アメリカ合衆国とヨーロッパの関係が何故か新しい冷戦状態を迎えている。おそらくロシアは大喜びだろうがこちらもよくよく考えてみれば「出口なき閉塞」に陥っているだけと言えるだろう。
グローバル化の揺り戻しは思わぬ形でヨーロッパを揺さぶっている。我々はどこで何を間違えたのか。答えは見えないままだ。
Axiosによると、ことの発端はXに対するEUの制裁金だったようだ。EUは巨大テック企業に対する警戒感を強めている。結果的に攻撃されるのは決まってアメリカ企業である。このためアメリカ合衆国内ではEUに対する不満が高まっているようだ。この現象は「政治とテクノロジー」のエントリーですでに整理した。
しかしながらここにトランプ大統領の個人的な感情が乗ってくる。トランプ大統領は自分の欲望を叶えてくれる人と自分の欲望を押さえつける人を明確に区別する傾向がある。おそらくアメリカの民主党を「意識高い系=自分の欲望を邪魔する人」と捉えており、その文脈でヨーロッパを理解している。そして、それに抵抗する勢力として、ポーランドやハンガリーの移民政策を支援し、ドイツのAfDにもシンパシーを感じているようだ。
この感情と経済的利害が入り乱れて生まれたのがNSSと呼ばれるアメリカの国家安全保障戦略だった。国家安全保障を「文化戦争」の文脈で捉えており冒頭ではモンロー主義の再評価が宣言されている。REUTERSによるとドイツのメルツ首相はこの情緒的なNSSに反発し「ヨーロッパの民主主義はヨーロッパが守らなければならない」と宣言した。確かにフランスやドイツでは兵役を見直す動きがあるのだが財政的には厳しい制約を課せられている。
この文脈に乗りトランプ大統領は再びウクライナのゼレンスキー大統領が「選挙を先延ばしするために戦争を継続したがっている」と根拠なく主張した。ゼレンスキー大統領は領土割譲をきっぱりと拒否。ロンドンの首相官邸で、イギリス、ドイツ、フランスの首脳と会談を行っている。ローマ教皇もヨーロッパの意向を無視してはいけないと政治的な姿勢を明確にした。
ゼレンスキー大統領はアメリカ合衆国が安全を保証してくれさえすればすぐにも大統領選挙を実施することができると反論しており、トランプ大統領との間に意見の一致を見ることができていない。つまりゼレンスキー大統領はアメリカ合衆国の関与こそが出口だと言っている。
この不思議なアメリカ合衆国とヨーロッパの文化戦争を最も歓迎しているのはロシアのプーチン大統領だろう。BBCによると今回のNSSを歓迎している。2014年時点ではクリミアを収奪した悪者だったわけだが、プーチン大統領が暴挙を繰り返すたびにヨーロッパが弱体化してゆく。
しかし冷静に考えるならば、プーチン大統領は国力を削りながらいつ終わるともしれない消耗戦の途上にあるに過ぎない。そもそもロシアは「プーチン」という危うい均衡点の上にかろうじて成り立っている脆弱な存在だ。
つまり冷静に考えてみると「勝者も出口も見えない消耗戦」が続いている。
ベルリンの壁の崩壊を通じて西側世界は抑圧的な東側世界に勝ったとされてきた。にも関わらず今の現状を見る限り我々の世界が「勝った」という実感はない。我々は一体どこで道を間違えたのだろうか?

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