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今すぐ食糧支援を再開しなさい 裁判官が強い口調でトランプ大統領を叱責

9〜13分

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アメリカ合衆国の連邦政府が閉鎖されてから37日が経った。裁判所がSNAPと呼ばれる食料支援の再開を命じたがトランプ大統領は「民主党が連邦政府を再開するまでは応じない」としている。貧しい人々の命を人質に政治的妥協を迫りつつ「華麗なるギャツビー」をテーマにした豪華な晩餐会を開いており、有権者も次第にこれはなにかおかしいなと気が付き始めたようだ。徐々に離反の動きが広がっている。

この問題は単純に人々がトランプ政権の残虐さに気が付き始めたという問題ではないという点に留意が必要だ。有権者は自分の問題と他人の問題を区別している。他人の問題には冷淡だが「自分ごと」と気がついた時点で投票行動が変わる。そして何を自分ごとと考えるかは人それぞれである。

アメリカには連邦政府に貢献する州と援助に依存する州がある。しかし依存する州は減税に着目し共和党を支持する傾向がある。福祉は「他人ごと」で減税は「自分ごと」なのだ。ただし食料支援(アメリカ版の生活保護だ)に頼る人は4200万人もおり決して他人ごとではない。

トランプ大統領はSNAPを民主党に対するカードとして利用しており、これはすなわち貧しい人々の命を人質にとって民主党を脅していることになるが、所詮他人の命だと考える人が多いのだ。

これに対してロードアイランド州のジョン・J・マコーネル・ジュニア (John J. McConnell Jr.) 判事が差止命令を下した。ロードアイランド州の判事だが連邦政府の政策が関与している場合は差し止め権限がある。

トランプ大統領はロードアイランド州を管轄する第1巡回区控訴裁判所に控訴している。仮に第1巡回区控訴裁判所の判断に納得がいかない場合には最高裁判所の控訴される可能性がある。最高裁判所は上訴を拒否する権限も持っている。

現在トランプ政権と司法の間には独特の緊張関係があり、裁判所で政権に不利な結果が出ても政権がそれを無視することが続いている。

福祉を他人ごとと考えるアメリカ人はSNAPの問題をさほど深刻に捉えていないようだが、もちろん別の変化も起きている。

第一の変化は「社会主義」に対する認識の変化だ。東西冷戦を背景にしてアメリカ合衆国では「社会主義=悪」と考える人が多かった。こうした考え方を持つ中高年は今でも多いようだ。一方で東西冷戦構造が崩壊して以降に生まれた人たちは社会主義を北欧型で捉えることが増えている。これがニューヨーク市でマムダニ市長誕生の原動力になったコミュニティ型の「民主社会主義」だ。

4200万人が明日の食糧を心配する中でトランプ大統領は華麗なるギャツビーをオマージュした晩餐会を開いている。大学を卒業した時点で多額のローン負債を抱えてしまう今のアメリカ人がこの状況(アメリカ型資本主義)をおかしいと考えてもなんの不思議もない。

次の変化は経済問題の捉え方である。現在アメリカ合衆国で経済問題と言われているのは「生活に余裕がない」とか「住宅が購入できない」などの物価高問題である。AxiosはこれをAffordability(余裕)の問題としており、この方がわかりやすい。得に民主党支持者と無党派層の間にAffordability(余裕)の問題を自分ごとと考える人が増えている。トランプ大統領はバイデン政権を批判する文脈でインフレ対策を取り上げていたが自分が政治を担当するようになると「インフレなどない」といい出すようになった。

一方で政治と宗教の間の境目も曖昧になっており、現在の政治情勢を経済問題ではなく文化・宗教問題だと捉える人も増えている。つまり経済に余裕がなくても「文化・宗教のほうが大切だ」と考える人がいるのだ。異端とされた人々が当時の大衆メディアだったラジオを通じて福音派と出会いこれが今でもポッドキャストなどで広まっている。共和党は福音派と融合しつつある。このプレゼンテーションは「政治家は宗教を利用してきたが徐々に取り込まれつつあるのかもしれない」としている。

現在のアメリカ合衆国に分断問題があることは確かなのだが、実はその対立構造のフレーム化は人によってさまざま。日本から見てアメリカの政治状況がわかりにくいのはおそらくこのためだろう。

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