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トランプ大統領がジタバタと取引を始める 最高裁判所の関税阻止を巡って

10〜15分

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派手な恫喝を繰り返し世界をうんざりさせてきたトランプ大統領の政策が行き詰まりつつある。最高裁判所で関税に関する審議が始まると、国民に向けて関税は2000ドルの配当になると情報発信した。つまり関税はあなたのトクになるから反最高裁判所に反旗を翻すようにと訴えているのである。

恫喝と取引しか政治的ツールを持たない大統領なりの必死の訴えと言えるのかもしれない。

トランプ大統領がSNSを更新し関税によってアメリカ国民は(富裕層を除いて)2000ドルの配当(pension)を受け取れると主張した。

自分ごとと他人ごとを分離して政治・経済を考える傾向のあるアメリカ国民に「関税はあなたのトクになる」と訴えようとしているのだろう。「富裕層を除いて」と言っているところから中間所得者に向けての訴えであることもわかる。彼らは4200万人の低所得者のことも「他人ごと」と考えているが、関税で恩恵があるのはどうせ高所得者だけだろうと諦めているかもしれない。

これについてABCのジョージ・ステファノプロス氏は意地の悪い質問をベッセント財務長官に向けている。ベッセント財務長官はそもそも関税が内国民課税であって「年金」にならないことは理解している。ベッセント財務長官はこの件についてはトランプ大統領と話をしていないと語り「恩恵にはいろいろな形がありますよね」と話を誤魔化した。

この時ベッセント財務長官は「向こう数年間で数兆ドルの歳入を得ることができるかもしれない」が「しかし、関税の真の目的は貿易の不均衡を是正し、より公正なものにすることだ」と言っている。なぜそんな話をしたのかがよくわからない。

実はこの発言こそが今回のポイントのようである。

最高裁判所は今回の関税措置に反対していると伝わっている。では最高裁判所はアメリカ人の暮らしを心配しているのだろうか?

どうやらそうではなく既得権の維持のためである可能性がある。Axiosからロバート長官の声を拾った。

ロバート長官は予算の権限は議会が握るべきでその源泉は税金であると整理する。しかし外交権限を使ってアメリカ人に直接課税すれば議会権限が制限される。

While Congress has delegated powers to the president to deal with foreign policy, Chief Justice John Roberts said “the vehicle is imposition of taxes on Americans, and that has always been the core power of Congress.”

Trump’s tariffs run into revenue problem at the Supreme Court(Axios)

このように大統領が関税を自由に操作できるようになると「税外の直接収入が得られるようになる」と懸念する。

“It’s been suggested that the tariffs are responsible for significant reduction in our deficit. I would say that’s raising revenue domestically,” Roberts said.

Trump’s tariffs run into revenue problem at the Supreme Court(Axios)

つまり表向きはアメリカの憲法秩序(三権分立)が脅かされることを懸念している。この議論を推進しているのはロバート長官とトランプ大統領に任命されたが一定の距離を置く保守派のゴーサッチ判事だ。

では最高裁判所は本当に議会のことを心配しているのだろうか?

最高裁判所は大統領に強い免責特権を認めることで、バイデン大統領時代に訴追されていたトランプ候補の政治生命を維持している。バイデン政権の継続が白人・キリスト教中心のアメリカ社会に不可逆的なダメージを与えかねないという懸念があったとしても不思議ではない。つまりトランプ大統領はツールとして利用価値があるものとみなされていた。

しかしながら強い免責特権と大統領襲撃未遂事件の結果、トランプ大統領は自分は神に選ばれたのだから何をしても構わないと考えるようになった。

地裁レベルではこれに腹を立てる裁判官が多く立て続けに執行差し押さえが続いているのだがトランプ大統領はこれを無視して暴走している。最高裁判所は拙速な地裁を抑えつつ司法の権威を守るために板挟み状況に陥っている。

結果的に最高裁判所の「免責特権認定」が司法の権威を揺るがしていることに間違いはなく、今になって大慌てしているのではないかという気もする。白人・キリスト教中心の社会を保持したいという彼らの欲求が結果的に憲法秩序を破壊している可能性がどうしても拭いきれないのだ。

ベッセント財務長官は論戦を維持するために「関税は税外収入狙いではない」といいたいがトランプ大統領はその論戦を理解せずベッセント財務長官の発言を台無しにしている。さらに最高裁判所戦っているバケモノも実は自分が作り出した存在であり、それは彼らの隠れた願望の現れだったのかもしれない。

ただしトランプ大統領の関税政策が破綻すると、今度は別の外向的成果を求めるようになるかもしれない。日本はすでに5500億ドルの白紙小切手をアメリカに手渡しているがそれがどのような形で使われるのかについては法的拘束力がなく曖昧な覚書しか取り交わされていない。