9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

高市総理の訪米を前に「日本がアメリカの戦争に巻き込まれるのではないか」という懸念が広がっている。こうした議論はSNSなどで急速に拡散し、危機感が先行している印象もある。

現時点ではこの問題について単純な結論を出すことは難しい。今回の軍事行動をめぐっては、アメリカとイスラエルの戦略目標が一致していおらず、さらにアメリカ国内の政治・経済の制約も大きい。加えて、イラン内部の権力構造も複雑なため「アメリカの戦争に日本が参加するのか」という単純な二択では問題が把握できない。

一方で高市政権が対応可能なこともある。それが不確実性に対処できる体制を整えることだ。しかしこれまでの数カ月を見る限り高市政権にはその準備がない。おそらくこのまま不確実性に飲み込まれる可能性が高いと予想できる。

対イラン戦争の目的とゴール

これまでご紹介した通り、New York TimesとAxiosの記事から、今回の攻撃はイスラエルが先導し、トランプ大統領が自主的にそれに乗ったことがわかっている。ハメネイ師以下、イランを支配する人々が一堂に会していた。この機会を捉えて指導者を壊滅させればイランの体制転換が成し遂げられると、トランプ大統領は信じていたようだ。

一方で、おそらくイスラエルはそうならないことがわかっていた。つまり、そもそもアメリカ合衆国とイスラエルではゴールが異なっていたと理解することが大切だ。

アメリカ合衆国の制約

アメリカ合衆国はいくつかの制約を抱えている。

第一に、60日を超えて軍事作戦を継続できない。今でもマイク・ジョンソン議長はこの軍事作戦を戦争とは呼んでいない。議会は大統領の戦争権限を縮小しなかったが、宣戦布告を伴う戦争に賛成するかどうかは未知数である。

しかし、それ以上に大きいのがアメリカの経済の不安定さだ。2月の雇用統計が悪かった。

すでに石油価格が値上がり(見出し時点では89ドルだったが92ドルまで高騰した)しており、肥料価格も高騰している。アメリカ合衆国はインフレと雇用の冷え込みの中で、かなり難しい経済・金融政策運営を求められることになりそうだ。

おそらく日本はコストプッシュ型のインフレに直面する。高市総理を支援し続けることは、このコストプッシュ型インフレを受け入れ、アメリカ合衆国に追従することを意味する。

さらに湾岸諸国は、戦争が継続するならば資金を逃避させると言っている。湾岸諸国の資金が撤退すれば、ハイテクなどに流れ込んでいる資金の引き揚げが起き、結果としてバブルが崩壊する可能性が高まる。

最後に武器の供給の問題がある。

すでにウクライナにこれまで提供した以上の長距離ミサイルが使われており、ロッキード・マーチン社が1年に供給できるミサイルの量を超えているとされる。最初の100時間でトランプ政権は37億ドルを費やしたと試算されている。

ここから導き出される結論は次のようなものだ。トランプ大統領は議会と経済という制約条件のもとで勝利しなければならない。勝利を確実にするために「武器や兵器は潤沢にある」と主張せざるを得ないが、実際には裏付けのない数字である。そもそも戦争の目的もゴールもはっきりしていない。

トランプ大統領の行き詰まり

こうした制度的・機関的制約のほかに、トランプ政権の執行部に由来する制約もある。

トランプ大統領は勝利の道筋を示せなくなっているが、「勝利しなければならない」という結論に固着してしまっている。このため無条件降伏以外あり得ないと宣言し、外交交渉を拒否してしまった。更にその後「無条件降伏の定義」を修正した。言うまでもなく事実上の無条件降伏などという概念はない。これはトランプ大統領が戦略的見通しを持っておらず、政権メンバーもまた戦略的見通しを持っていないことを強く示唆する。

ゆえに高市総理がこの戦争に加担することになれば、「見通しのない戦争」に日本国民を巻き込むことになる。つまり高市総理を支援する人は、「無期限の戦争に巻き込まれても構わない」という覚悟をしていることになる。

ではトランプ大統領に協力することでアメリカ合衆国を繋ぎ止めることができるのか。実はこれが微妙なのだ。トランプ大統領は今回の件で「ガソリン価格が高騰しても構わない」と言っている。自己正当化意識が先に立ち、国民の要望が見えなくなっている。仮にこのままトランプ大統領が暴走を続ければ、民主党だけでなく共和党からも離反者が出ることになるだろう。

トランプ氏、ガソリン価格高騰を意に介さず 戦争で米国の原油価格上昇する中(CNN)

