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イランの神権政治化 なぜこの戦争は終わらないのか?

15〜23分

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今回のお話は憶測をかなり多く含んでおり、「陰謀論」の一種であると考えてもらって構わない。テーマは正統なペルシャ帝国の再興イランの神権政治回帰である。

この物語が成立するためには正統な後継者の再降臨が必要で、そのタイミングは3日後、7日後、40日後とされる。更にこの憶測を越えて「正統な後継者が隠れている」という神話も成り立つ。しかしこの神話は終末論と結びついており、合理的な世界の終わりを意味する。つまりアメリカ合衆国はこの戦争に対処できなくなる。

古い帝国の伝統を持つペルシャ。次第に社会構造が硬直化し、やがてイスラム革命の波に飲み込まれた。しかしながら、征服したはずのアラブもペルシャの高度な官僚システムを利用せざるを得なかった。結果としてペルシャはイスラム教を「ペルシャ化」することに成功する。ムハンマドの血統を重要視し、それをペルシャの王統と結びつける形でイマームの正統性が確立していった。

しかしこの伝統は一度断絶する。カジャール朝はトルコ系遊牧民が興した外来王朝だったため、統治のために聖職者層(ウラマー)を重用した。そしてそこから権力を奪ったパフラヴィー(パーレビ)朝も、創始者は軍人出身である。パフラヴィー朝がアメリカ合衆国とナショナリズムを背景に近代化・世俗化を進めたのは、この正統性の弱さを補う必要があったためだと考えられている。

この体制を革命によって覆したのがアーヤトッラー・セイイェド・ルーホッラー・ホメイニである。アーヤトッラーは宗教指導者としての格を示す称号であり、セイイェドは預言者ムハンマドの家系につながる血統を意味する。その後継者となったのがアーヤトッラー・セイイェド・アリー・ホセイニー・ハーメネイーで、日本ではハメネイ師と呼ばれる。ハメネイ師は母親がアゼリであり、アゼルバイジャン語にも堪能とされる。アゼリ系住民はイラン人口の約20%を占める大きな民族集団である。つまり彼はペルシャ、アゼリ、イスラムを結びつける存在と考えられる。

ホメイニ師の統治は比較的短く、その後はハメネイ師が長くイランを統治してきた。彼は革命防衛隊という軍事組織を統率し、現在ではこの組織がイラン経済の重要な部分を占めている。そしてハメネイ師は長い間、明確な後継者を指名してこなかった。

さらに近年になって、ハメネイ師は殉難を意識させる発言を繰り返すようになった。

私の体にはほとんど価値がなく、私の命に大きな意味はない。たとえ彼らが私を殺したとしても、諸君がイマーム・フサインの原則に忠実であり続ける限り、それを我々の敗北だと思ってはならない。

この発言は、シーア派の精神的支柱であるカルバラーの悲劇を引き合いに出したものである。アリーの息子であるフサインが非業の死を遂げた事件だ。そしてフサインは、ササン朝ペルシャ最後の王の娘とされるシャフルバヌーと結婚したという伝承があり、そこからペルシャ的正統性が付与されたとも語られる。

サファヴィー朝はこの伝統を利用し、シーア派を国教に定めることでスンニ派のオスマン帝国との差別化を図った。

十二イマーム派では、最後の指導者である第12代イマームは9世紀に姿を消したまま、現在も生きていると信じられている。そしてセイイェドと呼ばれる人々はその血統を受け継ぐとされ、聖職者が黒いターバンを巻いていればセイイェドであることを示す。ホメイニもハメネイもセイイェドである。

つまり仮にホメイニやハメネイ師の子孫が存命であれば、彼らはイランを統治する正統性を主張できる可能性がある。一方でイラン革命は王制を打倒して成立しているため、建前上は世襲を嫌う空気が強い。

ここで登場するのが二人の後継者候補である。一人はホメイニの孫であるハッサン・ホメイニ氏。2021年の大統領選挙への出馬を検討したが、ハメネイ師に「出ない方がよい」と釘を刺されたとされる。政治的には比較的リベラルであり、既得権益とも距離がある。

