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迷走するウクライナ和平ディールが日本に示唆するもの

12〜17分

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トランプ大統領に近い人達が極秘で作ったウクライナ和平ディールが迷走している。おそらく日本の保守はウクライナ問題にはたいして興味がないのだろうが、非伝統的なトランプ大統領と議会にいる伝統的な保守派の関係を考える上では非常に重要な教材となる。経緯はややこしいが「何となくこんなことがあった」くらいで構わないと思う。重要なのは議会を通じたプッシュバックの部分だからだ。

ただしウクライナを支援している人は「人の命がかかっているのだ」と腹を立てるかもしれない。今回はご紹介しないが今もウクライナに対するロシアの攻撃は続いている。

今回のウクライナ・ディールは国務省(ルビオ国務長官)を外したうえで、トランプ大統領に近いウィトコフ氏とクシュナー氏がロシアの代表を極秘に迎え入れて作った(可能性が高い)ことがわかっている。驚くべきことにBloombergはトランプ大統領も最後まで知らなかったと伝えている。

ルビオ氏がこの計画を完全に把握したのはかなり後になってからだった。トランプ氏も土壇場で報告を受けたが、内容を承認したとされる。ホワイトハウスはこれまでのところコメント要請のメッセージに答えていない。

米ロが水面下でまとめた和平案、ウクライナと同盟国を不意打ち(Bloomberg)

米国務省や国家安全保障会議(NSC)の高官の多くは、和平案について説明を受けていなかった。ウクライナ担当のケロッグ特使も、ウィットコフ氏とドミトリエフ氏が主導する協議から外されていたという。
国務省のピゴット首席副報道官は、ルビオ長官がウクライナの戦争を終結させるための計画策定の全過程に密接に関与してきたと述べた。
しかしロイターが取材した米政府関係者などはこれに反論。ある政府関係者は、和平案にはルビオ氏が以前拒否した内容が含まれていると述べた。

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と作成=関係筋(REUTERS)

しかしながら外交シロウトが作ったこのディールは直後からバックファイヤー(逆噴射)し始める。

まず共和党の重鎮(前の院内総務)と軍事委員会の委員長が「ロシアのウィッシュリストだ」と騒ぎ始めた。これは前回ご紹介した通り。

さらにゼレンスキー大統領が悲壮感をたっぷりと漂わせて(実はこの人もテレビ俳優出身だ)ウクライナはアメリカの支援を失うか尊厳を守るかの二者択一を迫られましたと訴えてみせた。

慌てたヨーロッパ、日本、カナダは「前線の固定は仕方ないのではないか」との結論に達したとされた。つまりロシアの力による現状変更を認めかけたのだった。

状況が混乱するとトランプ大統領は一転して「いやいや実はこれは最終提案ではないんですよ」と曖昧な態度に転じている。

この件でルビオ国務長官がどのような立ち位置にあるのかはよくわからない。これが前回の記事からの大きな変更ポイントかもしれない。前回はどちらかと言えば立場を守るために渋々とディールを引き受けたと書いたが共和党重鎮と協力した可能性が出てきた。

イアン・ブレマー氏のYouTubeにハリファックスのフォーラムの話が出てくる。アメリカ合衆国の高官はトランプ政権に止められて参加しなかったそうだがここに何名かの超党派(つまり共和党を含む)議員が集まりルビオ国務長官とコミュニケーションを取ったようだ。

ポリティコ(ヨーロッパ版)にはこの議論から距離をおいたと書かれているのみ。根拠になったのはルビオ国務長官のXでの投稿だ。ロシアのウィッシュリストでありなおかつウクライナのこれまでの希望も織り込んでいると書かれているのだがゼレンスキー大統領がそう思っていなかったことは明らかである。また別の報道ではこれまでルビオ国務長官の主張と違うことが書かれていたともある。

しかしながらルビオ国務長官は単に超党派の議員たちの怒りを宥めるために話題から距離をおいたのではなく、むしろ超党派の懸念を政治的に利用してトランプ大統領の提案を押し返した可能性もある。

結局、ルビオ国務長官はウクライナと新しい約束を結ぶのだがその詳細は明らかにされていない。ABCによるとこれはトランプ大統領へのレビューが終わっていないからのようだ。発表するのはあくまでもトランプ大統領でなければならない。

さらに、「協議が非常に生産的だったと、双方が同意した。議論は、立場を調整し明確な次のステップを特定するため、有意義な進展を示した。将来のいかなる合意も、ウクライナの主権を完全に維持し、持続可能で公正な平和をもたらさなくてはならないと、双方はあらためて確認した。協議の結果、双方は更新され整理された和平の枠組みを起草した」と、両国は述べた。

ウクライナ和平交渉で「和平の枠組み更新」と米・ウが共同声明 (BBC)

声明には完全な主権という言葉が使われている。これは領土の一体性をアメリカが保証したという意味に受け取るのが自然だが、明らかにゼレンスキー大統領が突きつけられていたリクエストとは異なる。また感謝祭までにすべてを決めなければならないという取り決めもなくなったようだ。

ここからわかることは3つある。

  • まずトランプ大統領は同盟には興味がない。あくまでも彼の興味は経済ディールだけ。
  • 次にトランプ大統領は官僚機構(この場合は国務省)を動かす能力がなく、側近たちはまともな外交戦略が立てられない素人同然の人たちだ。
  • 最後に、伝統的な共和党の重鎮たちが騒ぎ出すとトランプ大統領の気持ちは簡単に変わってしまう。つまり議会共和党や世論を使ったプッシュバックが非常に大切だ。

これを台湾問題に落とし込むと次のようになる。

  • トランプ大統領は日米同盟にも台湾有事にも興味がない。あくまでも彼の興味は経済ディールなので、習近平国家主席と直接結びつきかねない。
  • トランプ大統領は官僚機構を動かす能力がないため、軽率な行動が地域の秩序を複雑化させかねない
  • だから日本が国益を守るためには議会や世論を通じたプッシュバックを行う必要があり、まず日本の世論に十分な説明が必要である。

高市政権は「従来の見解と私の発言には違いがない」というばかりで事態収拾ができていない。このため世論は大きな不安を抱えている。ここは一度冷静になって議論を仕切り直したうえで世論を組み立て直す必要があるだろうと感じる。丁寧に対応しなければ将来に禍根を残しかねない。