トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談が終わった。残酷な会談だった。理論的に考えるならばウクライナは今すぐ戦争を止めるべきだ。しかし血の犠牲を払ってこれまで耐えてきたウクライナの国民にそれを言うことはできない。これまでの犠牲は無駄だったと宣告することになる。
トランプ大統領は今回の会談で具体的な成果を示すことはできなかった。さらに和平はほぼ完成しているが「なにか不測の事態が起きるかもしれない」として撤退路を作り始めている。トランプ大統領は単に和平の推進者としての意地があるだけでアメリカに戦略的旨味はない。つまり彼の次の大統領(特に民主党だった場合)はこれを「トランプの戦争」と名付けて撤退する選択肢がある。トランプ大統領の任期は限られている。
一方でゼレンスキー大統領はアメリカの関与を繋ぎ止めておく必要がある。今回も30年から50年の関与を要請したとされている。ゼレンスキー大統領は100%の保証を得たと主張したがその場で「95%近くである」とトランプ大統領に発言を上書きされてしまったとBBCは伝えている。
ウクライナはアメリカの関与を失った時点でゲームオーバーである。国土の一部を失っている上に大勢の避難民が出ているため選挙が実施できない。つまりゼレンスキー大統領には出口がない。加えて今選挙をやれば徹底抗戦派のザルジニー氏が優勢と伝えられている。つまりウクライナ軍部というよりが国民が防衛に前のめりになっているのである。
ロシアのプーチン大統領はアメリカ合衆国に曖昧な提案をしている。ロシア紙を通じて「アメリカはザポリージャの共同管理と暗号通貨の計算プロジェクトに興味がある」と発信してみせた。トランプ大統領にアピールする原子力の「平和利用」である。
さらに
- 国内では「ウクライナ民族などいない」と侵攻を正当化し
- アメリカに対しては「ロシアはウクライナの平和を守る意思がある」
と物語を徹底的にコントロールしている。つまりゲームのルールはロシアが決めるという状態を意図的に構築してきた。
ここで、プーチン大統領がゲームマスターになり、トランプ大統領はプレイヤーになっている。トランプ大統領はゲームマスターに「どうやったらこれは自分のゲームになるだろうか」と相談し、プーチン大統領がアドバイスを送る形になっているのだ。
このゲームによって最も大きな被害を受けるのがウクライナ国民である。これまで彼らは経済と家族の命を犠牲にしてウクライナ防衛を行ってきた。今防衛をやめてしまうと「これがムダだった」ことが確定してしまう。サンクコストは早めに切るべきだなどといわれるが、これをウクライナ国民に面と向かって言える人はいないだろう。
しかしトランプ大統領がプーチン大統領の曖昧な物語に惹きつけられれば惹きつけられるほど、ウクライナ国民は「アメリカが守ってくれるから防衛を続けられるのだ」と考えることになる。
だが現実はおそらく「プレイヤー」が変わらない限り膠着したゲームを変えることはできない。そしてそこから最も早く退出するのはトランプ大統領である。次の政権はアメリカの関与を制限する方向に動くだろう。いくら泥沼の戦争に付き合っても国益に沿った対価が得られそうにない。
ではなぜプーチン大統領はゲームマスターになれたのか。それは誰がロシアと話すかをコントロールしているからだ。ロシアの場合にはウィトコフ特使が選ばれている。トランプ大統領の友人であり国務省関係者は除外されているのではないか。
実は同じようなことが日本に対しても行われている。高市政権においては鈴木宗男氏だけがロシアと話をすることができる。外務省と折り合いの悪い人だった。つまりプーチン大統領は誰と話すかを決めることで外務省などの「エスタブリッシュメント」をゲームから排除しているのだ。鈴木宗男氏は「政府答弁は高市総理の個人的な考えではない」と主張したとも伝わっている。閣内不一致どころか総理大臣の個人の考えが内閣とは異なっているということになる。

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