ここ最近AIを使い始めたことで閲覧数が減った。これは非常に良い傾向だ。今残ってこの文章を読んでいる人はよく言えば「選ばれた人たち」であり、悪く言えば「ちょっとした変わりもの」ということになる。
さて、今回のテーマは「日銀と財務省のメッセージを読み取り始めた人たち」である。メディアに流されず自分でメッセージを読み取れる人は時代の移り変わりを感じ始めているに違いない。
以前コメント欄で指摘があったように「AIなど信頼できない」と考える人は多い。自分が理解できないものを恐れて腹を立てるのは生存本能としては自然なことなので非難するつもりはない。こうした人は右派にも左派にも一定数いることだろう。これは車は人を轢き殺す可能性があるから一切使わないという人に似ている。気持ちはわかるが車なしで現代社会は成り立たない。
有名でもなく、声高な政権批判もなく、美しい日本を逍遥するわけでもなく、新しい(かつ不確かな)テクノロジーを「軽薄に」取り入れてしまうブログを読んでいる人は、今の日本では選ばれた人(あるいは変わり者)なのではないか。
さて今回のテーマはアベノミクスの終わりと新しい時代の到来である。現在の日本はアベノミクスの結果として円安かインフレを選択しなければならない時代に入っている。高市早苗総理は総理大臣就任前までは「政治がすべて責任を取る」「アベノミクスは素晴らしい」と主張していたが、密かに観客席に移動し「日銀の政策に期待する」といい出している。
一方で財務省と日銀は「アベノミクスは終わった」という分かる人には伝わるメッセージを発出。金融市場はこれを折り込み始めており商社株など割安感のある株式を買い始めている。
例えば共同通信は「日銀、にじむ利上げ継続姿勢 政府警戒、かじ取り難しく」と言っている。金融市場の専門家にははっきりしたメッセージも共同通信は「滲む程度」にしか理解できていない。さらに政府が「舵取り」すると言っている。おそらく政府(特に高市総理が主語である場合)は「舵取り」はしないだろう。
テレビでは中立的な言い方をすることが多い加谷珪一氏だが専門的な読者が期待できるNewsweekでは全く論調が異なる。「「限度を超えた円安」はさらに進む可能性が高い…「片山シーリング」に効果はあるか?」で、今の政策を「文字通り」実行すれば円安になるとしている。これをテレビで言ってしまうと「何だお前は高市総理の政策を批判するのか!」となりかねない。
加谷珪一氏は
- 今の高市政権の政策を文字通り進めると円安が加速しかねない
- これを防ぐ役割を担っているのがかつて主計官(予算膨張を押し留める責任者)だった片山さつき財務大臣
- 円安は為替介入で防げばいいじゃないかという反論があるかもしれないが、むやみに浪費することはできない
- 浪費は国力の現象につながり、安全保障政策上でも得策ではない
と論理的な解説をしている。特に「為替介入」の議論は感情的で無責任な一部の高市支持者を意識した発言だろう。
冒頭で「当ブログの読者が剥落しているのはいいことだ」と書いた。加谷珪一氏は「経済理論」が感情的で責任を取らない傾向が強い高市支持者に反論されることを恐れて防衛的な議論を行っている。これは「みんな」が変わらないと政策が変更できないからである。
しかし、一部の選ばれた(あるいは風変わりな)人たちは「日本社会が責任を取らないという構造は変わらないのだろう」から、それぞれがシナリオを想定して動くべきだと気が付き始めているのではないか。むしろこれまでの失敗に学び改良された社会システムを構築する学習材料にしたほうがいい。だから過度に防衛的になる必要も落胆する必要もないのだ。
すでに官僚たちはその方向にむけて逃げる準備をしている。
支持率が高い高市政権に逆らうのは得策ではない。しかしながらこのままでは破綻する可能性が見え始めている。だから「私たちは言うべきことをいいましたよ」というエビデンスを残し始めているのだ。
前回ご紹介したように、REUTERSの記事によると高市総理大臣自身は現在の状況がわかっている。
