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トランプ政権の新しい安全保障文書と台湾政策

13〜19分

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本日はトランプ政権の新しい安全保障文書と台湾政策について考える。例によって事前にChatGPTで議論を整理したので興味のある方はログも参照していただきたい。

アメリカ合衆国の安全保障政策から戦略的アプローチが消え矛盾が目立つようになった。日本の議論を混乱させないためには日本が主体的に戦略を組み立てる必要があるがおそらく戦略的アプローチはできないので、今後日本の安全保障関連の議論も混乱するだろう。

このNSSの文書について前回は「ヨーロッパとの文化戦争」の側面を強調してお伝えした。しかしその後の分析記事ではモンロー主義への回帰が強調されている。ワシントンDCの業界紙たるThe Hillは次のように書いている。

“After years of neglect, the United States will reassert and enforce the Monroe Doctrine to restore American preeminence in the Western Hemisphere, and to protect our homeland and our access to key geographies throughout the region,” the document states.

What’s in Trump’s new national security strategy?(The Hill)

また、Bloombergはこれは一種の選挙キャンペーンドキュメントであり安全保障について書いたものではないと冷淡に結論づけている。

ブルームバーグ・エコノミクスのシニア地経学アナリスト、アダム・ファラー氏はこの戦略について、「国内の優先事項を推進することを明確に目的とした取引的な外交政策」として、トランプ氏の世界観を忠実に反映したものだと指摘する。

トランプ氏、内向き安保戦略-西半球軸足でインド太平洋重要性低下も(Bloomberg)

これらの記事が示すように今回の文書は安全保障の素人が書いたような内容になっている。これはエスタブリッシュメントの議論を支えてきた戦略家が撤退したからだろう。

しかしエスタブリッシュメントVS安全保障の素人では解像度が低い。そこでアメリカの安全保障の流派についてChatGPTに聞いた。

アメリカには

  • リアリスト
  • ネオコン
  • リベラル・インターナショナリスト
  • アメリカファースト

という意見の違いがあるそうだ。

今回リアリストは明確に排除された。本来積極介入主義(ネオコン)と孤立主義(アメリカファースト)は対立するはずだが、対中協力という選挙キャンペーンに利用できる要素が含まれているため選挙対策としてかろうじて生き残った。

こうなると、前回ご紹介した「中国は日本のフィンランド化を狙っているから」という理由でアメリカ合衆国議会に働きかけるのは逆効果になる。リアリストは議論から排除されているからだ。一方でトランプ政権が極端にアメリカファーストに傾いているのだから、議会はそのバランスを取るために対中強硬派のネオコンが重要になってくるだろうとも考えられる。

しかしここで別の不安定要素が出てくる。それが国内事情と中国の出方である。

まず国内事情から整理する。

安倍政権の失敗が繰り返される可能性がある。特に第二次の安倍政権はアメリカ合衆国と意見が一致していると声高に主張する傾向があった。国内の支持者たちはこのメッセージングを好ましく思ったかもしれないが国内にいる護憲主義者たちを激怒した。更にこうしたメッセージはサイレントマジョリティである「巻き込まれ不安派」を刺激してしまう可能性があるだろう。

高市政権はすでに安倍継承を通じてこのトラックに一歩足を踏み入れてしまっている。

この時点でのChatGPTは「日本も対中強硬路線を強く打ち出すべきだ」と出力している。しかしこの高市政権の態度こそが護憲派を燃え上がらせる燃料になる。

もう一つが費用負担問題だ。

前回の限定的集団自衛権行使容認議論のときには盛んに「日米同盟の維持こそが一番安上がりなのだ」と説明されていた。しかしネオコンは日本が同盟のコストを支払うことを明確に求めている。また今回の文書にも明確に費用負担を求める内容がある。実は別の報道(REUTERS)に書かれている。

米軍だけで担うことはできないため、同盟国が一段の負担を引き受け、集団的な防衛のために一段の支出を行わなければならないとし、こうした取り組みを行えば米国と同盟国は「台湾を制圧しようとする試み」のほか、「台湾の防衛を不能にする行動」を阻止することができるとした。

米、台湾・南シナ海での衝突回避に同盟国に負担増要請 安保戦略(REUTERS)

すでに自民党は「防衛費の財源のために所得税増税」と伝えられている。しかし国内消費者はセカンドハンド(中古)市場を有効活用するなど節約傾向を強めておりいかなる増税も高市政権の離反理由になりかねない状況がある。

ではどうするべきか。

ここでChatGPTは「アメリカの主導で日本が負担を増やす」という議論では軋轢が高まるのだから「自主判断の結果として」地域防衛力の増強を目指していると語るべきだと主張した。

ここでまた別の懸念が出てくる。日本が主導するとアメリカの議会は納得してくれるかもしれない。しかし、中国が「日本は戦前回帰を目指している、ファシストである」と主張しかねない。国内の経済問題を抱える中国は高市政権を統治の正当化のために有効活用しようとしている。

また「中国とアメリカのG2」を主張するトランプ大統領も大国主義・ディール志向が強い。つまり、トランプ大統領がいつかは中国の主張に乗ってしまうのではないかという懸念も生じるだろう。そもそもアメリカ・ファーストとネオコンは相性が悪く、トランプ大統領は容易にに寝返りかねない。

ここまでの議論をフィードして得ることができる結論はよく組み立てられてはいるものの実に複雑だ。「日本が独自で動いている」と「アメリカに言われたからやる」の中間の線を慎重に探るべきだというわけである。日本が置かれている難しい状況がよく分かる。

  • 日本は自主的にアメリカに寄り添う姿勢を示すべき
  • しかしながら日米だけでなく地域の国々をまとめて「地域の安全に貢献する新しい姿」を見せる演出が必要
  • 国際法に遵守し「台湾海峡という公共財を守る」姿勢を強調すべき
  • 中国敵視と捉えられないように現在の秩序を維持するための抑止というフレームを明確に打ち出すべき

様々な箇所に「地雷」が埋まっているため慎重なメッセージングが求められる。

ここまでの議論で感じたのは、アメリカから戦略重視のリアリストが排除されたことで、トランプ政権下の安全保障政策に戦略上の破れいくつもが生じているという点だ。日本はこれに引っ張られないように独自フレームワークを組み立てる必要がある。しかしこれこそが日本人が最も苦手としている作業だ。

おそらく日本人は台湾でなにかあったときにアメリカが駆けつけてくれるかくれないかを気にしている。これが端的に現れたのが共同通信の「米の安保戦略、北朝鮮に言及なし 関係優先、対中も刺激回避」という見出しだ。つまり日本は依然アメリカに心理的に依存している。

高市政権が戦略の打ち出しが苦手であることは、選挙制度改革の議論で改めて振り返ってみたい。これが一方的な決めつけでないとご理解いただけるはずだ。

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