トランプ大統領がガザ和平の枠組みを10億ドル売りに出すと表明した。これがトランプ版の「ミニ国連」と評価され波紋が広がっている。おそらく日本社会はこの現実を直視ないだろうが日本の安全保障政策は本質的には根本からの見直しが余儀なくされるはずだ。
トランプ大統領の国家観は「不動産事業」で説明できる。土地を取得し、その土地にテナントを集め、テナントの資金で開発させ、自分はブランドから収入を得る。日本ではデパートなどが採用してきた。
しかしこの「不動産事業」を実現するためにトランプ大統領はアメリカ合衆国の軍隊を利用している。言うまでもないことだが軍隊はトランプ大統領の私兵ではなくアメリカ人の税金で養われている。つまり大統領が軍隊を私物化していることになる。今回のディールでは議長は「大統領」とは表現されていないようだ。つまり国家(厳密には議会)を迂回して個人としてのトランプ氏が主導する枠組みになっている。
アメリカ合衆国の議会はトランプ大統領に抵抗できておらず、したがってアメリカの憲法秩序は崩壊したと言って良い。
強大な軍事力を使って土地の所有権を取得し、地元の住人の自治を制限したままで、利権を海外に売りさばくようなことが常態化すれば、戦後の国際秩序は崩壊するだろう。
すでにトランプ大統領はベネズエラの石油を「トランプ方式」で開発しようとしている。これに異議を唱えたエクソンのCEOはビジネススキームから排除されかけており現在のアメリカ合衆国でトランプ大統領に逆らう危険性がよく分かる。
トランプ大統領はグリーンランドでも同じことをやろうとしている。地上げのためなら同盟国との関係など破壊しても構わないと思っているようだ。恫喝のためにトランプ大統領が持ち出したのが「アメリカ合衆国で商売する権利」である。これを関税で実現しようとしている。
このパターンをウクライナに当てはめてみればウクライナ人の未来は極めて悲観的なものになる。プーチン大統領はこれを見越して「政治体制についてはロシアが支配」し「経済についてはアメリカに任せても良い」といい出すかもしれない。ロシアが恐れているのは民主主義という災いがクレムリンに前進してくることなので、資源開発をアメリカに明け渡しても構わないわけだ。つまりウクライナ人は自分たちが犠牲になった挙げ句、民主主義をロシアに奪われ、天然資源をアメリカに奪われるかもしれないということだ。
そんなバカなと思う人もいるかも知れないが、ガザではこれが現実のものになりつつある。イスラエルにはカナン全域をユダヤ人のものにしたいと考える人達=極右がガザを実効支配するのではないかと言われていた。このため今回のトランプディールに反発している。
一方でトルコやカタールなどイスラエルに敵対するイスラム圏の国は「10億ドルで地域への介入権とアメリカのコミットメントが買えるなら安いものだ」と考えるかもしれない。
The committee, which reports to the Trump-led Board of Peace, includes the foreign minister of Turkey and a senior Qatari official, despite Netanyahu’s insistence that those countries have no role in governing Gaza.
“Gaza is our show”: U.S. pushes its plan over Netanyahu’s objections(Axios)
いずれにせよ、資源、リゾート、運河通行権などのために地元住民の自治権は無視される。つまり国連が提唱してきた住民自治の原則は蹂躙されている。今回のトランプ大統領の暴挙に対して「植民地主義の復活である」という懸念が出ているのは当然のことだ。
安全保障について議論すると「だったらお前の考えを示せ」と言われることがある。しかし、そもそも戦後80年かけて作られてきた国連中心主義と日米同盟はどちらも前提がほぼ崩壊している。前提が崩れているにもかかわらず「先にポジションだけ決めて」議論をすることに意味があるとはとても思えない。

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