一方、複数の政府関係者によると、高市氏自身は足元の金利や為替の動向に危機感を強めている。片山さつき財務相も同様で、財務省関係者は「政権発足時のように勢いよく財政を吹かせるべきだとの議論は聞かなくなった」と話す。こうした中での積極財政派起用の動きに、前出の内閣官房関係者は「メンバーは城内氏を中心に選定している。積極財政派の主張が最終的にどこまで実際の政策に影響するかは今後の議論次第だ」とも語った。
マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」(REUTERS)
一方で対外的にはアベノミクスの継続を訴え続けるしかない。このため一部の財政拡張派の議論を止めることができてない。
ただ、ここにきて分科会メンバーの選定に政府内から懸念の声が出ている。内閣官房関係者は「城内氏が積極財政派の有識者を分科会メンバーに入れようと躍起になっている」と明かす。城内氏は高市内閣の中でも積極財政推進の急先鋒と言われる。「親会」の戦略会議の委員には、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストや元日銀審議委員でPwCコンサルティング合同会社上席執行役員の片岡剛士チーフエコノミストら大胆な金融緩和と積極財政を提唱するリフレ派の論客が起用された経緯もある。
マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」(REUTERS)
つまり車輪の距離は離れ始めているが、車体は一つしかない。だからこのままゆけば脱線する。ひろゆき氏は「高市政権は詰んでいる」と説明する。事実を冷静に積み上げてゆけば当然こうなる。
高市政権の現状をまとめると、「財政は慎重に」「でも景気は良くしたい」「株価は下げたくない」「インフレは困る」「給付は控える」「でも賃金は上げたい」という、ほぼ詰め将棋の盤面みたいな状態です。
だから高市政権は来年大コケする…ひろゆきが見抜いた「高い支持率に隠された短命で終わる政権の典型的特徴」(プレジデントオンライン)
ここで注目すべきなのは内閣官房関係者が「私(私たち)は両者が乖離していることに懸念を示していますよ」という証拠をREUTERSを通じて対外的に伝えているという点にある。しかし名前や役職は出さない。個人として批判されることを恐れている。
第2次安倍政権では内部の締付けが厳しかった。高市総務大臣の「放送法文章問題」もそうだし、安倍昭恵さんが絡んだ問題は後に森友学園事件に発展した。森友問題はなくなった人やその後のキャリアを台無しにされた人など様々な犠牲者が出たが政治は一切責任を取らなかった。
つまり今回は「事実上の第三次安倍政権=高市政権」になりかねないという事情があるため、積極的に外に情報を漏らして「あの時私たちは言うことを言っていましたよ」というエビデンスを残すことにしたと理解できる。彼らは失敗から学んでいる。ひろゆき氏のように「この政権は詰んでいる」と予想している人は多く「その時のため」の準備を始めているのだ。
その一つの現われが辻元清美氏を通じた「台湾有事発言は高市総理の一存」という回答だった。これも「外務省はやることはやりましたよ」というエビデンスを残すことで組織防衛を図る事例と言える。とは言え、彼らはリスクを犯してまで総理大臣に働きかけることはしない。組織さえ守られれば国益が損なわれても「それは仕方がないし自分たちには関係がない」ことなのだ。彼らは国益ではなく省益を前提に動く。
機関的抵抗が社会正義に結びつくアメリカと違い、日本のエビデンスづくりは組織防衛に終止し、誰も国民に対する責任を取ろうとは考えない。
いずれにせよアベノミクスで約束された未来はこなかったし、誰も責任は取らなかった。だからいくら「アベガー」などと叫んでも問題は解决しない。
選ばれた(あるいは風変わりな)人たちはすでにそのことに気がついているはずだ。誰かがにあてがわれた正解に依存することもなければ「ムリにみんなを変えよう」とおも思わない。状況を適切に判断しそれぞれ冷静に「ふさわしい」行動を取るべきだろう。

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