つまり高市総理はいずれ「トランプかアメリカか」を選ばざるを得なくなる。

イランについて

イランについては少なくとも3つの層がある。

一つはイランの執行部である。ハメネイ師は後継体制を固めるためにいくつかのプランを持っていた。これは神権政治体制をさらに強固にするという戦略のようだ。今後、40日以内にこのプランがどの程度支配的なのかが明らかになるだろう。つまりこれがイランの「非合理」層であり、交渉不可能だ。トランプ大統領が「無条件降伏以外にない」と言っているのはこのためである。

この神権政治化については別途エントリーを準備した。

アメリカ合衆国はこうした非合理層への対処が苦手だった。古くは玉砕覚悟で飛び込んでくる日本が理解できず最後には核兵器を使っている。つまりイランの非合理性が拡大すると戦争は収拾不能になる。

もう一つは実利的な政治層だ。アラグチ外務大臣はルビオ国務長官の発言などを引用し、「アメリカがイスラエルに引きずり込まれ、基地を持つアラブ諸国が巻き込まれた」という論理的なナラティブを継続的に発信している。これがイランの「合理」層であり、交渉可能である。

最後に多様なイラン民衆層がある。そもそも政府から独立した報道機関がないのだから、「イランの大衆」がどのような世論を持っているのか、あるいはそもそも「国民世論」が存在するのかすらわからない。おそらく一斉蜂起はないと見られているが、地方の反乱や内戦という形で部分的に現れるかもしれない。

ここまでは「対イラン戦争」の不確実性について記述してきた。不確実性が高すぎるため結論を決めてその結論に向かって邁進するという高市方式は取れないことあは明らかである。つまり、高市総理はこの不確実性に対応するために自己変革し組織を変化させることが求められる。次のセクションではそれを検討する。

高市総理がこれから直面する制約条件

一般の人たちは高市総理を新進気鋭のプロデューサーのように感じている。アメリカとの関係安定はそのための基盤である。しかし、そもそもトランプ政権が揺れているため、この基盤も揺れる。すると一般の支援者たちは「これは何かが違うのではないか」と違和感を感じるようになるだろう。空気で支援した人々を合理的に説得することはできないし、ましてや負担を求めることも不可能だ。

自称保守を名乗る高市総理の支援者は、自分たちは台湾問題を熟知していると自負してきた。しかしQuoraの議論では「イランについてはよくわからない」「間違っていたら指摘してほしい」と言ってくるが、そもそも議論の論点すら提示できない。自分たちで論理構成ができないため、議論に参加すること自体が難しい。つまり彼らの支援も期待できない。

高市総理の支援基盤はかなり脆弱だが「人気が高い内にやりたいことをやっておこう」と考える人達もいる。

一時、高市総理の名前を冠した暗号資産が話題になった。一応沈静化したようだが、「高市人気にあやかり金儲けをしたい」という人たちは今後も出てくるはずであり、高市総理はこれを制御できない。

高市人気が高いうちに派閥を復活させようという動きも出ている。麻生派には大勢の議員が集まり、二階派・安倍派にもリブートの兆候がある。新しそうに見える表紙の裏で、古い中身が復活することになる。結局彼らは新しい政党統治の仕組みを考えることはできず隠してあった古い安全毛布を取り出して再びくるまろうとしている。

さらに閣僚や議員などの遅刻が目立つようになった。気の緩みという声もあるようだが、そもそも人気が高いうちにすべてを固めてしまおうと焦っているのではないか。つまり今後「検討が足りなかった」と差し戻しになる事例が増えると予想できる。

高市総理の政治姿勢は、「その時々に人気があるもの」に錨を下ろし、自分が安定しているように見せるというものだ。現在はその起点がトランプ大統領なので、ここが揺れるとすべてが揺れる。

例えば日本がアメリカに協力するためには集団的自衛権の限定適用が必要だ。そのための前提条件はアメリカが国際法を遵守していることである。しかしそもそも国際法はアメリカとヨーロッパが主導して作られているためこれまで「アメリカが国際法を逸脱する」可能性が十分議論されていない。

一つひとつの脆弱性はシステムに大きなダメージを与えない。しかしこれを管理する手法を整えなければ、やがて脆弱性が積み重なり、制御不能の状態に陥ると予想できる。

そして、高市総理が不安定化しているものにしがみつこうとすればするほど、被害は拡大していってしまうのだ。

高市総理は余力がある内に不確実性に備える準備をしなければならないが、おそらくそれは起こらないだろう。

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