トランプ大統領がナイジェリアへの攻撃準備を国防総省に指示した。トランプ大統領の目をナイジェリアに引き付けることによって利得を得ようとする人がいるのだろう。ただしトランプ大統領自身はおそらくナイジェリア問題を理解しておらず何を目指しているのかもよくわからない。
トランプ大統領は狂人戦略の使い手であると表現される。狂人戦略は何らかの取引を前提としている。そして、ゲームに勝つためには自分の手の内を見せないことが重要だ。だから「狂ったふり」が効果的になる。
例えばトランプ大統領はベネズエラへの攻撃を示唆しているが、ベネズエラと何らかの取引をしようとしている形跡は認められない。むしろ南米大陸を「選挙区」と見立てたうえで、親米・自由主義=共和党、反米・社会主義=民主党と見立てている。大統領の目的はできるだけ多くの「親米・自由主義」国を作ることなのだろうと理解することはできるのだが、では勝ってから何を実現したいのかが見えてこない。
トランプ大統領は「とにかくなんとしても目の前のゲームに勝ちたい」という漠然とした気持ちしか持たない。このため、カリブ海や太平洋で小舟を空襲してみたり、ベネズエラの国内に侵攻するなどと発言する。
おそらく最も混乱しているのは国防総省だろう。さまざまなプランを検討させられているようだが、大統領が何を目指しているのかがさっぱりわからない。
しかしながらそれでもまだトランプ大統領は麻薬問題を解決したいのだろうと合理化することは可能だ。
ナイジェリアにはイスラム教徒とキリスト教徒が暮らしており北部では両者が等しく犠牲になっている。つまりキリスト教徒だけが狙い撃ちにされているという事実はない。にも関わらずトランプ大統領は(おそらく誰かから吹き込まれて)イスラム教徒がキリスト教徒を攻撃しているという構図で問題を理解してしまったのだろう。こうなるとトランプ大統領が一体何を目指しているのかがさっぱりわからなくなる。
こうしたトランプ大統領の迷走ぶりは「短期ゲームで勝ち続けることが目的化している」と合理的に捉えることができる。
その一つの事例がニュージャージー州とバージニア州の知事選である。共和党は接戦州であるバージニア州で共和党が勝利できれば、共和党は連邦政府閉鎖は効果があったと考えるだろう。一方で民主党は長い時間をかけて民主党化したバージニア州での勝利を宣伝し「人々はトランプ大統領と共和党にうんざりしている」と言いたい。
この問題に別の意味を与えようとしている人がいる。
それがソ連崩壊を言い当ててたことで知られるエマニュエル・トッド氏である。トランプ大統領は内側と外側の区別がつかなくなっており、これは帝国崩壊時の典型的な状態であると分析している。つまりアメリカ合衆国という帝国が崩れ去ろうとしており「狂った」トランプ大統領はその結果であるというわけだ。
エマニュエル・トッド氏はアメリカ合衆国は帝国化のコストを賄えなくなり内部から崩壊するだろうと言い続けている。一方でその予言がなかなか実現できておらず「狼少年」のように扱われることもある。Claudeにその主張についてまとめてもらった。
トランプ大統領の現象が単なるゲームの変質なのか不可逆的なアメリカ帝国の崩壊なのかは意見の別れるところだが、実際にアメリカ合衆国の民主主義は一種の機能不全を起こしている。連邦政府は閉鎖されたまま。すでに管制官の不足などが起きている。
ABCニュースはアメリカ人の「大多数」がアメリカ合衆国は間違った方向に進んでいると感じているとのアンケート結果を紹介している。この大多数は約2/3に当たる。つまり裏を返せば1/3はトランプ大統領の指導によってアメリカ合衆国は正しい方向に進んでいると考えていることになる。
アメリカ合衆国の政治は硬直化した小選挙区・二大政党制のもとで問題解決よりも選挙を優先する状況が作られている。さらに議会構成に影響を与えるのは多数派ではなく、数少ない接戦州の数少ないエリアの有権者の限られた動向である。
結果的に少数の岩盤支持層がアメリカ政治を振り回すような状況が生まれており、連邦政府は一ヶ月以上も閉鎖されたままだ。
あるいはソ連のような派手な崩壊は起こらずにいつまでもさまよい続けるというゾンビのような国が生まれつつあるのかもしれない。
