アメリカ合衆国はクリスマス休暇に入った。この時期になぜか立て続けに「アメリカ合衆国が帝国主義時代に戻る」ような動きが起きている。当初「気が狂った」のかと思ったのだが、そもそもトランプ大統領はそういう人なのだろうという結論に至った。
まずトランプ大統領はベネズエラに海域封鎖を仕掛けている。ところが今度はグリーンランドを「所有したい」といい出した。これはかつてあった「ザ・テクネイト・オブ・アメリカ」構想そのものだ。ザ・テクネイト・オブ・アメリカについては2025年3月に一度記事にしている。まだ生きていたのかと呆れた。
これは、アメリカ大陸を自活圏にしてエスタブリッシュメントを排除したうえで優秀なテクノクラートが支配するという構想である。
ここまではクリスマスのご乱心だと思っていたのだが、今度は政党に属さない高級外交官が大勢更迭された。
ベネズエラとグリーンランドの動きはおそらくは接続しており、トランプ大統領の近くに「帝国主義者」が大勢いることが分かる。これはトランプ大統領の過去のい発言とも整合している。
- ヨーロッパ(特に東欧)をロシアが担当
- 東アジアを中国が担当
- 西半球をアメリカが担当
する同盟軽視・帝国主義の復活である。
ここまでは「トランプ政権の中にいる帝国主義者・テクノクラシー信奉者」が「エスタブリッシュメントがいない間を狙って」「これまでの野望を既成事実化したのではないか」と考えた。日本としても強い関心を寄せざるを得ない。トランプ大統領はヨーロッパが「文明消滅路線にある」と強い危機感を示してきた。また中国とアメリカはG2であるとも発言している。
しかし外交官の大量呼び戻しはどこか「あれ、これはおかしいな」と言う気がする。更に欧米エスタブリッシュメントの反発も限定的だ。ヨーロッパは今回のグリーンランド領有発言について「組織的な抵抗」は行っているがトランプ政権への批判には結びついていない。また共和党の内部からも目立った反応は聞かれない。最近定着した光景だが「殿ご乱心」としてスルーしようという考えなのだろう。
この違和感が決定的になったのがトランプ級を主軸にした黄金艦隊の話を聞いたときだった。
トランプ大統領は「トランプ級」という新しい戦艦を核とした黄金艦隊を設立しようとしている。仮にこれが何らかの戦略に結びついたものであれば「帝国の野望説」をサポートする材料となる。しかしながらトランプ大統領はここに「美しさ」を見ている。おそらくこれはトランプ大統領個人の「ロマン帝国主義」的な野心でありリアリズム政治戦略ではない。
「トランプ級」の艦艇は、トランプ氏が新たに発注した「黄金艦隊」の一部となる。これは、中国やその他の敵対勢力への対応を強化し、トランプ氏の美的基準により厳密に沿うことを目的としている。
米大統領、「トランプ級」軍艦からなる「黄金艦隊」構想を発表(BBC)
「私は非常に美的感覚にこだわる人間なので、米海軍が私と共にこれらの艦艇の設計を主導することになる」とトランプ氏は述べた。
つまり今回のニュースの本当の恐ろしさは「内向きの物語重視」と「現実的な政策の不在」である。それを示す一つの事例がある。
アメリカの保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」から職員が流出している。
- 米ヘリテージ財団から職員流出、反ユダヤ主義巡る論争の中(REUTERS)
- More than a dozen staffers leave Heritage to join Pence-led nonprofit(POLITICO)
- ケビン・ロバーツ会長はタッカー・カールソン氏(MAGA)の友人
- MAGAはトランプ政権のガザ介入に消極的
- 財団の支持者はタッカー・カールソン氏が「反ユダヤ的」であると批判
- タッカー・カールソン氏は火元となったフエンテ氏との距離を曖昧にしようと議論から逃げてしまった。
- フエンテス氏は「ホロコーストなどなかった」と主張する過激な人物で従来の保守からは距離を置かれていた。
- アンディ・オリバストロ最高アドバンスメント責任者(CAO)は調整に苦慮
- 結果的に離職者がAAF(MAGAから距離を置くペンス氏の団体)に移動
- ジョシュ・ブラックマン氏のようなプロジェクト2025系(アメリカ第一主義に見えるが実は文化戦争にアメリカを利用している)がどうなるかは未知数
今回のトランプ黄金艦隊の文脈で捉えると、MAGAが純化するにつれて実施部隊だった伝統的な共和党の人たちがついて行けなくなった。結果的に彼らはペンス氏のAAFに緊急避難することとなった。プロジェクト2025の人々の所在も次第に明らかではなくなっている。結果的にMAGAは「政策立案力・実行力」を失いつつあり、それがクリスマスでスタッフが手薄になったことで表面化した。つまりトランプ大統領が突然おかしくなったわけではなく「これまで必死で抑えてきたもの」が抑えきれなくなり表面化したということになる。今後の注目点はスタッフたちが戻ってきたあとにこれをどう回収してくれるのか、あるいは回収できるのかということになる。ホワイトハウスの東翼のように「壊してみましたが再建できるかどうかはわかりません」ということになりかねない。
結果的にトランプ政権は「黄金艦隊」どころかまともに防衛装備品のメンテナンスもできない状態になっており、トランプ大統領は「プロジェクトを遅延した企業には制裁を加える」と叫んでいる。

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