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ニューヨーク市長選で社会民主主義者のマムダニ氏が躍進

9〜13分

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まもなく、ニューヨーク市で市長選が行われる。今回の注目ポイントは社会主義の躍進である。金融の首都であるニューヨーク市は「資本主義の権化」のように思えるが実は社会主義に傾倒する人たちが増えているようだ。このため社会主義者の市長が誕生する可能性がある。

トランプ政権の極端な行政手法を見ていると「民主王政」とでも呼びたくなる。行政が司法と議会を圧倒し行政の意思決定はトランプ氏の独裁によって支配されている。

背景にあるのが共和党の変質だ。政党が作りやすかったフランスでは伝統的な右派・左派がより過激な政党に置き換わったが、アメリカではティーパーティーなどの草の根運動やMAGAによって内部から変質した。

現在トランプ大統領はホワイトハウスの東翼を完全に破壊し「トランプ様式」による建て替えを行っている。資金はトランプ大統領の支持者が捻出しているとされているが、トランプ大統領個人に対する「和解金」も流用されているそうだ。トランプ氏によって変質させられた共和党の異様さを象徴するような建造物にはトランプルームという名前がつくのではないかと言われている。仮にこれが実現すれば悪趣味で金ぴかなトランプ様式の建造物とともに共和党の変質が歴史に刻まれるのかもしれない。

同じように民主党も変質が進んでいる。じわじわとではあるが社会主義に傾倒する人達が増えているそうだ。

民主党からは州知事経験者のクオモ氏が出馬したが予備選で勝つことができなかった。代わりに最終候補になったのがウガンダ出身のイスラム教徒で社会民主主義者を名乗るマムダニ氏だった。

これに対して対立候補たちは「マムダニとイスラム教過激派」を結びつける印象操作に躍起になっている。人種攻撃というとMAGA化したトランプ共和党の得意分野という気もするのだが、本来民主党系候補であるはずのクオモ候補もこれに乗っている。

ラジオパーソナリティが「新しく9.11のような事件が起きたらマムダニ氏は拍手喝采だろうねえ」と主張。クオモ氏はこれに乗り笑って同意した。

実はニューヨーク市のイスラム教徒たちは9.11の後で激しい差別に直面している。東西冷戦の後に敵を必要としていたアメリカ合衆国が「イスラム過激派とのテロとの戦い」を前に押し出して世界戦略を優位に進めようとしてきたという歴史がある。

このためマムダニ氏はクオモ氏の攻撃に感情的なメッセージを送りこれまでのイスラム教徒の苦境を訴えた。

クオモ氏はこれに対して「マムダニ氏は世論を分断させようとしている」と攻撃しているが、冷静に判断するならばマムダニ氏を悪魔化したのはクオモ氏の方だ。

連邦議会民主党もマムダニ氏を扱いかねているようにみえる。

マムダニ氏は社会民主主義を標榜し過去に反イスラエル的な発言も行っている。このためハキーム・ジェフリーズ下院院内総務のエンドースが遅れた。分断を背景に民主党がより左寄りにシフトすることを恐れているのかもしれない。

結果的にジェフリーズ院内総務は次のようなメッセージを送っている。一見するとエンドースのように聞こえるのだが実際には「分断を助長するような発言を避け現実的な政策を行うなら支持をしても構わない」と言っているように感じられる。

「マムダニ氏は一貫して物価高危機への対応に重点を置き、自身を支持しない住民も含め全てのニューヨーカーのための市長になると明言している」とジェフリーズ氏は表明。同氏の声明はニューヨーク・タイムズ紙が報じた

NY市長選、「民主社会主義者」マムダニ氏を民主党トップがようやく支持(Bloomberg)

新しい政党が作りにくいアメリカ合衆国では極端な国粋主義化(MAGA)と資本主義に対する懐疑・持続可能整体する不安に引き裂かれたような状態になっているとわかる。

日々のニュースを見ているとトランプ大統領のニュースが目立つため民主党がましに見えるのだが、おそらく内部はかなり動揺しているのだろう。

民主党と行動をともにすることが多い無所属左派のバーニー・サンダース氏はハリス陣営は労働者階級の声に耳を傾けていなかったとの批判を強めているそうだ。サンダース氏は今の民主党は一部の富裕層の影響を受けすぎておりこれが大統領選挙の敗北原因になったと主張している。

アメリカ合衆国の有権者の4割は物価高対策を求めているが共和・民主両党ともに十分にこの期待に応えられていない。ジェフリーズ院内総務は過激化と分断を抑えて、民主党こそが現実的な問題に対応できるということを示したいのかもしれないが、その試みは十分に成功しているとは言えない状況である。

サンダーズ氏は以前より若者の間で支持されてきたがメインストリームになりきれていなかった。今回のマムダニ氏の事例は初めて民主党左派がメインストリームになった事例だがそれだけに「激しい分断」にさらされている。今後彼の躍進が民主党にどう広がってゆくのかはまだまだ未知数と言えるだろう。