書きながらもこれは本当なのかなと疑うことがある。例えば昨日トランプ大統領は関税交渉の妥結など望んでおらず交渉の枠組みを継続したがっていると書いた。
中には「関税交渉が妥結した」と最終決定のように書いているメディアもあったからである。
様々な事情からそう考えるのが妥当なのだが、やはり「さすがにこれは書きすぎなのでは?」と感じた。
Bloombergが今回の交渉の内幕について書いている。結論から書くと事実上は「まとまっていない」ようだ。フォンデアライエンEU委員長は確かに合意した。しかし合意内容について持ち帰ってレビューすべきだという声が加盟国から上がっているという。ABCニュースは今回の交渉を予備(preliminary)交渉と表現している。検索したところ同じような表現をしているところが見つかった。
やはり当初の「EUとアメリカは交渉の枠組みを決めた」だけという報道のほうが正確であってこれが最終合意というわけではなさそうだ。
EUは加盟国に対して「報復合戦に入るかとりあえず不平等な15%を受け入れてから交渉を継続すべきか」という二者択一を迫っていた。ヨーロッパが権利を主張すれば制御不能な状況に陥る可能性があった。
トランプ政権は問題の解決を求めていない。
アメリカ合衆国の格差問題は誰の目からも明らかだがトランプ政権は格差の解決は求めていない。
金融やITで働く人たちは高い給料を得ることができるのだが製造業やサービス業に従事する人々は経済ブームに乗ることができていない。乗り遅れた人たちの不満に応えるためにはトランプ大統領が外国に盗まれた製造業をアメリカ国内に回帰させると信じさせなければならない。騒ぎには騒ぎを重ねるのがトランプ流だ。
どんな宗教も「天国はいつかは実現する」と信じさせ続けなければならない。結果が出た瞬間に宗教は崩壊する。そしておそらくこれは共和党だけの問題ではない。民主党にも似たようなところがある。民主主義がすべて宗教だ等と言うつもりはないが問題解決を提示できなくなった民主主義は宗教化する。
EUも日本もおそらくは持続可能ではないアメリカの経済に依存している。このためEUとしては15%の関税を支払ってもアメリカ市場に経済的に依存する道を選択したのである。
赤澤経済再生担当大臣は国民に対して「合意文書を作るとまずいことになる」と表明した。しかしながら「交渉を続けること」自体が関税交渉の目的だとすると交渉担当者が決まらない今の状況のほうがよっぽどまずい。
さらに今の自民党は今のアメリカ合衆国には自由主義擁護の意思がないと説明できない。すでに自民党は政策により国民世論を牽引する力を失っており「不都合な現実」を国民に提示することができない。このため「合意は作れない」「トランプ大統領とは話せない」と国民世論をごまかし続ける必要がある。
いずれにせよ、日本とヨーロッパの関税が15%に決まり合意がない国の関税率は15%〜20%に決まりそうだ。ユーロは1.2%ほど下落し、世界経済に2兆ドルほどの打撃を与えるだろうとの予測も出ている。
石破総理の地方創生は日本が対米貿易で稼ぎ続けることができるという前提で成り立っている。だが、この前提が成り立たなくなった。さらに総裁選挙が行われるとすれば、各候補者は新しい通商環境にどのように適応すべきかを国民に説明しなければならない。新しい環境に適応すると説明するためには今の環境が変わりつつあると説明する必要がある。
ウクライナの戦争によりインフレが加速したことでアベノミクスが氷漬けにしていた問題が融解し国民生活に不満が高まっている。今後はアメリカ合衆国が自由貿易を降りたという問題が重なる。国民はますます自分たちの気持ちを重要視することになり寄せ集めの政策を持った党を支持することになるのかもしれない。
自民党はそもそも選挙に負けた総括などしている場合ではない。何が変化しつつあるのかを早期に言語化し国民の間に共通認識を広げる必要がある。
ただ保守と言われる惨めでくだらない人々の興味の中心は「自分たちが外国人より優遇されている」と示すことと80年前に行われた戦争について決して謝らないことのようだ。
