最後に、今回の高市総理の訪米が成功だったのかを検証してみよう。高市総理個人にとっては、安倍晋三の後継者であることを印象付けるという意味で成功だったと言える。また、アメリカから過度な要求が突きつけられなかったという点に安堵する向きもあるだろう。
しかしおそらくこれは構造的に「泥沼」への入口だ。ただ、高市総理と日本国民は「今はまだ」別の主語である。
この文章では「なぜこれが泥沼への入口なのか」を構造的に分析する。
ここで一度立ち止まり、現在進行している問題を振り返ってみよう。
今回の一連の騒ぎの発端はベネズエラだった。その背景には、経済政策(インフレ対策)や移民対応の失敗から国民の関心をそらす意図があったとみられる。しかしそれが一定の成果を収めてしまったことで、より大きな行動 ― イラン攻撃へとエスカレーションした。
ホルムズ海峡の一時的な安定化には成功するかもしれないが、トランプ大統領がそこで満足する保証はない。カーグ島の占領や石油利権の確保といった、さらなる拡張が検討される可能性も指摘されている。そしてそのためには「巨額な投資が必要だ」というのがトランプ大統領の主張である。
- Trump mulls risky Kharg Island takeover to force Iran to open strait(AXIOS)
- 米国防総省、対イラン戦費31兆円超要請か ヘグセス氏「悪党を殺すには金がかかる」(AFP)
小さな成功は必ず何らかの犠牲の上に成り立つ。そしてトランプ大統領はその成功にとどまらず、「次のより大きな成果」を求め続ける。おそらく破綻するまで、この連鎖は続く。その過程で、国際法秩序とアメリカ合衆国に対する信認は徐々に損なわれていく。
もともとはテレビ司会者に過ぎなかったヘグセス国防長官は、トランプ政権の中でキャリアを維持するために、その要求に応じ続ける立場に置かれている。トランプ大統領は記者たちに「あいつはそれでもオレを選んだんだ」と自慢げに語り続ける。だからヘグセス国防長官は、トランプ大統領のエスカレートする要求に際限なく「自発的に」応じ続けるしかない。
しかし実際には、トランプ大統領自身が完全に自律的に動いているわけではない。ウラジーミル・プーチンやベンヤミン・ネタニヤフといった指導者たちとディールを展開しているつもりでいながら、その力学の中でむしろ行動を方向づけられている側面がある。
ネタニヤフ氏はまた、イスラエルが米国をこの紛争に巻き込んだとの指摘を否定。「トランプ米大統領に何をすべきか指図できると本気で思う人がいるだろうか」と述べた。
ネタニヤフ氏、ホルムズ海峡の代替ルート提唱 中東横断パイプライン(REUTERS)
ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる右派政党リクード所属のエルキン氏は軍向けラジオ局の番組で、「議論の焦点は(戦争が)いつ終わるかではなく、いかにして(戦争を)長引かせ、被害を拡大していくかにあるべきだ」「軍事作戦の一日一日が、国家としてのイスラエルにとって計り知れない天恵だ」と述べた。
対イラン戦争は「計り知れない天恵」、長引かせ被害拡大するべき イスラエル安全保障内閣メンバー(AFP)
結果として最終的な「利益」を得るのは、ネタニヤフ首相やプーチン大統領のような、より長期的視野と戦略性を持つ「一枚上手のプレイヤー」たちである。ただ、ネタニヤフ首相は今や得意満面だろうが、実は命の危険を感じ公の場に姿を表す機会が減っているそうだ。彼の人生は「生きるか死ぬか」のスリルの上に成り立っている。
安倍晋三と並ぶ政治的地位を確立するためにトランプ大統領との関係構築を選択した高市総理も、同様の軌道 ― いわば「ヘグセス・トラック」に乗りつつある。一度その軌道に入れば、途中で降りることは容易ではない。求められるのは、エスカレートし続ける要求への対応であり、その代償として差し出されるのは日本の国益である。
ここで重要なのは、この構図の主語が「高市早苗」であって、日本国民ではないという点である。言い換えれば、私たちはまだ、政治家個人のキャリア形成のためにどこまでの負担を引き受けるのかを選択できる立場にある。
もっとも、それが許される時間は、そう長くはないのかもしれない。

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