もう一人がモジタバ・ハメネイ師だ。セイイェドではあるがアーヤトッラーではない。しかし革命防衛隊との強い結びつきを持つとされる。

このモジタバ・ハメネイ師は生きているのではないかとされているが、実際に存命なのかどうかははっきりしていない。

しかし仮にハメネイ師が「モジタバ・ハメネイ師を後継者にする」準備を進めていたとすれば、パズルのピースがぴたりと嵌まる。ハメネイ師の家族には今回のイスラエル・アメリカの攻撃で亡くなった者がいるとされるが、モジタバ・ハメネイ師の行方だけが明確になっていない。さらに後継者候補と見られていた高位の人物たちも軒並み死亡している。

またハメネイ師自身も、殉教を覚悟したような発言を繰り返していた。最後に必要なのは、象徴的な聖性を帯びた後継者だけである。

ただし最初からこのシナリオが存在していたかどうかはわからない。もともとの有力後継者はライシ大統領(当時)だったが、2024年のヘリコプター事故で死亡している。もしイランが通常の政治状況にあったならば、より普通の権力移行が行われていた可能性が高い。

仮に体制側が「神聖な戦い」を演出しようとするならば、一定の時間の後に後継者を再登場させるのが最も象徴的である。殉難者の息子であり、自らも災難を逃れた人物として神格化できる。革命勢力にとって担ぎやすい人物ということになる。

ここまではモジタバ後継説だが、この「陰謀論」をさらに推し進めると、そもそもこの殉難自体が演出されたのではないかという、更に陰謀論めいた仮説すら浮かぶ。ハメネイ師は高齢であり、残り少ない自分の命を差し出すことで神話を作り出し、さらにモジタバ・ハメネイ師のライバルたちを巻き添えにした可能性もあるということだ。

世襲が嫌われるイランであっても、「今は非常事態」であり、強い神性を帯びたリーダーが求められる。そう考えると、イスラエルが「ハメネイ体制を出し抜いて崩壊させた」という評価も逆転する。むしろハメネイ師が情報を流し、神話を完成させようとしているという見方すら成り立つ。

もしアメリカがこの構造を理解しているならば、例えばリベラル色の強いハッサン・ホメイニ氏を担ぐことで、ハメネイ神話を崩す戦略も考えられる。

では実際にトランプ大統領は何と言っているのか。

彼はアメリカのサッカーリーグで優勝したインテルの選手たちを招いた席で、「助かりたければ投降しろ」と声高に主張した。このとき後ろにいた選手たちは薄ら笑いを浮かべている。おそらく大統領の発言の意味がよく分からず、場の空気に合わせているのだろう。

第一にこの光景は、強大なアメリカ帝国がイスラム世界に対して蔑視を示しているようにも見え生理的嫌悪感の対象になる。トランプ大統領は戦争とスポーツを混同している。自分たちは強く正しい側にいるのだと支持者に示したいのだろう。アメリカ的な文化的無分別さが、一つのパッケージとして独特の醜悪さを放っている。

第二にトランプ大統領は「個人の生死」が行動原理の全てだと考えている。大義のために命を差し出し「より大きな存在になる」というアジア的原理が理解できない。つまりイランが神政政治に傾いた時点で「ディール重視」のトランプ大統領は事態に対処できなくなる。

そもそも、トランプ大統領は国内的にも「なぜ今この戦争を続けるのか」という問題に答えられていない。このためヨーロッパ諸国も全面的に支援できずにいる。さらに最初の100時間でアメリカは37億ドルを消費した。今後さらに攻撃を強化するというが、アメリカ人の血税が終わりの見えない戦争に注ぎ込まれることになる。

仮にモジタバ・ハメネイ師が再降臨するとすればその節目は3日後、7日後、40日後になりそうだ。しかし当然ながらモジタバ・ハメネイ師が亡くなっていてそれを体制側が必死で隠しているという仮説も成り立つ。

しかし、モジタバ・ハメネイ師が出てこない物語も成立する。

シーア派的世界観では最終的救済者「マフディー」が戻って来る前に最終戦争が起きるとされている。これが大いなる混乱(フィトナ)だ。モジタバ・ハメネイ師が出てこないままで「我々に神託を与えている」という物語が語られるようになると、これはイランの革命体制が「玉砕の覚悟」を決めたことを意味する。

こうなると更にイランに対処することは難しくなる。イランにはアラグチ外務大臣のように合理的に対処可能な人物もいるが、次のイラン政治がどのようなものになるのか、今はまだ誰も見通せないのが実情だ。

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