時事通信の世論調査でも高市政権は小泉政権以来の高い支持率(63.8%)を記録した。特に外交政策に対する支持が高い。日米同盟の安定した継続を高市総理が確保したとみなされているからだろう。しかしこの高い支持率には一抹の懸念がある。それが近年政治でも見られる「蛙化」である。経済に対する期待の剥落、増税をしないという約束に対する裏切り、強いメッセージが弱まる危険など高市政権には意外と蛙化要因が多い。
過去高い支持率を叩き出した政権は小泉政権、鳩山政権がある。小泉氏は立て続けに話題を提供し続け支持率を維持したが、鳩山政権への高い期待はその後剥落し民主党の政権はわずか3年しか持続しなかった。
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経済に対する期待の剥落
インフレ税に苦しめられた岸田・石破政権下の日本
第一の問題は経済だ。有権者が高市政権に期待するのはこれまでの内閣の方針を劇的に変えてくれると漠然と考えているからだろう。ではこれまでの岸田・石破政権下の経済とはどんな状態だったのか。
2025年2月2日に唐鎌大輔氏が「コラム:GDP統計に見る「インフレ税」の爪痕、夏の参院選の懸念材料に=唐鎌大輔氏」という記事を書いている。
日本のGDPは上昇したがインバウンド政策によるものが多く内需が薄かった。また円安で資金が海外流出しており投資が日本に回りにくい状況が作られている。また円安によって輸入品の物価が上がる状態はさながらインフレ税である。このインフレ税の結果参議院選挙の結果は厳しいものになるであろうと予想されていたが結果的にこの予言は当たっている。要するに有権者の生活実感が上がりにくい構造があり有権者は何らかの答えを期待し苛立ちを強めていた。
高市政権は次の選挙が行われる数年のうちにこのトレンドを逆転する必要がある。
高市総理の経済政策は効果が期待できない
では高市総理の経済政策はトレンドを変えることができるだろうか。
高市総理の物価高対策はおこめ券などのクーポン券を地方自治体経由で配るというものだ。過去の10万円給付のときにはこの内景気浮揚に寄与するのは25%程度と見られている。景気刺激策としては極めて弱いものであり、今後「高市政権の蚊帳の外」に置かれたエコノミストたちから冷ややかなコメントが出てくるものと予想される。曰くあまり効果がない政策を政府が出すとバッシングがあるため地方に丸投げしたという批判だ。
増税をしないという約束に対する裏切り
防衛費増額は国民の負担が増えることを意味しているが、高市総理は「税率は増やさない」と表明している。つまり国民は自分たちの負担が増えることはないが、これまでの最も安上がりな日米同盟というセーフティーネットが維持されると安心している。
アメリカ合衆国のトランプ大統領は台湾に対する対処を表明していない。日米同盟を維持したい人たちは「曖昧戦略の一環である」と主張するのだが、実際のトランプ大統領は中国と日本を同じカテゴリと認識している可能性が高い。どちらもアメリカ合衆国の経済にただ乗りし「儲けてきた」国だと認識されている。台湾に対しても同じ認識を持っている可能性がある。
しかしながらおそらく有権者は日米同盟が頼りになるセーフティネットでなくなりつつあるという現状を他人ごとと捉えるだろう。それよりも問題なのは防衛費の増額が増税に結びつく事態である。
ではそんな日が本当にくるのだろうか。アメリカの中間選挙で共和党が敗北すると議会がねじれることが予想されている。一旦議会がねじれると政権と共和党は対日要求を強める可能性が高い。今までも同様の事例がある。
高市政権が現在高い支持率を得ているのはトランプ大統領の政策がうまく行っているからなのだが、トランプ政権は実はその過程で多くの政治的資源を消費しており時限爆弾のように機能している。
強いメッセージが弱まる危険
最後の問題は強いメッセージングの是非である。これまでの高市氏は数多くいる安倍総理の後継者の一人だったため時折強いメッセージを出して存在感をアピールする必要があった。しかしながら現在の高市総理は一つひとつのメッセージが注目されているだけでなく、高い期待を寄せられている。
安倍晋三氏は総理大臣退任後に行われたオンラインシンポジウムで「台湾有事は日本有事」と発言した。今回の高市発言は自身が安倍晋三氏の正当な後継者であると国内の支持者に向けてアピールする狙いがあったものと考えるのが自然だ。
しかしこの発言はこれまでの「台湾に対する曖昧戦略」を損なうものとなった。曖昧戦略とは台湾に対するアメリカや日本の姿勢を明らかにしないことで計算を複雑化させて攻撃の抑止力とするという戦略である。
高市総理が支持者へのメッセージを優先したことで2つのハレーションが起きた。まず国内的には強いメッセージの発出が抑えられることとなった。また中国の反発も強まっており中国外務省の報道官は繰り返し発言の撤回を求めている。
高市総理に対する期待値は高いため、立憲民主党などの野党が高市総理を貶めようと政治とカネの問題について攻撃してもおそらく大した効果は得られないだろう。しかしながら国民の経済実感が回復しない状況が続けば、おそらく状況は変わってくるものと考えられる。
また中国も現在はアメリカ合衆国の出方を伺っている状況であり日本を過度にトランプ大統領と近づけたくないと考えているはずだ。しかしこうした状況はアメリカ合衆国次第でいかようにも変わりうる。
高市総理は勇ましい発言の割には落とし所を考えていないところがある。この戦略のなさによって高すぎる期待が剥落する可能性がある。日米同盟維持派はSNSによって対中強硬派が刺激されることを警戒しているようだ。高市総理はSNS世論に煽られる形でメッセージングを調整できなくなる。
国民民主党の事例を見ると「熱しやすく冷めやすい=蛙化現象を起こしやすい」支持者が一定数の割合で存在する。つまり高市総理は蛙化層の期待を繋ぎ止めるために次から次へと新しいアジェンダを提示し続けなければならない。
現在、維新の藤田共同代表が「中選挙区」を提案している。一つひとつの議論が破綻しても次から次へとアジェンダを作り出している限り意外と支持者は離反しないものだと感心させられる。ただし彼らが疲れてアジェンダの提示をやめてしまった瞬間にSNSの魔法は解けてしまう。
高市総理は果たしてどの程度蛙化を阻止することができるだろうか。
