今回の連立の動きを見ていて「実に興味深い」と思える出来事があった。それが国民民主党と公明党の政策連携に伴う支持者からの反発である。イデオロギーや政治教育が不十分な日本で「日本の誇りを取り戻す」チームと「反日」チームが分かれつつある事がわかる。
嫌なことを避けつつ解決の果実だけが欲しいという気持はよく分かる。しかしおそらくこれは破綻への一本道だ。
おそらくメディアや政治を見ている人にとっては想像外の反応だったのではないか。当事者の玉木雄一郎氏もこう言っている。
そもそも政策連携があたかも「連立政権」のように捉えられていることがわかる。言い換えれば支持者たちは今回の動きを「国民民主党の非主流化」と捉えたのだ。
戦後の日本の政治状況を理解するのは簡単だった。
世界には自由主義・民主主義陣営(=西側社会)と共産主義(=東側社会)という区分けがあったからだ。多くの日本人は自分たちは成功している西側陣営の一員であって経済的に立ち遅れた東側陣営は劣った体制だと感じていた。この東側との戦いは1989年に一旦消滅する。多くの日本人がベルリンの壁の崩壊に喚起した。
日本人は学校で政治討論は行わないため日本人の政治に対する認識は極めて脆弱だ。このためかつての「東側陣営」が中国に置き換わってしまったのだろう。安倍晋三・高市早苗氏や「保守」は日本の誇りを取り戻すために戦っており、それに対する敵対勢力はすべて「反日」であるという認識ができつつあるようだ。
こうした単純化した見方は自民党政権から「異物」である公明党を排除すべきであるという論調によく現れている。
政治のプロは公明党の組織的支援がなければ自民党は票を減らすだろうと見ているが保守の論調を見ていると「高市氏が政権を担うことで保守が復権したのだから自民党は公明党の支援なしで勝てるようになるはずだ」と考える人が少なくない。
さらに、高市早苗氏に対抗した小泉進次郎は反高市勢力であってそれを支援してきた田崎史郎氏は「創価学会の信者である」という主張も見られた。テレビ朝日で「僕ら公明党」と聞こえる発言があり「これが動かぬ証拠である」とされている。公明党とは中国と結びついており「中国の司令を受けて」政権から離脱したのであるという言説もある。だいたいこのあたりが「ざっくり」まとまっていることがわかる。
ReHacQプロデューサー・高橋弘樹氏が「陰謀論みたいなのって、ちゃんと権力者とか政治家が答えることも大事だと思ってて、あえて聞きますね」と前置きした上で「(連立離脱)直前に中国大使さんと会ったんでしたっけ。『中国大使から何か言われたんじゃないですか』みたいな質問がいっぱい来てるんですよ。どんなこと話されたんですか?」と投げかけた。
連立離脱直前に中国大使と面会の公明党・斉藤代表、高市氏についての内容は「そ、それは、あのー…控えさせて」(よろずー)
そもそも日本が失われた30年から抜け出せなくなったのはなぜか。
もともと日本はアメリカ合衆国の世界戦略に沿って資本主義・自由主義のショーケースとされていた。しかしアメリカ合衆国は次第に自由主義陣営を経済的に支えることができなくなり1985年にドル高を是正するプラザ合意が行われる。これによって日本の通商条件は大きく損なわれたが円高で資産価値が大きくなったことからしばらく日本人はこれに気が付かなかった。
バブルの崩壊により結果的に日本国内では現状を固定する動きが起きた。それと同時に企業は日本を見限って海外に流出する。この影響を最も大きく受けたのが商都大阪だった。繊維産業の中間工程が中国などに流出し、家電などの製造業も中国・台湾・韓国などとの競争に敗れつつある。
つまり日本の課題はこれまで起きてこなかった「創造的破壊」をいかにして取り戻すのかということになるが、この変化はおそらく痛みを伴うだろう。
現在、物価が再び動き始めている。
成長・インフレ・物価高とも同じ現象の異なる名前に過ぎないが、政治の世界では「国家成長を目指しつつインフレは克服されなければならない」と表現される。つまり現状は変化に対する痛みを感じている人のほうが多い。
いまの問題点はおそらくこの投稿に現れている。日本では再成長が始まった。このため税収は好調に推移している。好調なうちに痛みを伴う改革を実行する必要があるが、自民党は現状維持を求める企業との結びつきを強め改革政党を自認する維新も現状維持に対する協力政党になった。
しかしながらおそらく玉木雄一郎氏はこのロジックを支持者たちに説明できないだろう。日本の不純物が取り除かれれば日本から問題が消えてなくなると盲信する人たちを周りに集め始めた。
ではもう一つの民主党はどうだろうか。こちらも状況は絶望的だ。
現在立憲民主党は物価高対策と政治とカネの問題の解決を優先させるべきだと主張している。しかしこの物価高対策の中身がよくわからない。単なる激変緩和のための国家補助を物価高対策と言っているようだ。仮にこれがインフレ対策であると仮定すると「反成長」ということになる。ただこうした問題を立憲民主党の議員に突きつけても内容のある返事は戻ってこないだろう。おそらく彼らは経済には興味がない。
政治とカネの問題も「政治家が裏金を溜め込むのはズルい」という感情論になっている。おそらく立憲民主党の議員たちは本気出そう思い込んでいるのではないかと感じる。対話ができる知的余地は全く感じられない。
成長が物価高という痛みを伴うように「創造的破壊」とはいっても破壊は破壊なのだから当然痛みは伴う。
このため「日本の中にある不純物さえ取り除けば日本の問題はすべて解決する」と置いたうえで、その代表として「中国と反日」を置いたほうが知的な負荷が低くラクなのだということはわかる。
このため「日本の中にある不純物が我々の成長を阻害している」と考えたい人が増えてしまうのかもしれない。
結果的に「一旦好きなようにやってみて痛い目を見るまでわからないだろう」という結論に落ち着いてしまう。
