日経平均が50,000円台に到達した。一部ではバブル懸念があるようだがおそらくこれはバブルではないだろう。むしろ投資環境と消費環境の乖離が起きており相対的に消費環境が抑制されることこそが問題だ。
日経平均が50,000円台を越えた。
株価上昇要因はアメリカと中国の貿易戦争が沈静化する兆したがあるためなどと説明され、証券会社はお祭り気分である。
しかしながら中国とアメリカの貿易戦争が根本的に解決したわけではない。そもそも危機のないところに危機を作り出しもとに戻ったことを「解決」と言っているにすぎない。アメリカは短期ディール志向を強め中国は自強自立を推進している。
にも関わらず株価が上がっているためこれは単なるバブルなのではないかと考える人も多いようだ。
しかし、おそらくこれはバブルではないと思う。むしろ通貨の価値が下落していると考えるべきだろう。実物資産の金の価値が上昇している。
これについて考えてゆくと「投資」と「消費」という2つの経済が生まれていることがわかる。別の項目でこの行きついた先であるアルゼンチン経済についても整理する。
日本では安倍政権が事実上の財政ファイナンスを行い通貨の価値を引き下げるような政策を推進してきた。結果的に円安が進んだが製造業が海外に流出しているため輸入物価の高騰の影響が相対的に大きくなった。これは日本のインフレの大きな原因の一つでありアベノミクスの「成果」といえる。
安倍政権を支持し高市政権に期待するような人たちは「量で優勝を決める」ところがある。安倍政権は長期政権なので一番偉かったと主張する人もいる。産経新聞も5万円は通過点であって今後株価は更に上昇するだろうと沸き立っている。株価が上がっているのだから高市政権は「良い政権だ」と言いたいのだろう。
個人的には4月の「解放の日」近辺で下落した商社株の価値が50%上昇している。仮に100万円投資していれば50万円「儲かった」計算になる。またドル円が130円だったときに「今後150円に向けて上昇する」と言われて半信半疑でドルに変えたが実際に現在は153円台をつけている。
ここまで株価と米ドルが上がってしまうと怖くてこれ以上買い進めることはできないと感じる。とはいえ今後円が強くなるという予想も立てにくいため「売るに売れない」という状況である。
我ながら「貯蓄としての投資」という側面が強いと感じる。つまり個人レベルで見ても株高=景気上昇にならない。おそらくこれは企業も同じだろう。つまり日本で資金を調達しても投資先は海外になる。
円安が進むと物価は上昇する。しかし物価高の要因はこれだけではない。気象条件の変化でコムギ、トウモロコシ(家畜の肥料になるので肉の値段が上がる)などの価格も高値傾向。またコーヒーも干魃の影響を受けて価格が値上がりしている。アメリカ合衆国では関税の影響もありコーヒーの値上がり続いているそうだ。
また国内では日銀の植田総裁が指摘したように人材が枯渇している。これも賃金上昇の要因になる。高市政権は労働時間規制の撤廃を訴えているが労働界から「働き過ぎ」を助長するのではないかとの懸念が出ている。また高齢者の定義を見直せば労働参加率が上がるのではないかという乱暴な見立ても懸念材料だ。
アメリカ合衆国は資産価値が上がると消費が増える傾向にある。しかし日本人は株式投資を将来に対する投資と捉える傾向が強いため株価が上がっても国内消費がそれほど活発になることはないだろう。むしろ投資に張り付いた資金が国内に還流しなくなる傾向が強い。さらに物価高により将来不安が強まるとさらに「貯蓄による消費抑制傾向」が働く。また投資環境もボラティリティが高く継続した資産上昇が見込める状況にない。結果的に消費と投資が結びつかない。これがいわゆるNISA貧乏だ。
The Priorityを整理すると次のようになる。
- 市場は高市政権で政権が安定することを期待・好感して株高になっている。
- 株価の上昇スピードはやや強すぎるが、かといって日銀が株価を下げるようなトーンのメッセージを出すのは難しいだろう。
- 債権のフラット化(短期金利が上がり長期金利が下がる)を考えると日本売りのではないため円安が闇雲に進行することはないだろう。
- アメリカの経済指標がまだらなため、日銀内部では様子見の声が強い。
総合すると投資市場として滅茶苦茶な状況にあるわけではない。当座これは安心材料だろう。問題はやはり投資と賃金・消費が乖離しているという点にある。資本主義を円滑にするための循環がきちんと作られておらず、高市政権もこれに対する十分な回答を準備しているようには見えない。
コメ価格問題で分析したようにこうした政治環境は「これまでの政策は間違っていないがまだ成功していないだけだ」という官僚の自己弁護を招く。農林水産省「はえぬき」大臣が暴走しているが、これが財務省や経済産業省に飛び火しないことを祈るばかりだ。
今後防衛投資が増えると特定セクターの株価が更に上昇する可能性はあるがこれが消費者に還元されるかどうかは未知数。また現在政権が落ち着いた経済財政政策が出せると見られているとすればこの期待が破られたときに拡張的な財政がインフレを引き起こす可能性も高い。
高市政権は「強い日本を取り戻す」といいながら、地域の里山はじわじわと崩壊している。政策が行き詰まれば株価だけが上昇し消費者の暮らしはデフレマインドに支配されたままの状況にとどまるのかもしれない。ただし与党に投票しても野党に投票してもさほど結果に変わりがないとすればせいぜいNISA枠に頼って自己防衛を図るしかない。
