンド売りのポジションを取らないように」と介入したというニュースが流れ財務省はこれを否定した。しかしながら企業の借入コストは高止まりすると見られている。

トラス首相は秋の党大会を控えており地方のラジオ局のインタビューに応じた。トラス首相なりに「丁寧な説明」を心がけたようだが、インタビューアーの一人は「Are you ashamed?(あなた恥ずかしいですか?)」と質問したそうだ。イギリスのマスコミが全く政治家に忖度しないことがわかる。

どうやらジョンソン内閣の影の立役者は「450ポンドのプラダの靴を履いている」と庶民から嫌われていたスナク財務大臣と金融業界だったようだ。ジョンソン首相は型破りな庶民派を演じつつ実際にはイギリス経済を支えていた「構造」を守っていたのだろう。それを理解していたが型破りな庶民派の演技ができなかったスナク氏は保守党から選んでもらえず、構造が理解できなかったトラス氏は「最も重要なもの」を自ら破壊してしまった。

トラス氏は減税を主張している。ところが企業の借入コストが高止まりすると経済は不安定化する。つまりトラス氏は減税による負担減を選択したのではなく「借入コスト上昇」という負担増を選択してしまったことになる。トラス政権はこれに気がついていないようだがエコノミストたちは何が起きたのかを理解している。だからAre you ashamed?ということになったのである。

ではトラス氏が破壊した「最も大切なもの」とは何だったのか。「日本も同じ”暴落の悪夢”を見ることになる…世界中の投資家から見放されたイギリスの末路」という記事を見つけた。イギリスは金融センターとしての収入で財の不足を補う国なのだそうだ。つまりポンドの価値を高くしアメリカと遜色ない利率を維持することが国にとっての最重要課題だった。庶民は富裕層が嫌いだが実際にはこの構造にかなり支えてもらっていたということになる。

現在、イギリスポンドは円よりも急激に売られている。最安値は1985年に記録しているそうだが「最安値割り」も時間の問題なのではないかと見られているようだ。ポンド安の直接の原因はトラス首相の大型減税案である。イギリスでは「小さな予算」と言われている。所得税引き下げや法人税の引き下げ凍結などの大型減税が柱になっている。さらに光熱費の支援のために支出は増やす。だが、繰り返しになるが企業の借入コストの負担はおそらく消費者にいろいろな形で転化されるだろう。

急激な政策変更は「イギリスの将来」に対する市場の信任を失わせた。だから10年もの国債が売られているのだ。9月だけで英10年国債利回りは月間で1.31%ポイント急上昇したとロイターは書いている。イギリス中央銀行は異例の市場介入を行い国債を買い入れた。国債の利率が引き上がる(つまり国債の価値が下落する)のを防ぐためだ。一方で「英ポンドを守り、インフレ上昇を抑えるためなら利上げも「辞さない」との見解を示していた。来春までに金利を現在の2.25%から5.8%まで引き上げる可能性もあるとの憶測も出ていた。」とも書かれている。つまり、利率を上げたいのか下げたいのかがよくわからなくなっている。これがパニックと呼ばれる理由である。

こうしたイギリスの状況は日本にも悪影響がある。まずイギリスの状況がニューヨークにつながり「経済の先行き不安」から株価が下落する。すると東証がそれにつられて大きく落ち込んでしまう。30日の日経平均は大幅反落。Trader’s Webは「終値は484円安の25937円。長期金利が上昇して米国株が大きく売られた流れを受けて、寄り付きから3桁の下落。」と書いている。Trader’s Webによると「日本株はお手上げ」の状態だそうだ。一つ一つの波が合成された結果「大波」となって日本に伝播するのである。

さらにアメリカの景気が後退すると日本は金融政策が変更できなくなる。既に円買い介入で「籠城」と呼ばれている状態だが、日銀が政策変更するためにはアメリカの景気が良くなくてはいけない。日銀の政策委員会審議委員になった高田創さんは以前の著書で「日本経済はヨットのようにアメリカの風を受けて走っている」と書いている。

先に日銀の円安介入について調べた時に第一生命経済研究所熊野英生さんの「現在の日銀が置かれている状況は籠城と同じである」という説を紹介した。熊野さんもFRBの政策が効果を見せるまでは日本は籠城し続けるしかないだろうと言っている。日本が動けるのはアメリカが好調な時だけ(あるいは落ち着いている時だけ)ということになる。

世界経済を俯瞰すると「とにかく今は慌てず動かず」が一番のようだ。ただし籠城なのだから「急場をどう凌ぐか」は考えておいた方がよさそうだ。アメリカの労働市場は堅調だ。いいニュースでもあるのだがしばらくはアメリカの高金利政策は続くということをも意味している。イギリスの混乱もしばらくは落ち着かないだろうし、日本の「籠城」もしばらく続くことになるだろう。

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