トランプ大統領が核実験の再開を指示し波紋と混乱が広がっている。今回はこれをきっかけにしてトランプ大統領の戦略の基礎とその帰結について考える。まずは基本的コンセプトを整理する。
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ロシアが「核実験」をアメリカ合衆国に通告した。これに応える形でトランプ大統領が核実験の再開を打ち出した。ロシアに対する反応だが中国にも働きかけを要請したいという狙いがあるものと見られているそうだ。
ロシアの実験は厳密には発射能力の確認だがこのときにトランプ大統領が不用意に「核実験」という言葉を使ったことで波紋が広がっている。厳密には核爆発を意味する言葉だからだ。
このエントリーでは核実験の是非やアメリカ合衆国で起きている混乱については触れない。代わりにそもそもなぜトランプ大統領が「売り言葉に買い言葉」という対決を好むのかを考える。
1)対立構造を作り出したうえで、2)不確実性を積み上げて、3)利益を取る
生成AIの登場で思考を整理して提示するのが非常に簡単になった。今回はChatGPTを使った。
トランプ戦略が有利になる条件
有利になる条件
- 市場がゼロサムに近い(ニューヨークやラスベガスの土地開発)とき
- 情報の非対称性が大きくライバルがリスクを過剰評価するとき
- ブランドや話題性によって収益が得られるとき
不利になる条件
- 市場が協調的で長期的信頼によって動くとき
- 資金コストが高く、時間が勝負の局面
それでもゲームが成り立つのはなぜか?
こうしたゲームが繰り返されると最終的には相互不信から全体の利得が低下する「囚人のジレンマ」という状況が作られる。短期ゲームを温存するためには次のようなゲームづくりが求められる。これがいわゆるトランプ大統領がよく使う「ディール」である。
- ゲームを分断し全体ではなく「自分または特定の選挙区」の利得を評価基準にする
- ゲームが囚人のジレンマを起こさないように1回限りの勝負として扱う
トランプ大統領は核実験を一回限りのディールと考えている
この整理によればトランプ大統領は核実験を一回限りのディールと考えている。目的は相手を揺さぶることだが、揺さぶられたなら対抗措置を講じなければならない。ロシアがエスカレーションを仕掛けてきたのだからそれに応じて動じない姿勢を示すべきなのだ。
ところがトランプ大統領は軍事にはさほど興味がないため「核関連の実験」と「核実験」の違いがわからなかった。このためアメリカの政界は大騒ぎになっている。特に副司令官から司令官への昇任がかかっているリチャード・コレル副司令官には大いなるとばっちりだったようである。
しも米戦略軍のリチャード・コレル副司令官が、30日に予定されていた司令官就任のための議会上院の委員会公聴会を無難に乗り切れると思っていたのならば、その希望は前夜に完全に打ち砕かれた。トランプ米大統領(共和党)がソーシャルメディアで突如、「米軍に対し核兵器の実験を開始するよう指示した」と明かして世界を驚かせたからだ。
焦点:トランプ氏の核実験再開指示、突然の発表に米政界混乱(REUTERS)
誰も「王様は裸だ」とは言えない
アメリカ合衆国はすでに核実験データを蓄積している。新しい核実験を抑え込むことで先行者利益をできるだけ長引かせようとしてきた。トランプ大統領が核実験に踏み切ると後発の国(特にまだ核兵器開発を成功していない国)も同様に実験ができることになるためアメリカの優位性が脅かされる。
とはいえトランプ大統領に対して「あなたは間違っている」といえる人はいないのだから、トランプ大統領を刺激せずに事態をどう沈静化させるかについてホワイトハウスは頭を悩ませているようだ。「王様は裸だ」とは誰も言えないのだ。
ただ仮に事態がエスカレートすると誰も全体を制御できなくなりその場限りのゲームを繰り返し裏切りを重ねたほうがトクという環境が作られる。実際に今我々が見ているのはそんな世界である。

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