時事通信が「AI皇帝デービッド・サックス」氏について書いている。謎が多い人物だが「AI・暗号資産の皇帝」となんとも怖そうな肩書が付いている。どんな人物なのか気になってChatGPTで調べてみた。
時事通信はデービッド・サックス氏についてこのような書き方をしているがどこか物足りない。
第2次トランプ政権発足当初、国家安全保障会議(NSC)上級部長(技術担当)として、先端技術の規制強化を目指したのは対中強硬派のデービッド・フェイス氏だった。だが、極右インフルエンサーの進言を受け、トランプ氏は4月にフェイス氏を解任。政策立案の主導権を握ったのが「AI・暗号資産の皇帝」と呼ばれるデービッド・サックス特別顧問だ。
米、批判強まる半導体規制緩和 「AI覇権」争い、中国利する恐れ―テック右派が影響拡大か
ニュースのテーマはアメリカ合衆国が「型落ちした」AIチップを中国に売り渡すことを許可したというもの。バイデン政権は頑なに拒んできたがトランプ大統領は上がりの25%を上納させることで合意に持ち込んだ。
この問題をトンネルの両方から掘ってゆきたい。
まずはトランプ大統領である。デービッド・サックス氏は技術と資本を熟知したユダヤ系・南アフリカ系のアメリカ人である。おそらく暗号資産でもトランプ氏の親族企業にそれなりの「指南」をしているのではないかと思う。今回も中国への輸出を許せば国家に25%の「収入がある」と働きかけたのではないか。つまりトランプ大統領を「インサイダー」として取り込んでいる。
トランプ大統領はなぜか「税外収入」に並々ならぬ関心を持っている。これは税金に依存する近代国家の否定である。税金の使い道は議会が厳しく審査するが、アメリカ合衆国の議会はもう何年も予算を巡って機能不全状態にある。トランプ大統領の関税に関するアプローチは「関所」を作って通行料を取るという前近代的(日本で言うとまるで江戸時代のような)発想だ。
トランプ大統領側の発想は単純なものなので簡単に理解できる。
しかしながら、仮にAI皇帝が今回のディールに絡んでいたとしても「そもそもデービッド・サックスさんの狙いが何なのか?」がわからない。時事通信はこの関係性を指摘できていない。そしてこれが今回の最も不気味な点である。
ChatGPTは「サックス氏は国家がテクノロジーを管理しようとしてもどうせ負ける」と考えているのだろうと推論している。仮に全面禁止を打ち出せば中国は独自で今よりももっと素晴らしいチップを作ってしまうかもしれない。であれば旧世代型をあてがって進歩を遅らせればいいのではないか?というわけだ。
この推論が当たっているのかどうかはわからないのだがディビッド・サックス氏は「そもそもこれまでのテック・政治分類」に当てはまらず、何を最終目標にしているのかがわからないという点に不気味さがある。
トランプ大統領には付け入る隙がある。トランプ大統領はポリティコのインタビューで「自分の経済政策はA+++++だ」と主張していたのだが、ウォール・ストリート・ジャーナルでは一転して「これまで投入した資金=政策」の効果が出ていないようだと弱気な発言に転じた。
この発言から2つのことがわかる。
まずトランプ大統領は「選挙資金」と「政策で流す資金」の区別がついていない。おそらく税収と税外収入の区別も曖昧だろう。自分が大統領として称賛を浴び続けるために必要な「お金」という認識だ。
次に、トランプ大統領は半ば本気で「自分政策がきちんと実現できれば全てはうまくゆくはずだ」と信じていることがわかる。つまり彼は理解が曖昧なだけで国民を騙しているとは思っていない。
ところが結果が出ていない。だから揺れているのだろう。
ChatGPTは「トランプ大統領の直感に従ったシナリオを作り「トランプ大統領は正しい道を歩んでいるのだ」と思わせてくれる人物をそばに置きたがる」と分析している。つまり、デービッド・サックス氏は自分の目的は明かさず、脆弱性を抱えた大統領を誘導し、有利な展開を作ることができる地位を確保していることになる。
このアプローチは自分のやりたいことを公言し結果的にトランプ大統領とぶつかったイーロン・マスク氏とは異なり、なおかつトランプ大統領は正しい選択をしているが「意識高い系ヨーロッパがそれを邪魔している」と主張し続けているプーチン大統領に近い。誘導型の人物は大抵の場合かなり厄介である。
「AI皇帝デービッド・サックス」の本当の恐ろしさは多分ここにある。もちろん彼が国家発展を願う真のヒーローである可能性はあるが、「本気でテクノロジーの発展を願うが気がついたら社会倫理を外れている」マッドサイエンティスト的な人物である可能性もあるし、シスの暗黒卿(パルパティーン議長)なのかもしれない。とにかく誰もそれを検証することはできない。
ただしMAGAの人々は本能的に「自分たちは遠ざけられている」ということがわかっている。MAGAは自分たちの理解を超えるAIを規制すべき対象だと考えている。そこで「AIが意識高い系の思想を持たないように」規制する独自案を作成するのだが、それは却下されてしまった。スティーブ・バノン氏はこれに強く反発し「トランプ大統領はミスリードされている」と憤っている。
- Trump signs executive order targeting state AI laws(Axios)
- White House issues federal agency guidance against “woke” AI(Axios)
彼らは理論的には「正しくない」のかもしれないが本能的に制御できないものの危険性を察知しているのだろう。

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