アメリカ人は子供の時から「欲しいものがあるならはっきり伝えるように」と教育されることが多い。そんなアメリカで育ったトランプ大統領らしい発言だなと感じた。問題はこうした主張が日本やヨーロッパでは幼稚に聞こえる点と日本の安全保障が「こんな人達」によって支えられているという寒々しい事実だ。そして日米の報道を比べると日本が何から目を背けているのかもわかってしまう。
ノルウェー紙VGは19日、トランプ米大統領が2025年のノーベル平和賞を受賞しなかったことを巡り、ノルウェーのストーレ首相に「もう平和について純粋に考える義務があると感じない」とのメッセージを送っていたと報じた。ノルウェーは平和賞受賞者を決めるノーベル賞委員会の拠点。
「平和、純粋に考えない」 ノーベル賞巡りトランプ氏(共同通信)
トランプ大統領はノルウェーの首相に「私は名誉が欲しい、名誉がもらえないなら、平和なんか知らない」と言い放った。そしてそれをノルウェーの新聞が報道した。そんな内容だ。この報道が日本でも報じられ「ああトランプさんは子供っぽい人だなあ」という印象に結びついている。
トランプ氏は書簡で「私は八つ以上の戦争を阻止したが、あなたの国は私にノーベル平和賞を授与しないと決めた」と主張した。受賞がかなわない不満を一国の首相に公然とぶちまけるのは異例中の異例だ。
「もはや平和のみ考えず」 ノーベル賞かなわず不満表明―トランプ氏(時事通信)
しかし日本の報道では意図的に発言の文脈が切り離されている。日本のメディアが不都合な情報をどうやって隠すのかが報道から見えてしまう。
まずこの一連の発言は「アメリカの国益」と「平和」が相容れないという前提に基づいている。ノーベル平和賞をくれないなら平和については考えずアメリカの国益だけを追求すると言っており、この2つが「バーター」という認識なのだ。
“Considering your Country decided not to give me the Nobel Peace Prize for having stopped 8 Wars PLUS, I no longer feel an obligation to think purely of Peace, although it will always be predominant, but can now think about what is good and proper for the United States of America,” Trump wrote.
Europe mobilizes as Trump again demands ‘complete and total control’ of Greenland(ABC)
さらに「ドキュメント」がないからデンマークがグリーンランドを所有する法的な根拠がないと無茶苦茶なことをいっている。そもそも小舟がデンマークに上陸したのがデンマーク領有の根拠だ勝手に決めつけたうえで、だったら我々(おそらくアメリカ合衆国)の船も上陸していたはずと言っている。当時アメリカ合衆国という国はなかった。
“Denmark cannot protect that land from Russia or China, and why do they have a ‘right of ownership’ anyway? There are no written documents, it’s only that a boat landed there hundreds of years ago, but we had boats landing there, also,” the president continued. “I have done more for NATO than any other person since its founding, and now, NATO should do something for the United States. The World is not secure unless we have Complete and Total Control of Greenland.”
Europe mobilizes as Trump again demands ‘complete and total control’ of Greenland(ABC)
実際にグリーンランドを発見(厳密には認識しただけなのだろうが)したのはエーリクというノルウェーの人。当時のノルウェーやアイスランドには後にグリーンランドと呼ばれる土地に対する認識が薄っすらとあったようだ。流刑になったエーリクはその土地を探しにゆくと宣言し実際にグリーンランドを見つけた。そしてノルウェーがデーン人の国であるデンマークと同君連合を結成。デンマーク分割されたときにグリーンランドとフェロー諸島がデンマークに残ったというのが歴史的経緯である。
トランプ大統領は欲しいものは欲しいと「いかにもアメリカ流に」ためらいもなく主張している。一方でなぜグリーンランドがデンマーク領になったのかという経緯やグリーンランド人の心情には全く関心を示していない。これもいかにもアメリカ的な考え方。自分本位の欲望を暴走させる人物を「アメリカファーストだ」ともてはやす人が多いのが現在のアメリカ合衆国の民主主義の現在地なのである。
ABCニュースの記事の続きを読むと、ヨーロッパが慌てて対応に乗り出したと書かれている。つまりこの「狂ったような」「傲慢な」主張を受けて、ヨーロッパ諸国は同盟相手としてのアメリカ合衆国はもはや信頼できないということを繰り返し認識させられている。
日本のメディアがこの発言の文脈にけっして触れないのは、当然「日米同盟の基礎が粉々に破壊されてしまった」という事実を直視することを避けているからである。
結果的にヨーロッパは「貿易バズーカ」と呼ばれる報復措置(報復関税とアメリカ企業の締め出し)について本格的に議論せざるを得なくなっている。もともと中国に対する対抗策として作られたルールだそうだ。
ACIを用意した時に欧州が想定していた相手は、アメリカでなく中国だった。
グリーンランドめぐるトランプ氏の脅しに欧州は……対話か「貿易バズーカ」か(BBC)
日本のメディアは高市早苗総理が国民の支持を受けて過半数を維持し総理大臣として3月20日にトランプ大統領と会談をし、覇権主義的威圧を繰り返す中国に対向する措置を講じてくれるものというもはや架空のおとぎ話を維持している。
日米両政府が、高市早苗首相の就任後初の訪米日程について、3月20日を軸に調整していることが分かった。2月8日投開票が有力な次期衆院選後に詰めの協議に入る。トランプ米大統領は4月に中国で習近平国家主席との会談を予定。首相は訪中前のトランプ氏と会談し、強固な日米同盟を確認し、対中政策を擦り合わせたい考えだ。複数の日米外交筋が18日、明らかにした。
【独自】高市首相初訪米、3月20日が軸 衆院選後に詰めの協議(共同通信)
ただ、財政について「おそらくアベノミクスには出口がない」と突きつけた上に「実は外交・安全保障も完全にデッドエンドなのだ」という事実を突きつけたところでこれを消化できる人などいないだろう。これは、日本人がどこまで思考停止を貫けるのかというゲームなのかもしれない。

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