インフレ時代が始まり日経平均は4万円から5万円へと急進した。日本経済に期待が集まっている証拠だが賃金上昇が伴わないとやがてスタグフレーションに入ると懸念されている。
そんな中、あまり目立たないニュースを見つけた。企業が溜め込んでいるとされる80兆円の「内部留保」について金融庁が検討を始めた。この議論が金融庁の目論見通りに進めば賃金上昇が見込めそうだ。
日本共産党が常々主張してきた「内部留保悪玉論」が実は正しかったという証左でもある。資本主義を否定したい共産党が最もよく資本主義を理解している。
高市総理の所信表明演説と代表質問が行われた。高市総理が主導する組織のメンバーに財政拡張派が多く維新の藤田共同代表も日銀に金利を引き上げないようにと牽制している。自分たちがコントロールできるところをコントロールして需要を喚起したいのだろうが需給ギャップが埋まる中で供給サイドを無視して需要を増やせば単にコストプッシュ型のインフレが加速する。つまり非常に筋が悪い話ばかりが伝わってくる。
そんな中、REUTERSに目立たない記事を見つけた。REUTERSは「日本企業の「現預金ため込み(キャッシュ・ホーディング)」問題への関心がにわかに高まっている。」と書いている。これは関心が高まっておらず「これから関心を高めてほしい」というときにも使われる表現だ。REUTERSとしては議論に国民的関心を集めたいのかもしれない。
高市総理も賃金上昇のきっかけとして期待を寄せているようだが、政権の中心課題にはなっていない。
高市早苗首相も著書などで同問題に注目しており、企業への働きかけを通じて人的投資に資金がより多く回るようになれば、持続的な賃上げの実現につながる可能性がある。
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そもそもこの課題は金融庁が推し進めてきた一連の改革の一環。政治家の関心はあまり高くなく、むしろ抵抗勢力として邪魔をしていた。
当初、企業が溜め込んできたいわゆる「内部留保」について金融庁は課税を検討したようだが、麻生太郎財務大臣(当時)らの抵抗によって実現していない。GEMINIの整理によれば金融庁は二重課税問題の逆風を避けるための争点を内部統制に移したようである。
2023年にPBRが1未満の企業(つまり資産を活用できていない企業)に対して改善を求める通告を出したが、企業はむしろ発行株式を購入する自社株買いなどで対応しているという。ただ市場の効率化という意味では評価され4万円台回復の大きな原動力になったことは間違いがない。今日本株のバリューは見直されているがこんな工夫もあったのだ。
東京証券取引所は3月、プライム市場に上場する企業の約半数と、スタンダード市場の6割に上る企業の株主資本利益率(ROE)が8%未満、株価純資産倍率(PBR)が1倍未満であるとして、資本収益性や成長性といった観点で課題があるとし、改善に向けた開示などを要請した。
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今回はこの改革の一環として5年に一度の指針改訂に向けた議論が始まっている。日経新聞の記事が書かれた当時はまだ石破内閣だったのだから、政治とは別のところですでに賃金アップにつながる可能性がある施策が検討されていることになるが、メディアは自民党の総裁選挙と連立交渉に夢中であまりこの記事を評価してこなかった。
金融庁の改革が目論見通りに進めば投資家の監視にさらされた企業が戦略的人材(すべての労働者が優遇されるわけではないが……)に積極的に投資をすることになるかもしれない。市場原理で成長産業への投資が集まるのであれば日本を再度成長させる原動力になるだろう。
極めて皮肉なことだが「日本企業は資産を活用できていない」と最初に指摘したのは日本共産党だった。当時の自民党政権はむしろこれを嘲笑っていた記憶がある。日本共産党は「敵」として資本家とアメリカ(特に軍)を研究している。客観性があり時々正しいことを言う。
ただしやはり日本共産党が資本主義をあまり理解しているとは言えない。実は内部留保は「資本」に着目した考え方であり今回のキャッシュホールディングは「資金」に着目している。GEMINIの整理によれば貸借対照表の右と左で実務家にとっては全く違う意味になるそうだ。日本共産党の提案は批判に傾きがちなため抵抗勢力を突破できないという弱点を抱えているようだ。
今後の注目ポイントは高市政権がこの問題を「賃金上昇のキードライバー」と捉えて政治的な檜舞台に押し出せるかなのだろうがあまり期待できそうにない。むしろリフレ派が力づくで経済の好循環を作り出せると信じているようだ。
高市早苗政権がリフレ派のエコノミストを相次いで政府の関係会議のメンバーに起用した。高市氏が掲げる「責任ある積極財政」の推進を狙った人事で、金融市場では積極財政派の登用による景気の下支え期待と、円安進行などの懸念の双方が浮上している。財政規律を重視する財務省からは早くも、予算編成への影響を警戒する声が聞かれる。
マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省は若田部氏の影響力に身構え(REUTERS)
自身の政治とカネの問題でお行儀悪さを発揮した藤田文武共同代表も「日銀は利上げするなよ」と牽制している。どうもこの人には恫喝グセがあるようだ。
日本維新の会の藤田文武共同代表は5日、政府が投資促進を含む経済対策を進めようとしている時に、日本銀行が利上げを急げば経済成長を妨げかねないと述べた。実体経済への影響を見極めながら適切な時期に行うよう促した。
維新・藤田氏、日銀「すぐに利上げ」なら経済にブレーキ-適時判断を(Bloomberg)
高市総理はかなり筋の悪い人たちに囲まれていることがわかる。ここは野党の中から高市政権を誘導してくれるような議論が起きることを期待したいところである。
繰り返しになるが賃金上昇が起こらないままでインフレだけが加速すると日本は早晩スタグフレーションに陥ってしまうだろう。賃金上昇は日本経済にとって喫緊の課題である。
