衆議院で憲法改正を発議できるとされる3分の2以上の勢力を獲得した高市総理が「日本も普通の国になるべきだ」との発信を強めている。選挙前の質疑応答には出てきたが選挙期間中は議論の中身についてあまり触れてこなかった。
「普通の国」とは何を意味するのか。突き詰めれば、それは戦争や国際紛争において、自国民の死を引き受ける国家になるということでもある。
今回の憲法改正議論はロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにした日本国民が「憲法9条というお守りだけでは日本の平和は守れないのではないか」と疑い出したことがきっかけになっている。立憲民主党にいる護憲派(憲法9条原理主義者)はこの懸念に十分に応えることができなかった。
では日本人は新しい現実を受け止め「リスクを取る覚悟」を決めたのか。どうもそうではないようである。読売新聞によると憲法9条第一項は保持を求める人が8割。一方で戦力不保持を定めた2項については意見が割れている。国論を2分する議論を避けるために自民党が持ち出した「とりあえず憲法に自衛隊を入れればいいのではないか」という提案についても意見が割れている。
世界情勢が変化する中で自衛隊を憲法外の存在としてこれ以上放置することはできない。しかし自衛隊を書き込んだことで、どんなメリット・デメリットがあるのかが分からないという状況である。
日本のいわゆる現実主義的保守派はこうしたアンビバレントさから生まれる揺れを回避するために「護憲派はお花畑であり現実がわかっていない」という論に逃げ込んできたが、いよいよ立憲民主党が瓦解したことで逃げ道がなくなった。
そもそも憲法9条とは何なのだろうか。それはアメリカ合衆国との間に一方的に結ばされた契約である。戦争加害国である日本を戦争から遠ざけるための契約だったが、いつの間にか「戦争に関わらなくて良い」という特権に変わっている。
これまでアメリカ合衆国はこの「契約」の見直しには慎重な立場だったが、徐々に世代交代の兆しがある。現在50歳代に達している新しい世代はもっと「契約重視」である可能性がある。
ミュンヘン安全保障報告書は「世界で無力感と破壊感が強まっている」と分析し、その原因はトランプ大統領にあるとしている。ヨーロッパの戸惑いが伝わってくる。と同時にトランプ大統領さえいなくなれば「元の鞘に収まるかもしれない」という期待も強いのだろう。
ではトランプ大統領の後にはどのような政権ができるのか。ChatGPT,Gemini, Claudeに分析させると次のような結果が出てくる。あくまで傾向分析ではあるがどのAIに聞いても同じような分析になり興味深い。
- 可能性が大きい
- 共和党テクノクラートと呼ばれる人々が世界システムのリエンジニアリングを求めてくる
- 可能性が中程度
- 既存の共和党が復権する
- 民主党が政権を勝ち取る
- 可能性が低いが無視できない
- これまで以上の混乱に陥り何が起きるのか分からない
この内、現在の保守の「とにかくアメリカ合衆国との契約を延長すれば今まで通りの保険が有効であり続ける」というシナリオが成立するためには共和党穏健派が復権するか、民主党が政権を取る必要がある。民主党の中にも「契約重視」の路線があるため2が成立しても「契約の無条件延長」は起こらないかもしれないが、民主党は現在路線逃走の真っ只中だ。
テクノクラートたちが「帝国主義的な動きを加速し西半球に閉じこもる」可能性は低く「旧世代が作った契約を見直して現代的な新しい契約」に更新したいと考えている。この「トランプ後」という文脈を考えるとトランプ大統領は「世界がどの程度アメリカのいうことを聞くのか」のテスト素材に過ぎないとも言える。
この場合日本が求められるのは説明責任だ。具体的には株主総会のようなものを考えればいい。投資家は「コストとベネフィット」を天秤にかけて評価する。コストは自明だが「ベネフィット」は役員会(政府・与党)が準備しなければならない。そしてその役員会は従業員や取引先(つまり国民)に対して経営方針を伝える必要がある。つまりこれまでのように「外交安全保障についてはお答えを差し控える」が言えなくなる。
トランプ大統領の発言はますます一貫性を欠くようになってきており、ついに中間選挙への影響が懸念される段階に入ってきた。おそらくこうなるとトランプ大統領は「放言グセのある困ったいつものあの人」扱いになるのかもしれない。
そうした中で、BBCいち早くスティブン・ミラー氏に着目している。文脈分析は避けて「分かる人には分かる」形で精神的支柱として紹介されている。スティーブン・ミラー氏の「扱い」の変化の評価は人によって分かれるだろう。
1つ目の可能性は共和党の次世代を担いそうな「バンス・ルビオ組」と組んで引き続き精神的支柱であり続けるというもの。もう1つの可能性はトランプ大統領のオフビートの原因は実はミラー氏だったことにされサンドバッグとして利用されるというものだ。
いずれにせよ、アメリカ合衆国の政治情勢には僅かではあるが変化も起きつつあり、次世代の共和党がどのような指向性を持つのかに注目が集まる。そして「相手のある契約」であるからには、憲法改正の議論には当然アメリカ合衆国がどのように変化しつつあるのかという分析と理解が欠かせないということになる。
問われているのは改正の是非ではない。政治に、覚悟と説明責任を引き受ける意思があるかが問われている。
試しに再選されたばかりの長島昭久議員に、「これについては、国内動向の調整に終わることなく、次世代共和党・民主党の動向も踏まえつつ、ぜひ議論を前進させていただきたい」と書いたが、「いいね」が付いただけで返事はなかった。
おそらく、日本の政治はいま、「宗教論争」から脱却しつつある段階にある。しかし、まだ「契約論」にまではたどり着いていないのではないか。

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